モーツァルト:交響曲第36番 "Linz"
ヨッフム指揮 バイエルン放送交響楽団 1955年10月2日録音
Mozart:交響曲第36番 ハ長調 "Linz" K.425 「第1楽章」
Mozart:交響曲第36番 ハ長調 "Linz" K.425 「第2楽章」
Mozart:交響曲第36番 ハ長調 "Linz" K.425 「第3楽章」
Mozart:交響曲第36番 ハ長調 "Linz" K.425 「第4楽章」
わずか4日で仕上げたシンフォニー
1783年の夏にモーツァルトは久しぶりにザルツブルグに帰っています。その帰りにリンツに立ち寄った彼は3週間ほどトゥーン伯爵の邸宅に逗留することとなりました。
そして、到着してすぐに行われた演奏会では、ミヒャエル・ハイドンのシンフォニーに序奏を付け足した作品を演奏しました。実は、すぐに演奏できるような新作のシンフォニーを持っていなかったためにこのような非常手段をとったのですが、後年この作品をモーツァルトの作品と間違って37番という番号が割り振られることになってしまいました。もちろん、この幻の37番シンフォニーはミヒャエル・ハイドンの作品であることは明らかであり、モーツァルトが新しく付け加えた序奏部だけが現在の作品目録に掲載されています。
さて、大変な音楽愛好家であったトゥーン伯爵は、その様な非常手段では満足できなかったようで、次の演奏会のためにモーツァルト自身の新作シンフォニーを注文しました。この要望にこたえて作曲されたのが36番シンフォニーで、このような経緯から「リンツ」という名前を持つようになりました。
ただ、驚くべきは、残された資料などから判断すると、モーツァルトの後期を代表するこの堂々たるシンフォニーがわずか4日で書き上げられたらしいと言うことです。いかにモーツァルトが天才といえども、全く白紙の状態からわずか4日でこのような作品は仕上げられないでしょうから、おそらくは作品の構想はザルツブルグにおいてある程度仕上がっていたとは思われます。とは言え、これもまた天才モーツァルトを彩るには恰好のエピソードの一つといえます。
まず、アダージョの序奏ではじまった作品は、アレグロのこの上もなく明快で快活な第1主題に入ることで見事な効果を演出しています。最近、このような単純で明快、そして快活な姿の中にこそモーツァルトの本質があるのではないかと強く感じるようになってきています。第2楽章のアンダンテも微妙な陰影よりはある種の単純さに貫かれた清明さの方が前面にでています。そしてその様な傾向はメヌエットでも最後のプレスト楽章でも一貫しています。
おそらくは4日で仕上げる必要があったと言うことがその様な単純さをもたらしたのでしょう。しかし、その事が決してマイナスにならないところがモーツァルトの凄いところです。
まるでベートーベンのシンフォニーのように響きます
ヨッフムという人は最晩年のブルックナー演奏における神々しいまでのお姿が目に(耳に?)焼き付いています。そこではテンポを大きく動かして入念な表情づけも行って実に雄大な音楽を作り上げていました。しかし、若い頃のヨッフムはその様なロマティクな演奏は「演奏の姿」としては「いけないもの」だと述べて、「新即物主義」の忠実な実践者のように見える演奏を展開していました。彼がいつ、どこで、どの様にして「心変わり」したのは不明ですが、この若い頃のモーツァルトを聴くと最晩年のヨッフムとは全くベクトルの異なる演奏になっています。
そう言えば、あのワルターでさえ、現役時代のニューヨークフィルとの演奏を聴くと意外なほどに造形がしっかりとしていて直線的だったことを思い出します。その事を思えば、時代が与える影響とは大きいものだと感心させられます。(もっともワルターの方は、最晩年のコロンビア交響楽団とのステレオ録音になるとその様なきちんとした造形は後退して、いわゆる「ワルターらしい」雰囲気で描き出したモーツァルト演奏に舞い戻っています)
ただ、この両者は「音の響き」という点では共通点があることに気づかされます。それは、同時代のラインスドルフやライナーのようにアメリカを活動の本拠にした指揮者と比べると明らかに低声部の響きが分厚いことです。とりわけ、ワルターのどっしりとした響きは印象的ですが、ヨッフムもまたかなり重心の低い音を響かせています。こんなあたりからも、魂がアメリにあるのかヨーロッパにあるかが判別できるのかもしれません。(ワルターは体はアメリカにあっても魂は常にヨーロッパに存在し続けた人でした)このヨッフムの若き日の演奏は、旋律よりは明らかにリズムを重視したもので、現役時代のワルターの演奏をさらにもう一回り筋肉質にして、さらに一回りパワフルに鳴らしたような演奏です。そして、低声部の響きが実に分厚いのでまるでベートーベンのシンフォニーのように響きます。
こんなモーツァルトを今の若い方々がお聞きになればどの様な感想を持たれるのでしょうか?面白いと思うのでしょうか、それともご免被りたいと思うのでしょうか?ちょっと聞いてみたくなる気をおこさせるほど、現在という時代から見るとある意味ではユニークな演奏だと言えます。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2025-10-25]

アーサー・サリヴァン:喜歌劇「軍艦ピナフォア」序曲(Sullivan:Overture from H.M.S Pinafore)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)
[2025-10-22]

バターワース:管弦楽のための狂詩曲「シュロップシャーの若者」(Butterworth:A Shropshire Lad)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1956年6月20日録音(Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on June 20, 1956)
[2025-10-20]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13()Beethoven:Piano Sonata No.8 in C minor, Op.13 "Pathetique"
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1955年11月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on November, 1955)
[2025-10-18]

フォーレ:夜想曲第4番 変ホ長調 作品36(Faure:Nocturne No.4 in E-flat major, Op.36)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2025-10-16]

J.S.バッハ:パッサカリアとフーガ ハ短調 BWV.582(J.S.Bach:Passacaglia in C minor, BWV 582)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1961年12月5日~8日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 5-8, 1961)
[2025-10-14]

ワーグナー;神々の黄昏 第3幕(Wagner:Gotterdammerung Act3)
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)
[2025-10-13]

ワーグナー;神々の黄昏 第2幕(Wagner:Gotterdammerung Act2)
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)
[2025-10-12]

ワーグナー;神々の黄昏 第1幕(Wagner:Gotterdammerung Act1)
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)
[2025-10-11]

ワーグナー;神々の黄昏 プロローグ(Wagner:Gotterdammerung Prologue )
ゲオルグ・ショルティ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 (S)ビルギット・ニルソン (T)ヴォルフガング・ヴィントガッセン他 ウィーン国立歌劇場合唱団 1964年5月、6月、10月、11月録音(Georg Solti:The Vienna Philharmonic Orchestra(S)Birgit Nilsson (T)Wolfgang Windgassen April May October November, 1964)
[2025-10-08]

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 「運命」 作品67(Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1961年8月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on August, 1961)