シューベルト:ピアノソナタ(第21番) 変ロ長調 D.960
ハスキル:1951年6月録音
Schubert:ピアノソナタ第21番 D960 「第1楽章」
Schubert:ピアノソナタ第21番 D960 「第2楽章」
Schubert:ピアノソナタ第21番 D960 「第3楽章」
Schubert:ピアノソナタ第21番 D960 「第4楽章」
王冠の煌めく作品

シューベルトの死の年になる1829年の9月に、わずか数週間の間に遺作となる3つのソナタが書かれました。ハイドン・モーツァルト、そして何よりもベートーベンのソナタ作品の模倣から始まったシューベルトのピアノソナタは、ここにおいて確固とした自らの言葉を獲得しました。
3作品の中でも、通常19番・20番とナンバーリングされるソナタは、シューベルト的というよりは、ベートーベン的なるものの総決算という雰囲気が強い作品です。その意味では、それらに先行するD.850やD.845などの作品よりは後退しているように見えるかもしれませんが、それは一年前に他界したベートーベンへの追悼の意味を込めて書いたためだと言われています。
そして、シューベルトはそれら2作品で内在する「ベートーベン的なもの」を総決算することで、最後の変ロ長調ソナタにおいて真にシューベルト的な世界へと歩を進みはじめたのです。
ただし、その最初の大きな一歩が、シューベルトの人生においては最後の一歩になってしまったところに言いようのない痛ましさを感じてしまいます。
シューベルトはこのソナにおいて、ベートーベンとは全く異なった言葉で音楽を語っています。
彼はもはやベートーベンのように主題を小動機に分解して音楽を構築しようとはしていません。主題は繰り返される転調によって響きを変化させ、その響きの移ろいによってによって音楽は構築されていきます。主要主題はその旋律線を崩すことなく、自立性を保って楽章全体を支配しています。
「シューベルトのピアノ作品の中で王冠の煌めいているのは何よりも変ロ長調ソナタであり、ベートーベン以後に書かれた最も美しいソナタである」という言葉は、決して誉めすぎではないのです。
内奥に炎を燃やしている演奏
ここでのハスキルは何の気負いもなく、淡々とこの歌に満ちた音楽を歌いついでいきます。それは昨今のピアニストによる凝りすぎたシューベルト演奏とは対極にあるものです。そう、昨今のピアニストは他者との違いを明確にしたいためなのか、あまりにも手練手管を弄しすぎます。そして、策士策におぼれるような事態を招いています。
ある人はこのハスキルの演奏を「枯れた演奏」だと評していました。しかし、注意しないといけないのは、その枯れて淡々とした演奏の奥に炎が燃えていることを見逃したのでは、この演奏の真価をつかみ損ねることになります。
数は多くないハスキルの録音ですが、その中でも最も素晴らしい録音の一つだといえます。
よせられたコメント
2010-09-20:sikaura
- このレコードは、3,4年前に中古レコード店で購入していたのですが、リヒテルの演奏に慣れた耳には、なんか音が強すぎるというか、硬すぎる気がしてうまく気分を合わすことが出来ません。
モーツァルト演奏と違い違和感を抱いてしまうのは、リヒテルに慣れ過ぎのせいですかね。
2013-02-04:シューベルティアン
- ふつうならぐっと力がこもるところを、さらと撫でるように通り過ぎていく。そこになんともいえない女性らしさを感じる。
テンポを恣意的に上げたり下げたりするのは、それがまったく自然なときには魅力になる。このハスキルにもぐっと落とすところがあるが、わざとらしくない。「うれしいため息」とでもいった趣きがある。かなりまずい録音だが、機械的雑音の向こうからふしぎな温もりが漂ってくる。
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