クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューベルト:ピアノソナタ(第21番) 変ロ長調 D.960

(P)ウィルヘルム・ケンプ:1950年11月録音



Schubert:Piano Sonata No.21 in B-flat major D.960 [1st movement]

Schubert:Piano Sonata No.21 in B-flat major D.960 [2nd movement]

Schubert:Piano Sonata No.21 in B-flat major D.960 [3rd movement]

Schubert:Piano Sonata No.21 in B-flat major D.960 [4th movement]


王冠の煌めく作品

シューベルトの死の年になる1829年の9月に、わずか数週間の間に遺作となる3つのソナタが書かれました。ハイドン・モーツァルト、そして何よりもベートーベンのソナタ作品の模倣から始まったシューベルトのピアノソナタは、ここにおいて確固とした自らの言葉を獲得しました。
3作品の中でも、通常19番・20番とナンバーリングされるソナタは、シューベルト的というよりは、ベートーベン的なるものの総決算という雰囲気が強い作品です。その意味では、それらに先行するD.850やD.845などの作品よりは後退しているように見えるかもしれませんが、それは一年前に他界したベートーベンへの追悼の意味を込めて書いたためだと言われています。
そして、シューベルトはそれら2作品で内在する「ベートーベン的なもの」を総決算することで、最後の変ロ長調ソナタにおいて真にシューベルト的な世界へと歩を進みはじめたのです。
ただし、その最初の大きな一歩が、シューベルトの人生においては最後の一歩になってしまったところに言いようのない痛ましさを感じてしまいます。

シューベルトはこのソナにおいて、ベートーベンとは全く異なった言葉で音楽を語っています。
彼はもはやベートーベンのように主題を小動機に分解して音楽を構築しようとはしていません。主題は繰り返される転調によって響きを変化させ、その響きの移ろいによってによって音楽は構築されていきます。主要主題はその旋律線を崩すことなく、自立性を保って楽章全体を支配しています。
「シューベルトのピアノ作品の中で王冠の煌めいているのは何よりも変ロ長調ソナタであり、ベートーベン以後に書かれた最も美しいソナタである」という言葉は、決して誉めすぎではないのです。

エオリアン・ハープ


ブレンデルはケンプのことを「エオリアン・ハープ」にたとえました。
「エオリアン・ハープ」とは自然に吹く風によって掻き鳴らされるハープのことです。つまりは、神のはからいでそれが上手く鳴ったときは、誰もかなうものがないほどに見事に鳴り響くと言われています。

つまり、ケンプもまた、神のはからいで上手く鳴り響いたときは、それこそ誰もかなうものがないほどに素晴らしい音楽を聴かせてくれるピアニストだと言うことなのです。
そして、この50年代の初頭に録音された二つのシューベルトのソナタは、疑いもなくケンプが「エオリアン・ハープ」になった瞬間を切り取ることが出来ています。とりわけ、イ短調ソナタ(D.845)は1953年録音なので、デッカの見事な録音技術によって「エオリアン・ハープ」の響きがすくい取られています。
変ロ長調ソナタ(D.960)も悪くない演奏なのですが、さすがに録音年が1950年という事で音質的にはやや厳しいです。

この時代は、テープによる録音が一般化する1952年を挟んで録音のクオリティが大きく異なってくるので、その残念な部分がでてしまっています。
ただし、どちらも、ケンプのシューベルトと言えば60年代の全集しか知らない人には、是非とも聞いてほしい録音です。

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