クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

マラン・マレー:組曲第4番 ニ長調(Marin Marais:Suite No. 4 In D Major)

アウグスト・ヴェンツィンガー:(Vdg)ハンネロレ・ミュラー (harpsichord)フリッツ・ノイマイヤー 1956年4月4日~5日録音(August Wenzinger:(Vdg)Hannelore Mulle (harpsichord)Fritz Neumeyer Recorded on April 4-5, 1956)



Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [1.Prelude]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [2.Fantaisie]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [3.Allemande]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [4.Courante]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [5.Sarabande]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [6.La Folette]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [7.Gigue]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [8.Bourree Paysane]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [9.Gavotte]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [10.Petit Rondeau]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [11.La Chanterelle Menuett]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [12.Plainte]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [13.Chaconne]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [14.La Brillante]

Marin Marais:Suite No. 4 In D Major [15.Charivari]


明るく洗練された色彩

マラン・マレーは、フランス・バロック音楽を代表する作曲家であり、ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオール)の歴史上最も重要なヴィルトゥオーゾ奏者です。
ルイ14世のヴェルサイユ宮廷を中心に活躍したようです。

1956年にパリの靴職人の家に生まれる。サン=ジェルマン=ロクセロワ教会の少年聖歌隊で基礎教育を受けた後、ヴィオール奏者の巨匠ムシュー・ド・サント=コロンブに師事します。
その才能は素晴らしく、入門からわずか半年ほどで師の技量を凌駕したと伝えられます。
その後、ジャン=バティスト・リュリに作曲法と管弦楽法を学び、1676年に王立音楽アカデミー(オペラ座)の管弦楽団に入団。1679年にはルイ14世の「王室ヴィオール奏者(Joueur de viole de la musique du Roy)」に任命されました。
695年から1710年にかけて王立音楽アカデミーのオーケストラ指揮者を務め、自作の歌劇などを上演し、晩年までフランス宮廷音楽の中心人物として君臨しました。

マレーの最大の業績は1686年から1725年にかけて出版された5冊の「ヴィオール曲集」です。
全5巻、500曲を超えるその曲集によって、ヴィオラ・ダ・ガンバ(ヴィオール)の表現力・演奏技法を徹底的に追求しました。

組曲第4番 ニ長調


ヴィオール曲集第3巻(1711年刊)に収められた作品です。
同曲集の「ニ短調」組曲(第3番)が深く沈思的な情緒を持つのに対し、このニ長調はヴェルサイユ宮廷の明るく洗練された色彩を色濃く反映しています。
伝統的な古典舞曲の枠組みに、当時のヴェルサイユ宮廷で好まれた色彩豊かな「キャラクターピース(性格的品名)」や技巧的な変奏曲が融合した全19曲(No. 40~58)の大作です。
実際の演奏や録音では、この中から主要な楽曲を抜粋してひとつの組曲として構成されることが多くあります。

  1. 導入部:即興的な幕開け:組曲の始まりを告げる、自由で即興的な美しい2曲です。
    40. Prelude(プレリュード)即興的で瞑想的な前奏曲。ヴィオール特有の和音の響きと余韻を十分に響かせ、組曲全体のトーンを決定づけます。
    41. Fantaisie(ファンタジー):プレリュードに続き、より活発で自由な展開を見せる幻想曲です。



  1. 伝統的な古典舞曲(核心部):フランス・バロック組曲の骨組みを成す高貴な舞曲群です。
    42. Allemande(アルマンド):ドイツ起源の舞曲。4分の4拍子で、穏やかで流れるようなテンポを持ち、気品ある重厚な雰囲気が特徴です。
    43. Courante(クーラント):フランス起源の3拍子の舞曲。複雑な交差リズム(ヘミオラ)や軽快なステップを思わせる上品な躍動感があります。
    44. Sarabande(サラバンド):荘厳でゆったりとした3拍子の緩徐舞曲。第2拍目に独特の強調(ため)があり、深い情感と美しさが際立つ名曲です。
    46. Gigue(ジーグ I) / 47. Gigue(ジーグ II):軽快なテンポの3部拍子の舞曲。この組曲には贅沢にも2つのジーグが配置されており、活気に満ちた終曲的な役割を果たします。



  1. 多彩なキャラクターピースと小舞曲:当時のフランスで大流行した、具体的な情景や人物を描写した愛らしい楽曲群です。
    45. La folette(ラ・フォレット):「おてんば娘」や「気まぐれな娘」といった意味を持つ小品。サラバンドとジーグの間に挟まれ、ユーモラスで軽やかな動きが魅力的です。
    48. Bouree paysanne(農民のブーレ):快活な2拍子の舞曲。宮廷風の上品さとは一味違う、素朴で力強い民俗的なリズムを持っています。
    49. Gavotte(ガヴォット):小気味よい2拍子の親しみやすい舞曲。
    50. Petit Rondeau(プティ・ロンドー):メインのテーマが何度も戻ってくる、短く愛らしい輪舞曲。
    51. La Chanterelle(ラ・シャントレル/最高音弦):メヌエット。ヴィオールの最も高い弦(シャントレル)のきらびやかな高音域を活かした優美な曲です。
    52. La Trompette(ラ・トロンペット/トランペット):メヌエット。ヴィオールでありながら、宮廷のファンファーレ(トランペット)の響きを模倣した遊び心のある楽曲。
    53. Double(ドゥーブル):直前の「ラ・トロンペット」の旋律を、細かい音符で華やかに変奏(装飾)したパートです。
    54. Rondeau(ロンドー):落ち着いたロンド形式の楽曲。



  1. 終盤のハイライト:深い感情と圧倒的な技巧:組曲の最後は、マレーの真骨頂である劇的な名曲が並びます。
    55. Plainte(プレント/哀歌):低音の深く切ない響きを極限まで生かした、胸を打つ葬送の音楽。哀愁を帯びた半音階の進行が美しく響きます。
    56. Chaconne(シャコンヌ):この組曲最大の聴きどころ。低音の短い繰り返しのテーマ(低音主題)の上で、ヴィオールが次々と華麗な変奏を展開していく大曲です。徐々に熱を帯びていくドラマチックな構成は圧巻です。
    57. La Brillante(ラ・ブリランテ/華麗なる作品):その名の通り、きらびやかで技巧的なスピード感あふれる華やかな小品。
    58. Charivary(シャリヴァリ/大騒ぎ):組曲のフィナーレ。当時のお祭りや大騒ぎを模した、エネルギッシュで極めて技巧的な難曲です。ヴィオールの超絶技巧と激しいリズムで圧倒的な大団円を迎えます


ヴィオラ・ダ・ガンバ(通常7弦)の弦の調律(D-G-c-e-a-d')において、ニ長調は開放弦の共鳴が非常に豊かに得られる調性です。
そのため、音がのびやかに広がり、華麗な音響効果を生み出します
第3巻が出版された1711年頃は、マレーがルイ14世の宮廷ヴィオール奏者として頂点に立っていた時期であり、演奏技法と作曲技巧の双方が調和した、フランス・ヴィオール音楽の洗練を象徴する組曲です。

心穏やかに安心して聞ける演奏


アウグスト・ヴェンツィンガー(August Wenzinger)は、20世紀における古楽復興運動の基盤を築いたスイスのチェロ奏者、ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者であり、、指揮者、音楽学者としても多くの仕事を成し遂げた人物です。
スイス・バーゼルに生まれ、バーゼル音楽院でパウル・グリュンマーにチェロを学びました。グリュンマーの影響もあってか、早くからヴィオラ・ダ・ガンバの研究に着手したようです。
もちろん、チェロ奏者としてもケルン音楽院で学び、さらにはベルリンでエマヌエル・フォイアマンにも師事もして腕を磨きました。

ですから、キャリアのスタートはブレーメン・フィルの首席チェロ奏者、バーゼル管弦楽団の首席チェロ奏者を務めることからスタートしています。
しかし、一方で1930年代からフルート奏者のグスタフ・シェックらと古楽器アンサンブルを結成し、本格的な歴史的演奏に傾倒していきました。
そして、1933年、パウル・ザッハーらと共にバーゼルに古楽専門の教育・研究機関「バーゼル・スコラ・カントルム」を設立し古楽復興に重心を置くようになっていきました

ちなみに、パウル・ザッハーはスイスの有名製薬会社のオーナーであった未亡人と結婚することで、巨万の富を手に入れた人物です。
そして、経営者としての手腕も発揮して会社の業績回復にも貢献したのですが、最大の功績は同時代の作曲家へのスポンサー役を果たしたことです。
彼は、バルトークやストラヴィンスキー、オネゲル、ヒンデミット、ヘンツェ、エリオット・カーターなどに作品を依頼し、その数は200を超えるとも言われています。
もしも、このザッハーの働きがなければ、20世紀のクラシック音楽はその相貌を変えていたかも知れません。」

そして、彼は20世紀の音楽だけでなく、「バーゼル・スコラ・カントルム」を設立することで古楽の復興においても大きな貢献を為したわけです。

アウグスト・ヴェンツィンガーもまた1935年から「ヴィオラ・ダ・ガンバ教本」を刊行します。モダン・チェロの技法に依存しない、バロック期の一次資料に基づいた本来のガンバ奏法(弓の持ち方、指使い、装飾法)を教授した教本でした。
また、オーケストラやオペラにおけるピリオド演奏の先駆けとしても役割を果たしました。

ただし、「ピリオド演奏なんて大嫌い」な「私の耳」が彼の演奏に拒否反応を起こしません。…という事は、その後のピリオド演奏の原理主義者たちからすれば物足りないものだったことは想像がつきます。
逆に言えば、「ピリオド演奏」という言葉が想起させる神経質な響きと演奏とは全く持って無縁なのです。
よって、私もまた心穏やかに安心して彼の音楽にひたることができたのです。

なお、合奏団の主なメンバーは以下の4名です。

  1. アウグスト・ヴェンツィンガー(August Wenzinger):主宰・指導者、およびバス・ヴィオール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)奏者

  2. ハンネローレ・ミュラー(Hannelore Muller):ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者

  3. ヨハネス・コッホ(Johannes Koch):ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者

  4. マリアンヌ・マイル(Marianu Majer):ヴィオラ・ダ・ガンバ奏者


それ以外に重要な共演・追加メンバーには、以下の演奏家たちがいました。

  1. 5人~6人編成時の追加ヴィオール奏者
    ヤン・クラフォール(Jan Crafoord):オルランド・ギボンズなどの「5声のファンタジア」を演奏・録音する際に、5人目のヴィオール(トレブル/テナー)奏者として最も頻繁に加わっていた重要なメンバーです。
    ゲルトルート・クラフォール(Gertrud Crafoord):ヤンと同じく、初期のコンソートの編成拡大や、コンサートのプロジェクト等にヴィオール奏者として随時参加していました。



  1. 通奏低音(リュート・鍵盤楽器)やその他の共演者
    ヴィオールだけの純粋な「コンソート」の枠を超え、スコラ・カントゥルムの公式アンサンブル(Konzertgruppe等)として録音を行う際、常に彼らと行動を共にしたコアメンバーです。
    オトマール・ニヒトブルガー(Othmar Machtiger):ヴィオローネ(大型の低音ヴィオール奏者)
    エドゥアルト・ミュラー(Eduard Muller):オルガン/チェンバロ奏者
    オイゲン・M・ドムボワ(Eugen M. Dombois):リュート奏者


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