クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノソナタ第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」 作品53

(P)アラウ 1956年12月1,22日&1957年5月19日録音





Beethoven:ピアノソナタ第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」 作品53 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」 作品53 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」 作品53 「第3楽章」


天空を仰ぎ見るようなおおらかさを持った作品

ベートーベンの中期を代表する傑作の一つです。

今までのピアノソナタにはなかったような演奏効果を盛り込んで、実に聴き応えのある作品に仕上がっています。誰かが言ったようにまさに天空を仰ぎ見るような作品です。

また表題となっているワルトシュタインは、ベートーベンのパトロンの一人であったワルトシュタイン伯爵によるものです。ワルトシュタイン伯爵はボン時代のベートーベンに「モーツァルトの精神をハイドンから受け取りなさい」と言って、ウィーンに旅立つベートーベンを励ました人です。
経済的にも大きな支援を与えた人物ですが、それ以上にその豊かな教養がベートーベンに大きなプラス面をもたらした人として注目に値します。その意味で、まさにこの傑作を献呈されるにふさわしい人物だったといえます。

ピアノソナタ21番「ワルトシュタイン」 Op.53 ハ長調
第1楽章
 アレグロ・コン・ブリオ ハ長調 4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章
 アダージョ・モルト ヘ長調 8分の6拍子 三部形式
天使のほほえみがにわかに雲に覆われたよう。導入部をそのように喩えた人がいました。

いささか印象が希薄なソナタの録音です


若い頃のアラウにとっては、ベートーベンのピアノソナタは彼の中心をなすレパートリーではなかったようです。おそらく、それらを己のレパートリーの中心に据え始めたのは齢八十に達せんとする最晩年の頃だったようです。ですから、彼の最晩年の協奏曲の演奏を「遅めのテンポで何だか彫りの浅い平べったい音楽」などと悪口を言ったにも関わらず、ソナタに関してはフィリップスで録音した最晩年のものをとるのが相応しいのかもしれません。
もちろん、だからといって、そのソナタの録音がコンチェルトとは一変して指も回ってバシッと気合いが入っているというわけではありません。遅めのテンポで、よく言えば「叙情的」に美しく歌う音楽に仕上がっている、悪く言えば淡々とした平板な演奏と言えます。しかし、そのことがソナタの場合にはそれほど大きな不満には感じられないと言うことです。
コンチェルトは基本的にはエンターテイメントの世界ですから技術的な衰えは致命的です。しかし、ソナタは独白の世界ですから、指が回ると言うことは絶対条件ではないように思います。いや、それどころか、雄弁な独白というのは時には嫌らしくさえもあります。逆に、ポツリ、ポツリとした朴訥な語りを通して、いつの間にか語り手の世界に引き込まれると言うことはよくある話です。

ただし、技術的な衰えは否定できませんから、そう言うことが気になって仕方がないという人にとっては我慢のならないかもしれません。

それと比べると、この50年代の後半から60年代の初め頃に録音された一連のソナタ作品の録音は、テクニック的には万全です。ただし、録音のクオリティに原因があるのかと思うのですが、音のセパレートがいささか悪くて、よく言えば響きが重厚、悪く言えば鈍重なのが残念です。
ただし、この一連のソナタを聴いて、私はあまり感心しませんでした。人によっては、この録音を「一切の虚飾を廃した真摯な演奏」と褒める人もいますし、そのことを否定する気はありません。しかし、ベートーベンのその人の独白を聞くような思いにさせられる最晩年の録音と比べると、この壮年期の録音は聞き終わったあとの印象が驚くほど希薄なのです。

ですから、今、私はとても困っているのです。

聞き終わったあとにそれなりの印象が残れば、それを言葉に変換することは可能なのですが、それがあまりにも希薄だと途方に暮れてしまいます。もちろん「玩味熟読」すればその良さが分かるという言葉もありますから、きっと私の修行が未だ足りていないのでしょう。
しかし、そう言う「謙虚」な気持ちの片隅に、「なんかベートーベンのソナタっていまいちピントこないなぁ・・・、とはいえプログラムに入れないわけにもいかないから、まあ有名どころだけでも録音しておくか・・・」みたいな気持ちがアラウ自身にあったのではないかという「不遜」な気持ちも燻ってはおります。
ただし、このような思いは晩年のソナタを聴いたからであって、これがアパショナータやワルトシュタインのような作品だったらまた変わってくるかもしれません。

<追記>
「録音のクオリティに原因があるのかと思うのですが、音のセパレートがいささか悪くて、よく言えば響きが重厚、悪く言えば鈍重なのが残念です。」などと書きましたが、これはアンプが壊れかけの頃に聞いたのが原因だったようです。完全に壊れてしまって、新しいアンプを入れ替えたあとに聞いた感じでは、文句をつけるほどには録音は悪くないようです。
ただし、高域方向の抜けが今ひとつでいささかつまり気味の感は残りますが、まあ時代相当のクオリティと言うところでしょう。

しかし、そう言う面が多少は改善されたので、演奏に関する感想も変わったのかと言うと、そちらに関しては残念ながら大きな変化はありませんでした。指はよく回っているのは以前よりはよく感じ取れたのですが、それでもなお聞き終わったあとに残るものは希薄です。
やはり、アラウのソナタに関しては晩年の録音を聞くべきなのでしょう。

よせられたコメント

2013-01-07:Sherlock


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-12-13]

R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」 作品35(Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 ボーンマス交響楽団 (Vn)ジェラルド・ジャーヴィス 1966年12月30-31日(録音(Constantin Silvestri:Bournemouth Symphony Orchestra (Vn)Gerald Jarvis Recorded on Dcember 30-31, 1966)

[2025-12-11]

ベートーヴェン:六重奏曲 変ホ長調, Op.71(Beethoven:Sextet in E-Flat Major, Op.71)
ウィーン・フィルハーモニー木管グループ:1950年録音(Vienna Philharmonic Wind Group:Recorded on 1950)

[2025-12-09]

ベートーベン:交響曲第9番 ニ短調 「合唱付き」作品125(歌唱:ルーマニア語)(Beethoven:Symphony No.9 in D minor, Op.125 "Choral")
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 (S)Emilia (Ms)マルタ・ケスラー、(T)イオン・ピソ (Bass)マリウス・リンツラー (Chorus Master)ヴァシリ・パンテ ジョルジュ・エネスコ・フィル合唱団 (Chorus Master)カロル・リトヴィン ルーマニア放送合唱団 1961年8月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra (S)Emilia Petrescu (Ms)Martha Kessler (T)Ion Piso (Bass)マMarius Rintzler (Chorus Master)Vasile Pintea Corul Filarmonicii "George Enescu”(Chorus Master) arol Litvin Corul Radioteleviziunii Romane Recorded on July, 1961)

[2025-12-07]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」 ヘ短調 Op.57(Beethoven: Piano Sonata No.23 In F Minor, Op.57 "Appassionata")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1955年11月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on November, 1955)

[2025-12-06]

ラヴェル:夜のガスパール(Ravel:Gaspard de la nuit)
(P)ジーナ・バッカウアー:(語り)サー・ジョン・ギールグッド 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Read)Sir John Gielgud Recorded on June, 1964)

[2025-12-04]

フォーレ:夜想曲第7番 嬰ハ短調 作品74(Faure:Nocturne No.7 in C-sharp minor, Op.74)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)

[2025-12-02]

ハイドン:弦楽四重奏曲第32番 ハ長調, Op.20, No.2, Hob.3:32(Haydn:String Quartet No.32 in C major, Op.20, No.2, Hob.3:32)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2025-11-30]

チャイコフスキー:マンフレッド交響曲 ロ短調 作品58(Tchaikovsky:Manfred Symphony in B minor, Op.58)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フランス国立放送管弦楽団 1957年11月13日~16日&21日録音(Constantin Silvestri:French National Radio Orchestra Recorded on November 13-16&21, 1959)

[2025-11-28]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major ,Op.93)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年5月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on May, 1961)

[2025-11-26]

ショパン: ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21(Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21)
(P)ジーナ・バッカウアー:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1964年6月録音(Gina Bachauer:(Con)Antal Dorati London Symphony Orchestra Recorded on June, 1964)

?>