クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ケルビーニ:レクィエム ニ短調(Cherubini:Requiem in C minor)

イーゴリ・マルケヴィチ指揮:チェコ・フィルハーモニー合唱団 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年12月録音(Igor Markevitch:Czech Philharmonic Chorus Czech Philharmonic Orchestra Recorded on December, 1962)



Cherubini:Requiem in C minor [1.Introitus]

Cherubini:Requiem in C minor [2.Graduale]

Cherubini:Requiem in C minor [3.Dies Irae]

Cherubini:Requiem in C minor [4.Offertorium]

Cherubini:Requiem in C minor [5.Sanctus]

Cherubini:Requiem in C minor [6.Pie jesu]

Cherubini:Requiem in C minor [7.Agnus Dei]


ケルビーニ自身の葬儀で演奏されることを願って

ケルビーニのレクイエムにはハ短調とニ短調の2曲があります。
ニ短調のレクイエムはハ短調に続く第2作目であり、彼が81歳で没する6年前に完成させた「白鳥の歌」とも言える作品です。

ニ短調のレクイエムはケルビーニ自身の葬儀で演奏されることを願って書かれたもので、教会において確実に演奏されるよう、男声三部合唱(テノール、バリトン、バス)とオーケストラという編成でこのニ短調を書き上げたのでした。
というのも、前作のハ短調のレクイエムがパリ大司教から「教会の儀式に女性(女声合唱)が参加するのは不適切である」と異議を唱えられたからです。

また、ソリストも一切起用せず、合唱がすべてのメッセージを担うことで、個人の感情を超えた普遍的で荘厳な祈りが強調される事を願ったようです。
全7楽章で構成されており、対位法の大家であったケルビーニらしい緻密な書法が随所に見られます。

  1. Introitus et Kyrie(入祭唱とキリエ)
    低弦による暗く沈んだ導入から始まり、男声合唱が静かに祈り始めます。ソプラノがいないため、通常のレクイエムよりも中低音域が厚く、大地に根ざしたような安定感と荘厳さが特徴です。

  2. Graduale(昇階唱)
    無伴奏の合唱(ア・カペラ)に近いスタイルで書かれた、短くも非常に美しい楽章です。ケルビーニの対位法の妙が光り、清らかな旋律が重なり合うことで、深い哀悼の意が表現されます。

  3. Dies irae(怒りの日)
    全曲のクライマックスです。冒頭、タムタム(銅鑼)の鋭い一撃が鳴り響き、最後の審判の恐怖を劇的に描き出します。この楽章は後のベルリオーズやヴェルディの先駆けとも言える激しいオーケストレーションを伴い、聴き手を圧倒します。

  4. Offertorium(奉納唱)
    「Quam olim Abrahae(かつてアブラハムに)」の箇所での壮大なフーガが聴きどころです。ケルビーニの職人芸的なフーガは非常に力強く、男声合唱のダイナミズムが最大限に発揮されます。

  5. Sanctus(聖なるかな)
    比較的短く、祝祭的で力強い楽章です。管楽器が効果的に使われ、神の栄光を称える輝かしい響きが広がります。

  6. Pie Jesu(慈しみ深き主よ)
    本作の中で最も叙情的で柔らかな楽章です。男声合唱による優しく包み込むようなハーモニーが、救いを求める魂の安らぎを美しく歌い上げます。

  7. Agnus Dei(神の小羊)
    冒頭の「Agnus Dei」は情熱的な祈りとして始まりますが、最後は「Lux aeterna(絶えざる光)」へと続き、音が一つずつ消えていくような長いディミヌエンド(徐々に弱く)で幕を閉じます。
    この静寂への消え方は、当時の音楽としては極めて革新的なものでした。




明晰さへの指向


ドイツのオケというものは、フルトヴェングラーに代表されるように、楽器の集合体ではなく、まるでオーケストラという一つの楽器であるかのように有機的に響きます。豊かな低声部を支えとして、さらには内声部も充実した重厚な響きは、クラシック音楽などというものを聞いたことがないような人にたいしても圧倒的な威力を発揮します。
そして、そう言う圧倒的な響きでもってフルトヴェングラーのようなドラマ性に満ちた音楽が展開されれば、最初から聞く耳を塞いでしまっている人でない限りは魅了されないはずはないのです。

それに対して、フランスの哲学では、オーケストラは不可侵の「個」をもった一人ひとりのプレーヤーの集合体であり続けるようなのです。
ですから、オーケストラがまるで一つの有機体であるかのように個々のプレーヤーを飲み込んでしまうことを本能的に拒否するように聞こえます。
その結果として、個々の楽器は縦のラインに統合された和声に飲み込まれてしまうことを可能な限り拒否し続けるがために、響きは薄くなり拡散していかざるを得ません。

しかし、その事の見返りとして、ドイツでは重い響きに塗り込まれてしまいがちな複雑な内部構造が、フランスのオケからは手に取るように聞き取ることが出来ます。
そして、その様な内部の精緻な構造を聞き取ることに喜びを感じるのは、官能的な響きの喜びに身を浸すよりははるかに難しいのです。

そういう事を初めて私に教えてくれたのはマルケヴィッチでした。
もちろん、マルケヴィッチはロシア貴族の末裔でありフランス人ではありません。しかし、僅か2才でスイスに移り住み、さらには14才の時にコルトーに連れられてパリに行き、ナディア・ブーランジェのもとで作曲家やピアニストとしての教育受けたのですから、その精神の有り様はフランス人よりもフランス的だったと言えるでしょう。

マルケヴィッチは作品のテンポ設定を考えるための大前提として、その作品に含まれるもっとも短い音価の音符が明瞭に聞き取れることが必須条件だと語っていました。つまり、作品を演奏するときには、どのような小さな音符であっても蔑ろにしてはいけないと言うことを宣言したわけです。そして、マルケヴィッチの凄いところは、その様な宣言を一つの理想論として掲げたのではなくて、まさに実際にの演奏においても徹底的に要求し続けたのです。
ですから、彼のリハーサルは過酷を極め、結果として一つのポストに長く座り続けることが出来ない人だったのです。

そんな中で、意外と頑張ってマルケヴィッチと付き合っていたのがチェコ・フィルハーモニー管弦楽団でした。

1959年のプラハの春音楽祭では「春の祭典」の伝説的な演奏を行っています。
1960年代にはドイツグラモフォンがグノーの「聖チェチーリアのための荘厳ミサ曲」やケルビーニの「レクイエム ニ短調」などを録音しています。

マルケヴィッチとチェコ・フィルという組み合わせは初めはぴんと来なかったのですが、考えてみれば当時のチェコ・フィルを率いていたのはカレル・アンチェルでした。
なるほど、アンチェルのもとで鍛えられていたのですからマルケヴィッチの棒にもついていけたのでしょう。

調べてみるとマルケヴィッチとアンチェルの間には深い信頼関係があったようで、アンチェルはオケのトレーニングをマルケヴィッチに依頼したこともあったそうです。
オケにとってはとんでもない話だったのでしょうが、そう言うつながりなしにあの伝説的な「春の祭典」のライブ演奏はあり得なかったでしょう。

マルケヴィッチとチェコ・フィルという組み合わせも拾っていかないといけませんね。

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