クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番

Vn.アドルフ・ブッシュ 1929年11月8日&11日録音(ロンドン)




ヴァイオリン一挺で宇宙をえがいた

 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番の終曲というよりは、「シャコンヌ」の方が通りがいいですね。しかし、それは曲名ではなく音楽の形式を表す言葉であることはあまり知られていないようです。

 シャコンヌとは、「上声は変わっていくのに、バスだけは同じ楽句に固執し執拗に反復するものである」と説明されています。上声部がどんなに変奏を展開しても、低声部で執拗に繰り返される主題が音楽全体の雰囲気を規定します。
 しかし、その低声部での主題を聞き手が意識することはほとんどありません。冒頭にその主題が提示されますが、その後は展開される変奏の和声の最低音として姿をくらましてしまうからです。
 ところが、姿をくらましても、それが和声進行のパターンを根底で支配するのですから作品全体に与える影響力は絶大であり絶対的です。
 聞き手には移り変わっていく上声部のメロディラインしか意識には残らないでしょうが、執拗に繰り返される低声部の主題が音楽の支配権を握っています。

 ですから、聞き手にはこの低声部の主題がそれとは明確に意識できない代物であっても、演奏する側はそのことを明確に意識して演奏する必要があります。
 つまりは、スコアに書いてある音符をそれなりに音にするだけでは音楽にはならないのです。
 そのことは、何もこの作品に限ったことではありませんが、シャコンヌはとりわけ演奏者サイドにその手の難しさを要求するようです。

 このシャコンヌという音楽形式は、16世紀スペインの舞踏音楽に起源を持つと言われます。バッハの時代おいてもすでに古い音楽形式を見なされていました。
 そのためか、バッハはその晩年においては時代遅れの音楽と見なされ、その後19世紀にメンデルスゾーンなどが再評価するまでは忘れられた存在となっていました。
 そして、その19世紀からさらに200年近い時間が流れた現代からこの作品を聞いてみると、古さなどというものは微塵も感じません。流行などという陳腐なレベルを超越した普遍性の偉大さでしょうか。

 シャコンヌを評してヴァイオリン一挺で宇宙をえがいたといわれます。
 その言葉が決して誇張とは思えないほどの素晴らしい音楽です。ぜひとも、こんなMIDIの貧相な音楽ではなくすぐれたCDでこの音楽の素晴らしさを体験してください。 

アドルフ・ブッシュのシャコンヌ


ソリストとしてよりはブッシュ弦楽四重奏団のリーダーとして名高いのが、アドルフ・ブッシュです。しかし、ここで聞けるシャコンヌはなかなか似立派なものです。(もちろん昨今の「馬鹿うま」の若手ヴァイオリニストなんかと比べてはだめです。そう言う意味で「立派」だといっているのではありません)

こういう味の濃いバッハは全く聴かれなくなっただけに、本来であればとんでもなく古いスタイルの演奏がかえって新鮮に聞こえるから不思議です。今の流行が「蒸留水」のバッハだとすると、これはかなり濃厚なワインのような風情があります。
たまにはこういうバッハもいいものです。

よせられたコメント

2009-09-08:セル好き


2010-06-10:K.T


2012-09-09:大膳太夫


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2025-08-16]

ブラームス:交響曲第2番 ニ長調, 作品73(Brahms:Symphony No.2 in D major, Op.73)
アルトゥール・ロジンスキ指揮:ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年10月14日録音(Artur Rodzinski:New York Philharmonic Recorded on October 14, 1946)

[2025-08-14]

ワーグナー:「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲&第3幕への前奏曲~従弟たちの踊りと親方達の入場(Wagner:Die Meistersinger Von Nurnberg Prelude&Prelude To Act3,Dance Of The Apprentices)
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)

[2025-08-11]

エルガー:行進曲「威風堂々」第4番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 4 In G Major])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年8月28日~29日録音(Sir John Barbirolli:Philharmonia Orchestra Recorded on August 28-29, 1962)

[2025-08-09]

バッハ:前奏曲とフーガ ホ短調 BWV.533(Bach:Prelude and Fugue in E minor, BWV 533)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

[2025-08-07]

ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93(Beethoven:Symphony No.8 in F major , Op.93)
ヨーゼフ・カイルベルト指揮 ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽楽団 1958年録音(Joseph Keilberth:Hamburg Philharmonic Orchestra Recorded on 1958)

[2025-08-05]

ブラームス:クラリネット五重奏曲 ロ短調 Op. 115(Brahms:Clarinet Quintet in B Minor, Op.115)
(Clarinet)カール・ライスター:アマデウス四重奏団 1967年3月録音(Karl Leister:Amadeus Quartet Recorded on March, 1967)

[2025-08-03]

コダーイ: マロシュセーク舞曲(Zoltan Kodaly:Dances of Marosszek)
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1962年11月15日録音(Eugene Ormandy:Philadelphis Orchestra Recorded on November 15, 1962)

[2025-08-01]

ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「こうもり」序曲(Johann Strauss:Die Fledermaus Overture)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)

[2025-07-30]

エルガー:行進曲「威風堂々」第3番(Elgar:Pomp And Circumstance Marches, Op. 39 [No. 3 in C Minor])
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)

[2025-07-28]

バッハ:前奏曲とフーガ ハ長調 BWV.545(Bach:Prelude and Fugue in C major, BWV 545)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)

?>