バルトーク:子供のために Sz.42(Bartok:For Children, Sz.42)
(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月12日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 12, 1951)
Bartok:For Children, Sz.42 [6. Study for the Left Hand]
Bartok:For Children, Sz.42 [10. Children's Dance]
Bartok:For Children, Sz.42 [13. Ballad. Andante]
Bartok:For Children, Sz.42 [14. Allegretto]
Bartok:For Children, Sz.42 [15. Allegro moderato]
Bartok:For Children, Sz.42 [18. Sailors' Song. Andante non molto]
Bartok:For Children, Sz.42 [19. Allegretto]
Bartok:For Children, Sz.42 [21. Allegro rubusto]
Bartok:For Children, Sz.42 [25. Parlando]
Bartok:For Children, Sz.42 [26. Moderato]
Bartok:For Children, Sz.42 [30. Jeering Song. Allegro ironico]
Bartok:For Children, Sz.42 [31. Andante tranquillo]
Bartok:For Children, Sz.42 [32. Andante]
Bartok:For Children, Sz.42 [33. Allegro non troppo]
Bartok:For Children, Sz.42 [34. Allegro]
Bartok:For Children, Sz.42 [35. Con moto]
Bartok:For Children, Sz.42 [36. Drunkard's song. Vivace]
Bartok:For Children, Sz.42 [37. Swine-herd's Song. Allegro]
Bartok:For Children, Sz.42 [39. Allegro moderato]
Bartok:For Children, Sz.42 [40. Swine-herd's Dance. Allegro vivace]
教育用ピアノ曲のあり方を大きく変えた作品
この作品は「子供のために」としながらも、「子供向けの練習曲」にとどまらない魅力を持っています。
この曲集の最大の特徴は、バルトークがハンガリーやスロバキアの各地で実際に農民から採集した本物のわらべ歌や民謡をベースにしている点です。
子供たちが最初に触れる音楽として、作り物ではない「土地に根ざした生命力のあるメロディ」を与えたいという、バルトークの教育者としての情熱が込められています。
確かに、「子供のために」と題されている通り、1オクターブに手が届かない子供でも弾けるように和音の幅を調整するなど、技術的には初心者でも弾けるよう工夫されています。
しかし、その中身は驚くほど近代的で、長調・短調だけでなく、民謡特有の旋法(モード)が使われています。これにより、子供たちは早い段階から「ドレミ」以外の多様な音の並びや、20世紀音楽の新鮮な響きに触れることができます。
この曲集は、その後の教育用ピアノ曲のあり方を大きく変えました。
それまでの練習曲が「指を動かすための機械的な訓練」に偏りがちだったのに対し、バルトークは「音楽的な感性を養い、同時に自国の文化を知る」ことを重視したのです。
主な楽曲をいくつか紹介しておきます。
第1巻・第2巻(ハンガリー民謡編)より:ハンガリー編は、短く、はっきりとした性格を持つ曲が多いのが特徴です。
第1曲「遊んでいる子供たち」
誰もが一度は耳にしたことがあるような、素朴で愛らしい旋律から始まります。
ハ長調の非常にシンプルな指使いですが、バルトークの音楽世界の入り口として完璧な一曲です。
第3曲「合唱」
左右の手が追いかけっこをするような「カノン」の形式を学べます。
子供向けの短い曲の中に、バルトークが得意とした対位法の基礎が隠されています。
第13曲「バラード」
少し悲しげでドラマチックな響きです。
ハンガリーの古い物語を読み聞かせているような、情緒豊かな表現力が求められます。
第21曲「冗談」
スタッカートが多用される、非常に快活な曲です。
バルトークらしい、少し「ひねり」の効いた和音のスパイスが、ユーモラスな雰囲気を演出しています。
第40曲「豚飼いの踊り」
ハンガリー編を締めくくる、最も有名な一曲です。
激しいリズムと力強いアクセントが特徴で、『アレグロ・バルバロ』にも通じる「打楽器的なピアノ」の片鱗を感じることができます。
第3巻・第4巻(スロバキア民謡編)より:スロバキア編は、ハンガリー編に比べると旋律がより長く、叙情的で少し複雑な響きを持つ曲が増えます。
第42曲「草刈りの歌」
スロバキアの美しい田園風景が浮かぶような、のどかなメロディです。
民謡特有の、少し「ため」のあるリズムを学ぶのに適しています。
第57曲「悲しみ」
非常に美しく、胸を打つ小品です。
バルトークは、子供が持つ繊細な感情を、決して子供騙しではない「本物の和音」で描いています。
第58曲「踊り」
「ルーマニア民俗舞曲」を彷彿とさせる、軽快なステップの曲です
。拍子の感覚が途中で変化するような、独特のドライブ感があります。
第79曲「わらべ歌」
曲集の最後を飾る、静かで祈りに満ちた一曲です。深い余韻を残しながら全巻を閉じます。
バルトークの精神的な継承者
シャーンドルはブダペストのリスト音楽院でバルトークにピアノを、ゾルターン・コダーイに作曲を学びました。考えてみれば、これは凄いことです。
さらに、バルトークから直接指導を受けた数少ない門下生の一人だと言うことで、彼ほどバルトークの演奏スタイルや音楽思想を身につけたものはいませんでした。
バルトークのピアノ音楽と言えば暴力的で打楽器的なものと誤解されがちです。
しかし、シャンドールはその様な当時の風潮に異を唱え、バルトークが重視していた「歌」と「柔軟性」を示してみせませした。
シャーンドルの演奏を聞いていて、まず感心させられるのは透明度の高い響きです。
彼は自身の演奏哲学を「On Piano Playing(ピアノ演奏の技術)」という著書にまとめるほど、科学的かつ合理的なアプローチを重視していました。
シャーンドルの演奏は、指の力だけで弾くのではなく、腕や肩の重さを効率よく鍵盤に伝えるスタイルでした。
非常に速いパッセージや激しい打楽器的フレーズでも、体全体がリラックスしており、無駄な動きがありませんでした。そのため、長時間の演奏でも音が濁る事はなく常にクリアな輪郭を保ちました。
その事が声部の完璧なバランスとして結実していて、バルトークの音楽の構造を明瞭に聞き取らせてくれます。
また、ハンガリー語を母国語としていたのですから、バルトークの音楽の根っこにあるハンガリー語特有のアクセントやリズムの把握の仕方も完璧だったようです。
バルトークならではの鋭いリズムの中にも、民謡のようなしなやかな旋律線を描き出す手腕はシャンドールならではのものでした。まさに、シャンドールこそがバルトークの「最も忠実な代弁者」だったのです。
そして、二人の親密な関係はバルトークがナチスの台頭を逃れてアメリカへ亡命した後も続きました。
バルトークの葬儀にはわずか10名ほどしか参列者がいなかったのですが、その10名の中にシャーンドルの姿もありました。彼は、師であるバルトークが最も苦しい時期に寄り添いました。
そして、バルトークの「精神的な継承者」として演奏活動を続け、ピアノ作品の全曲録音を二度にわたって行いました。
シャンドールを聞かずしてバルトークは語るなかれ・・・と言っても、言い過ぎではないかと思います。
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