ボッケリーニ:チェロ・ソナタ第1番 イ長調, G.13(Boccherini:Cello Sonata No. 1 in A Major, G. 13)
(Cell)エンリコ・マイナルディ:(P)カルロ・ゼッキ 1952年録音(Enrico Mainardi:(P)Carlo Zecchi Recorded on 1952)
Boccherini:Cello Sonata No. 1 in A Major, G. 13 [1.Allegro moderato]
Boccherini:Cello Sonata No. 1 in A Major, G. 13 [2.Largo]
Boccherini:Cello Sonata No. 1 in A Major, G. 13 [3.Allegro]
伴奏楽器から主役へ

ルイジ・ボッケリーニのチェロソナタは、チェロという楽器を「伴奏楽器から主役への完全な脱皮」を果たしたともいえる重要な作品です。
ボッケリーニは通奏低音を支えるだけの楽器だったチェロを、ヴァイオリンに匹敵する高音域での旋律演奏を要求して主役になりうるポジションを与えました。さらに、素早いパッセージや重音奏法、そして独自の美しいフラジオレットなど、当時のチェロの限界に挑むような超絶技巧を盛り込んでいきました。
自らがチェロのヴィルトゥオーゾだったボッケリーニは30曲を超えるチェロ・ソナタを通して、わき役から主役への道を切り開いていったのです。
チェロ・ソナタ第1番 イ長調 G. 13
このイ長調のソナタ G.13はボッケリーニの代表作である「チェロ協奏曲 イ長調 G.475」との密接な関係にあります。
ソナタ G.13の第1楽章の主題や主要な楽想が、協奏曲 G.475の第1楽章にそのまま流用されているのです。
ボッケリーニはこのイ長調のメロディとチェロの響きのマッチングを非常に気に入っていたため、大舞台用の協奏曲へと昇華させたと考えられています。
- 第1楽章:Allegro
チェロの開放弦の響きを活かした、明るく開放的なイ長調のアルペジオ(分散和音)で始まります。
聴き進めると「チェロ協奏曲イ長調」のあのドラマチックで華やかな旋律がそのまま現れます。
独奏チェロがまるで一人でオーケストラと渡り合っているかのような、スケールの大きな推進力を持った楽章です。
- 第2楽章:Largo
一転して、同主調のイ短調へと移ります。ボッケリーニの短調の緩端楽章の中でも、屈指の美しさを誇る瞑想的な楽章です。
ため息をつくような切ないメロディが、細やかな装飾音で飾られながら紡がれます。
技巧を誇示するのではなく、楽器を極限まで「歌わせる」ボッケリーニの抒情性が際立っています。
- 第3楽章:Minuetto / Allegro
一見、優雅な宮廷舞踏会を思わせるメヌエットのステップで始まりますが、そこはボッケリーニ、単なるお上品なダンスでは終わりません。
メヌエットのテーマが繰り返される中で、主奏チェロには非常に素早い16分音符のパッセージや、目の覚めるような高音域への跳躍が次々と課され、華々しくもエレガントに全曲を締めくくります。
春風の中にたゆたうような長閑さ
マイナルディのチェロはいつも春風の中にたゆたうような長閑さです。その雰囲気を蕪村の句をもじって
ゆく春やおもたきチェロの抱きごころ
などと悦に入っていたものです。
ただし、それがあまりにも長閑にすぎて間延びしすぎないように、カルロ・ゼッキのピアノが要所要所で締めているのが見事です。しかし、締めながらも、そのピアノは居丈高になることなく、どこまで行っても実に軽やかに駆け回ってくれています。
ただし、カルロ・ゼッキなどと言うピアニストは全くぴんと来ないのですが、ベートーベンやボッケリーニなどの録音を聞く限りはなかなかに魅力的なピアニストであることは間違いありません。
しかし、ふとどこかで「カルロ・ゼッキ」という名前を聞いたことがあるような気がします。
調べてみれば、なんと群響や日フィルにたびたび客演して素晴らしい音楽を聞かせてくれたあの「カルロ・ゼッキ」と同一人物だった事が分かったのです。
もちろん、私は彼の指揮を実際に聞いたことはありませんが、遠山慶子と録音したモーツァルトの協奏曲は記憶に残っています。
ところが、なぜか、私の中ではマイナルディのパートナーとして活躍していたピアニストと、たびたび来日しては指揮活動を行っていた指揮者が結びつかなかったのです。
そして、結びついた途端に、何とも言えず親しみが湧いてきて、ピアニストとしてもなかなかの腕前だったのだと感心させられました。
いや、これって滅茶苦茶凄いんじゃないのと思ってしまうほどの腕の冴えを感じます。
そう思ってさらに探ってみると、若い頃はシュナーベルやブゾーニに師事し、一時はミケランジェリの好敵手と目されたと言うのですから、大したものです。
さらに笑えるのは、嘘か本当かは分かりませんが、彼がピアニストの活動を断念して指揮活動に専念するようになったのは、借金の返済のために「事故でピアノを弾けなくなった」と偽って保険金を受け取ったためだというのです。
なるほど、それならばピアニストとしての活動が出来なくなるのも仕方がないのですが、なかなかに笑えるほどにユニークな人だったようです。
そう言えば、最晩年に群馬交響楽団に客演をしたときには車椅子でやってきて、「おはよう」と言って1曲を通して演奏し、終わると「疲れた」と言って帰るだけでリハーサルは終わりだったそうです。
そんな「おはよう」と「疲れた」だけのリハーサルを数回繰り返しただけだったのに、本番での演奏は群響の歴史に残るような名演だったそうです。
その時にアシスタントを務めた若手の指揮者は「指揮って何だろう?」と考え込んだそうですから、やはり常人にはとらえどころのないほどに懐の深い人だったのでしょう。
うつつなきつまみごころの胡蝶かな
蕪村風に言えばこうなるのでしょうか。
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