ヤナーチェク:ヴァイオリン ソナタ(Janacek:Violin Sonata)
(Vn)ワルター・バリリ:(P)フランツ・ホレチェック 1954年録音(Walter Barylli:(P)Franz Holetschek Recorded on 1954)
Janacek:Violin Sonata [1.Con moto]
Janacek:Violin Sonata [2.Ballada]
Janacek:Violin Sonata [3.Allegretto]
Janacek:Violin Sonata [4.Adagio]
むき出しの感情が支配

ヤナーチェクの円熟期を象徴する極めて独創的な作品です。
若いころの「ドゥムカ」がロマン派的な情緒に包まれていたのに対し、「ヴァイオリン・ソナタ」ではむき出しの感情が支配しています。
その感情は第1次大戦に関わるものでした。
作品全体に漂う緊張感、鋭いアクセント、そして突発的な感情の爆発は、当時の社会不安や彼自身の精神的な葛藤を反映していると言われています。
また、従来のソナタ形式のような整然とした美しさではなく、「断片的」「突発的」なヤナーチェク独自の語法が全編を支配しています。
- 第1楽章:Con moto
ヴァイオリンの激しいソロで幕を開けます。情熱的な主題と、それを遮るようなピアノの鋭い動きが対照的です。
- 第2楽章:Ballada
「バラード」と題された、比較的穏やかで抒情的な楽章です。しかし、その甘美なメロディの中にも、時折不安を煽るような不安定な響きが忍び込みます。
- 第3楽章:Allegretto
スケルツォ風の楽章ですが、軽快さよりも「風刺」や「皮肉」を感じさせる独特のリズムが特徴です。モラヴィア民謡風の断片が顔を覗かせます。
- 第4楽章:Adagio
もっとも独創的な終曲です。ピアノが奏でる深い瞑想的な主題に対し、ヴァイオリンが「野蛮な」とも形容される激しいトリルやトレモロで割り込みます。静寂と咆哮が交互に現れ、最後は静かに消え入るように終わります。
人間の話し言葉のイントネーションを音楽化するヤナーチェクの手法が、ヴァイオリンの旋律にも強く現れています。
まるで楽器が何かを必死に訴えかけているような、生々しい表情が魅力です。
ウィーンの凄腕たちの職人技
ワルター・バリリはウェストミンスターでヤナーチェのかなりマイナーな作品の録音を残しています。
ヤナーチェクのヴァイオリン・ソナタやコンチェルティーノなんてのはかなりマイナーです。
ですから、その背景としてヤナーチェクと何らかのつながりがあったのかなとも思ったのですが、AIさんに聞くと「そんなものはない}」とのことでした。
となると、自ら進んで録音したいというわけもないでしょうから、それはレーベル側からの依頼という事になるのでしょう。
そこで思い当たるのはウェストミンスターの録音戦略です。
ウェストミンスターのような新興レーベルがベートーヴェンやブラームスみたいなメジャー作品を録音しているだけでは、大手のRCAやコロンビアの陰に埋もれてしまいます。
そこでウェストミンスターは、「未録音の珍しい名曲を、ウィーンの一流演奏家を使って高音質でレコード化する」という戦略を練り上げたのでした。
ヤナーチェクの室内楽などは、そういう方針にピッタリの作品だったのです。
そして、そういうレーベル側からのかなり無理筋なお願いに対しても、決して無碍に断らなかったのがバリリだったようです。
例えば、こんなこともありました。
ウェストミンスターレーベルはモーツァルトの弦楽四重奏曲をウィーン・コンツェルトハウス四重奏団やアマデウス弦楽四重奏団を使って51年から録音を開始しています。
いわゆる「ハイドンセット」以降の有名作品はそれらの団体で録音していて、バリリは53年から残された作品を録音しているのです。
53年と54年にはハイドンセットの14番とプロイセン四重奏曲の21番と22番を録音していて、続く55年には残された初期作品を一気に録音しているのです。
おそらく、55年にこれらの初期作品が一気に録音された背景には翌56年がモーツァルトの記念イヤーであったからでしょうが、どう考えてもそれほど楽しい作業ではなかったと思わざるを得ません。
とにかく、バリリとはそういう人だったようです。
そして、引き受ける以上は「ウィーンの凄腕たちの職人技」を存分に発揮しているのも頭が下がります。
ヤナーチェク特有の語り口は大切にしながら、ウィーンならではの美音や洗練されたアンサンブルで泥臭くなることを免れています。
まさに、ウェストミンスターが狙った「珍しい名曲を、ウィーンの一流演奏家を使って録音する」というコンセプトに、見事にこたえていたのです。
演奏者
- (P)フランツ・ホレチェック (Franz Holetschek):ウィーンの数多くの室内楽録音で活躍した名手。
- (1st. Violin)ワルター・バリリ (Walter Barylli):バリリ四重奏団主宰、ウィーン・フィル・コンサートマスター。
- (2nd. Violin)オットー・シュトラッサー (Otto Strasser):バリリ四重奏団メンバー。
- (Viola)ルドルフ・シュトレンク (Rudolf Streng):バリリ四重奏団メンバー。
- (Clarinet)アルフレート・プリンツ (Alfred Prinz):ウィーン・フィルの首席奏者。当時まだ20代前半の若き名手。
- (Horn)ゴットフリート・フォン・フライベルク (Gottfried von Freiberg):ウィーン・フィルの伝説的ホルン奏者。
- (Fagot)カミロ・エールベルガー (Karl Ohlberger):ウィーン・フィルの首席奏者
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