マヌエル・ポンセ:南の協奏曲(Manuel Ponce:Concierto del Sur)
(Gt)アンドレス・セゴビア:エンリケ・ホルダ指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年録音(Andres Segovia:(con)Enrique Jorda the Symphony of the Air Recorded in 1958)
Manuel Ponce:Concierto del Sur [1.Allegro moderato]
Manuel Ponce:Concierto del Sur [2.Andante[
Manuel Ponce:Concierto del Sur [3.Allegro festivo]
近代クラシック・ギターへの貢献
マヌエル・ポンセは「メキシコ音楽ナショナリズムの父」と称される20世紀メキシコを代表する作曲家、ピアニスト、音楽教師です。
クラシック音楽の伝統にメキシコの民謡や大衆歌曲の要素を融合させ、それまで顧みられなかった地元のメロディを芸術音楽へと高めました。
メキシコのサカテカス州フレスニージョに生まれ、生後間もなくアグアスカリエンテスへ移住しました。
幼少期からピアノの才能を発揮し、4歳で姉のレッスン曲を聴き覚えてそのまま弾いたという逸話が残っています。
9歳の時には、麻疹の療養中に最初の作品「麻疹の行進曲(La Marcha del Sarampion)」を作曲しました
彼もまた「神童」としてスタートしたわけです。
その後、メキシコシティの国立音楽院で学んだ後、ヨーロッパへ渡りボローニャやベルリンのシュテルン音楽院に留学しました。
のちに40代後半になってからもフランスへ渡り、パリ・エコール・ノルマル音楽院でポール・デュカスに師事し、近代的な作曲技法をさらに深く吸収しました。
ポンセの最大の業績は近代クラシック・ギターへの貢献です。
世界的なギタリストであるアンドレス・セゴビアと深い親交を結び、彼の依頼によって多くのギター曲を作曲しました。
初期の後期ロマン派的な甘美な作風から、ヨーロッパ留学を経て印象主義や新古典主義的な要素を取り入れたモダンな作風へと進化しました。
南の協奏曲
ポンセは1926年にセゴビアの依頼でこの曲のスケッチを始めました。しかし、ギターがオーケストラの音量に負けてしまうのではないかという懸念や、スペイン内戦による混乱、第二次世界大戦の影などから、完成までに15年もの歳月を要しました
タイトルにある「南(Sur)」とは、ポンセの祖国メキシコの民俗的要素だけでなく、ギターの故郷であり親友アンドレス・セゴビアのルーツでもあるスペイン南部・アンダルシア地方の情景やフラメンコの伝統を指しています。
木管楽器、ティンパニ、弦楽合奏という室内楽的なオーケストラ編成を巧みに使い、デリケートなギターの音色をかき消さないよう配慮されているのも特徴です。
第1楽章:Allegro moderato
新古典主義的なソナタ形式。スペイン風のエキゾチックな旋律と、メキシコ風の色彩が交錯する重厚な楽章です。
オーケストラによるわずか4小節の小気味よい導入のあと、ソロ・ギターがせき立てるように力強い和音(和音の連続)をかき鳴らして鮮烈に登場します。この第1主題は、どこかフラメンコの「ラスゲアード(かき鳴らし奏法)」を想起させるスペイン的な情熱を孕んでいます。
その後、素朴で歌うような第2主題が対比され、展開部へと進みます。
楽章の終盤には、ギタリストの見せ場である非常に長大で技巧的なカデンツァが用意されています。7つの部分から構成されるこのカデンツァは、ギターのあらゆる表現力を引き出すように緻密に書かれており、圧巻の聴きどころとなっています。
第2楽章:Andante
優美で、どこか哀愁を帯びた、間奏曲のような性格を持つ緩徐楽章です。1920年代後半、パリでポール・デュカスに師事していた時期の成果(印象主義音楽の影響)が色濃く反映されています
。夜のアンダルシアを思わせる静けさの中に、即興的で装飾豊かなギターのメロディが流れます。
管楽器の浮遊感のある響きとギターの繊細な掛け合いは、東洋的・日本的な哀愁をも感じさせる不思議な静けさと詩情に満ちています。
第3楽章:Allegro moderato e festivo
タイトルの「フェスティーヴォ(お祭り騒ぎの)」が示す通り、活気に満ちた舞曲風のフィナーレです。
跳ねるようなスペインの伝統舞曲セビリャーナスや、メキシコのジャラベなどのステップを思わせる複合リズムに乗って、音楽がフェスティバルのように躍動します。
ギターとオーケストラが互いにリズムをぶつけ合い、華やかな掛け合いを展開しながら、最後は第1楽章を締めくくった快活なイ長調へと回帰し、圧倒的な高揚感の中で全曲を華々しく結びます。
セゴビアのの劇的な生い立ち
セゴビアの録音を殆ど取り上げていませんでした。自分でもびっくりです。
とりあえずは彼の生い立ちや業績などを順次、概観しておきましょうか。
セゴビアは幼少期にグラナダの叔父夫婦に引き取られて育ちました。
音楽の才能を見出された彼は、最初にバイオリンやピアノ、チェロのレッスンを受けさせられますが、どれにも心を動かされませんでした。
そんなある日、彼はフラメンコギタリストが奏でるギターの音色に一瞬で魅了されます。
しかし当時のスペインにおいて、ギターはカフェや酒場でかき鳴らされる「民俗楽器」や「大衆娯楽の道具」に過ぎず、クラシック音楽のコンサートホールで演奏されるような楽器とはみなされていませんでした。
叔父夫婦はセゴビアがギターにのめり込むのを大反対し、「ギターなど弾けば身を滅ぼす」「泥棒や浮浪者の楽器だ」と猛烈に非難しました。
家族は彼の情熱をへし折るために、ギターを何度も取り上げ、時には目の前で破壊することさえあったと言われています。
さらに、当時はクラシック・ギターを専門的に教えるアカデミックな学校や師匠も存在しませんでした。そのために、彼はほぼ完全な独学で技術を習得せざるを得なくなります。
しかし、この「師を持たなかった」ことが、かえって既存の常識にとらわれない革新的な「セゴビア奏法」を生み出すキッカケとなったのです。
セゴビアは16歳で初めて公の場でリサイタルを開くようになるのですが、先輩のギタリストたちからは正規の教育を受けていない「生意気な独学者」として徹底的に見下され、冷笑されました。
そんなセゴビアの運命を変えたのはギター製作家のマヌエル・ラミレスとの出会いでした。
19歳になった無名のセゴビアは、マドリッドでの重要なコンサートを控えていました。
しかし、まともな楽器を持っていなかった彼はマヌエル・ラミレスの工房を訪れ、「コンサートのためにギターを貸してほしい」と頼み込みます。
ラミレスは最初、怪訝そうな顔で1台のギターを渡しました。
セゴビアがそれを弾き始めた瞬間、工房の空気が一変しました。
セゴビアの圧倒的な演奏と音楽性に衝撃を受け、深く感動したラミレスは、「金を払う必要はない。これを持っていけ。そして世界を征服してくるんだ」と言い放ち、工房の最高傑作であったギターを無償でセゴビアにプレゼントしたのです。
セゴビアはこの伝説的なギターを手に世界へと羽ばたき、クラシック・ギターの地位を歴史上最も高い場所へと引き上げていくことになります。
次は、セゴビアの偉大なる功績についてみていきます。
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