ヴィヴァルディ:「調和の霊感」より協奏曲ニ短調 Op.3-11, R.565
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 ベルリン国立歌劇場管弦楽団 1958年1月録音
Vivaldi:Concerto for 2 Violins and Cello in D minor, RV 565(L'estro Armonico, Op.3 No.11) [1.Allegro - Adagio e spiccato - Allegro]
Vivaldi:Concerto for 2 Violins and Cello in D minor, RV 565(L'estro Armonico, Op.3 No.11) [2.Largo e spiccato]
Vivaldi:Concerto for 2 Violins and Cello in D minor, RV 565(L'estro Armonico, Op.3 No.11) [3.Allegro]
バッハがオルガン協奏曲に編曲した作品

ヴィヴァルディと言えば「四季」が真っ先に思い浮かび、さらにその作品の「認知度」が非常に高いので、ヴィヴァルディその人の認知度も非常に高いものがあります。しかしながら、それではヴィヴァルディの作品で「四季」以外の作品を一つあげてくださいと言われれば大多数の人は答えに窮するでしょう。
もしかしたら、ヴィヴァルディって「四季」だけの一発屋だったのかという誤解すら招きかねない雰囲気です。
しかしながら、彼がその生涯に残した作品は残っているものだけでも膨大な数に上ります。私の手もとにも「Brilliant Classics」がリリースした「Vivaldi - The Masterworks」というボックス盤があるのですが、それは40CDという膨大な量です、しかし、これでも彼の残した作品をコンプリートしているわけではないようです。
その内容は多種多様な楽器を用いた室内楽作品や協奏曲、さらにはシンフォニアや歌劇、宗教作品に至るまで、途轍もなく幅広いものです。
そして、音楽というものの本質の一つが聞くものの心を楽しませる「娯楽」という側面を持っていることは否定できない事実ですから、そこに焦点を与えれば、ヴィヴァルディこそはもっとも偉大な音楽家の一人だと確信している友人もいるほどです。
にもかかわらず、ヴィヴァルディと言えば「四季」という範疇からなかなか抜け出せないのです。
なお、この「調和の霊感」は、もしかしたら「四季」に次いで彼の作品の中では有名な作品かも知れません。全12曲からなる協奏曲集で、独奏楽器は全てヴァイオリンです。ただし、ヴァイオリンが2台、4台使用するものもあり、中には協奏曲と言うよりはコンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)に近い形式のものも含まれてます。
特に、この全12曲の中ではこの第11番の作品がもっとも有名であり、形式としては3楽章形式の「2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲」と見るか、5楽章形式と解される「コンチェルト・グロッソ」と見るかは演奏者の解釈にゆだねられるようです・
そして、この作品が何故に有名かと言えば、あのバッハがこれを「オルガン協奏曲第5番ニ短調 BWV596」に編曲しているからです。徳に、「Largo e spiccato」と記されたシチリアーナにかんしてはバッハはほとんど手を加えていないそうです。
取り扱いは要注意の演奏
ピリオド楽器による演奏ついては常に否定的な物言いをしてきた私ですが、さすがにこういう演奏を聞くと「うーん」と考え込んでしまいます。(^^;
そう言えば、こういう感じのバロック演奏をどこかで聞いたような覚えがあるなと思いをめぐらせて思い出したのがハンス・シュミット=イッセルシュテットが指揮をしたパッヘルベルの「カノンとジーグ」でした。あの演奏では冒頭のあまりにも分厚い低声部の響きを聞いて度肝を抜かれたのですが、このマタチッチのヴィヴァルディはその比ではありません。
まさに、これはモンスター級のバロック演奏です。
もはや冒頭部分からの響きは分厚いと言うよりは大地が鳴動するかのような凄みに満ちていて、その低声部を土台として壮大なピラミッド型の響きが作りあげられています。
イッセルシュテットの演奏を聞いたときに、同時代の演奏としては、クナッパーツブッシュの管弦楽組曲第3番(バッハ)やフルトヴェングラーのブランデンブルグ協奏曲なども同じような雰囲気ではあるものの、それでもそこまで低声部を分厚くは響かせていないので、こういう時代においてもさらに異色な音楽の形だったのかもしれないと思ったものです。
ですから、それすらも上回るこの重厚な響きによるヴィヴァルディは、異形という言葉すらあてはまらないような演奏です。
ただし、ヴィヴァルディ本人にしてみれば、自分の作品が死後数百年後にこういう形で蘇ったと知れば、結構ニヤリと笑うかもしれません。何といっての彼の本質は興業屋ですから、受けてなんぼと言うことを知り尽くしていた人でした。
ただし、一番最初に聞いてはいけない作品であることは間違いないので、取り扱いは要注意です。(^^;
よせられたコメント
2020-06-05:エラム
- マタチッチという指揮者は、レパートリーという面でも懐が深かったと思います。
マタチッチは来演を重ねたN響で、大規模合唱を伴う楽曲も度々取り上げましたが、古くはモンテヴェルディの「聖母マリアの夕べの祈り」からストラヴィンスキーの「詩編交響曲」まで、実に広範なものでした。
十八番のブルックナーを筆頭にワーグナーやR.シュトラウスといったロマン派の作品のみならず、ハイドンやベートーヴェンなどの古典派、そしてバロック音楽にも大きな力を発揮したのがマタチッチという指揮者でした。
殊に1967年11月から年末にかけてのN響登場時は圧巻で、得意とするR.シュトラウスやブルックナー(5番)を指揮したあと、先述の「聖母マリア」、バッハ「クリスマス・オラトリオ」、ヘンデル「メサイア」(、そして「第九」)を続けざまに取り上げています。これをやったN響も凄い。
この「調和の霊感」は確かに怪物のようで困惑を覚えますが、バロック音楽も愛したマタチッチの一面の例証と言えるでしょう。
それにしてもマタチッチが欧米で不遇な扱いを受けたのは不可解です。
コロナ禍で昔の録音に色々手を伸ばす中、最近は70年代後半以降のマタチッチ晩年のライヴ録音を集中的に聞いていますが、どれもこれも実に見事なものです。
ブルックナー5番(1979年・フランス国立管)、スメタナ「我が祖国」(1982年・オーストリア放送響)、ブルックナー3番(1983年・フィルハーモニア管)等々。
どれを聞いてもマタチッチに期待する、真っすぐで迫力満点の演奏(彼の真価はパワーだけではなく例えばブルックナーの緩徐楽章のような神を細部に宿すような音楽にも見出せますが)が聴けますが、個人的に感じ取ったことは、オケが実に協力的に思えるということです。
N響元主席トランペット奏者の北村源三氏が、マタチッチの指揮だと演奏中に幸福感に包まれていることが多々あったと証言していますが、先述の録音からは大いなる悦びの下で演奏しているオーケストラの面々の姿が浮かんでくるようです。
また、とかく「分かりにくい」という風評が蔓延しているマタチッチの指揮ですが、それは1984年の最後のN響来演時の姿があまりにも印象的なのが大きな要因だと思います。
マタチッチが1978年にブルックナー「ロマンティック」を指揮した映像(オケはスイス・ロマンド管)がありますが、上手くはなくとも意外に細かい指揮姿が見て取れます。
人種的な問題なのか、親ナチとされる経歴が一因なのか、単に高齢ゆえにお呼びがかからなくなったのか(ユング様も指摘されているように、欧米では日本のようにシルバー優先主義は通用しない)・・・
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