モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第6番 変ホ長調 K.268/Anh.C 14.04(偽作)
(Vn)クリスチャン・フェラス:カール・ミュンヒンガー指揮 シュトゥットガルト室内管弦楽団 1954年録音
Mozart:Violin Concerto in E-flat major, K.268/Anh.C 14.04 [1.Allegro moderato]
Mozart:Violin Concerto in E-flat major, K.268/Anh.C 14.04 [2.Un poco adagio]
Mozart:Violin Concerto in E-flat major, K.268/Anh.C 14.04 [3.Allegretto]
ヨーハン・フリードリヒ・エックが仕立て上げた「偽作」とされています

現在では、この作品は明らかにモーツァルトの作品ではない「偽作」だとされています。
アインシュタインもこの作品に関しては疑問を持っていたようで、おそらくは1780年代末にザルツブルグかミュンヘンで書かれたものだろうと推測しながら、その実態はモーツァルト自身の手になるごく僅かの草稿をもとにして、ミュンヘンの若いヴァイオリニスト、ヨーハン・フリードリヒ・エックが仕立て上げたものだろうと述べていました。おそらくその草稿は第1楽章とロンド楽章のごく一部だけと思われ、中間の楽章はモーツァルトとは縁もゆかりもない音楽であり、我々はそれらに関わり必要はないと言いきっていました。
このエックと言うヴァイオリニストとモーツァルトは、1780年にモーツァルトが「イドメネオ」を上演するためにミュンヘンを訪れたときに出会ったようで、それ以後親交を持つようになったようです。そして、その交流の成果もあってか、彼自身も1780年代を中心に5曲のヴァイオリン協奏曲を残しているそうです。
なお、この作品は最初からから偽作と思われていたのですが、そのモーツァルトらしからぬ書き方から、ケッヘル第6版では正式に(^^;「偽作および疑義ある作品」に置かれ、新全集では収録されていないようです。
清楚さのなかに色っぽさも十分含まれている
こういう、滴るような美音でモーツァルトを描ききったフェラスの演奏を聞かされると、「どうしてなんだ!」という思いがどうしても抑えきれません。
クリスチャン・フェラスと言えば、どうしても60年代にカラヤンと協演した録音でもって記憶されています。ところが、そう言うからヤンと協演した演奏と較べてみれば、これはもう別人の手になる演奏のように聞こえるのです。そして、その様な「変貌」はカラヤンに引きずり回された結果であり、その果てにに自宅アパートの10階から投身自殺せざるを得なかったとも言われます。もちろん、「それは違う」と言ってからヤンを擁護する向きもあって、それはそれで妥当性があるのです。
すでに何度もふれているので繰り返しは避けますが、時代は主観性を重んじるスタイルから客観性を重視するスタイルへと移り変わっていました。そして、フェラスというヴァイオリニストはカペーを師としたことからも分かるように、古い世代に属する音楽家でした。
しかし、カラヤンとの協演盤を聞くと、そう言う古い世代の音楽家から新しい音楽家へと変貌を遂げているのが分かります。そして、その「変貌」はカラヤンが求めたものであると同時に、フェラス自身も「求めた」ものであったのです。
しかし、時代はめぐって、その様な客観性に多くの人が飽き飽きしてきたときにこのような演奏を聞かされると、どうして変わる必要があったのだろうと思わずにはおれないのです。
それが最初に記した「どうしてなんだ!」の真意なのです。
ミュンヒンガーと言う人はバロック音楽御用達の指揮者のように思われるのですが、モーツァルトあたりまでならそれほど問題はなかったようです。
そう言えばこんなエピソードが残っています。
ミュンヒンガーのバロック音楽のレコードの売り上げはいつも上々なので、それを梃子にウィーンフィルとベートーベンを録音させろと要求したことがあるそうです。ミュンヒンガーの要求をむげにも出来なかった「Decca」は、それでは試しにと「序曲集」を録音したのですが、それはそれは酷い出来だったそうで、ウィーンフィルからも「二度とあんな奴を指揮者としてよこすな」と通告されたそうです。
ただし、これは「Decca」側からの言い分なので真偽のほどは確かではありませんし、その「序曲集」は一応はリリースされているのですから話は半分程度に聴いておいた方がいいかもしれません。
ここでのミュンヒンガーは実にゆったりとしたテンポでモーツァルトを描いていて、その上でソリストが自由に振る舞うには最適のステージを作りあげています。そして、フェラスという人はそう言う舞台を設えてもらって「後はご自由にどうぞ」と言われたときにもっとも力が発揮するタイプのようなのです。
ただし、滴るような美音と言ってもその美音は基本的には清楚です。思い入れたっぷりにヴィブラーとをかけまくると言うほど古いタイプではないのですが、それでもその清楚さのなかに色っぽさも十分含まれているところが素敵なのです。
それから、もう一つ記しておかなければいけないの、53年のモノラル録音とは思えないほどに、ふくよかで豊かな音が収められていることです。
この時代のツボにはまった「Decca」録音は凄いのです。
よせられたコメント
2024-06-03:joshua
- 3.4番では物足りないので、5番ばかり聴いていると飽きてしまったところで、この6番は美味しいです。グリュミオーのモノラル盤にはない、別のあでやかさがあります。偽作であろうとも、これをフェラスで聴いている間は幸せな気分になれました。
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