ドビュッシー:ピアノのために
(P)アルベール・フェルベール1955年6月21~22日録音
Debussy:Pour le piano [1.Prelude]
Debussy:Pour le piano [2.Sarabande]
Debussy:Pour le piano [3.Tovvata]
ドビュッシーのピアノ作品の概観
フェルベールのおかげでドビュッシーのピアノ曲を少しは楽しく聴けるようになってきました。少なくとも、以前のような「聞いているうちに必ず眠ってしまう」というような拒否感はなくなってきました。そして、これはいつも不思議に思うのですが、そうやって一度拒否感がなくなってしまうと、今まで「眠って」しまっていた演奏もそれなりに面白く聴けるようになってくるのです。
不思議と言えば不思議な人間の感性です。
そして、そうやってある程度まとまってドビュッシーのピアノ曲を聴いていると、以下のような区分けも何となく納得できます。
ドビュッシーのピアノ強は、その創作年代と発展の過程をもとにすると、以下のように区分されるそうなのです。
1880年~1890年:青春時代の作品(「2つのアラベスク」「夢想」など)
1890年~1901年:成熟に達する過渡期の作品(「ベルガマスク組曲」「ピアノのために」など)
1903年~1907年:成熟期の最初の作品(「版画」「映像」」など)
1908年~1909年:一段落して内輪に眼が向けられた作品(「子供の領分」「ハイドン礼賛」など)
1909年~1913年:成熟期の次のステップに向かう作品(「前奏曲集」など)
1915年~:ドビュッシー音楽の行き着いた姿を示す作品(「練習曲集」)
もちろん、第6期を前にしても「おもちゃ箱」とか「英雄的な子守歌」のようなそれほど重要とは思われない作品は存在します。
しかし、こうして眺めてみると、ドビュッシーのピアノ音楽がどのように成熟していったのかが納得できます。
初期の作品は、例えば「2つのアラベスク」や「ベルガマスク組曲」のように、ドビュッシーらしい響きを持ちながらも、その旋律ラインの美しさが特徴的です。
ですから、ドビュッシーの作品で人気があるのはこの時期の作品に集中しています。
「2つのアラベスク」の第1曲「プレリュード」冒頭の美しいアルペッジ、「ベルガマスク組曲」第3曲「月の光」のロマンティックな情緒は高いポピュラリティを持っています。
司会、これを持ってドビュッシーのピアノ曲を代表させると大きな間違いを引き起こします。
やがて、彼は「版画」において新しい方向性を模索し始めます。
専門的な音楽教育とは無縁だった人なので詳しいことはよく分からないのですが、聞くところによると、ここで初めてドビュッシーは古典的な和声理論ではNGとされていることを導入したらしいです。
具体的には、第1曲の冒頭から嬰ト音と嬰へ音が鳴るらしいのですが、そんな小難しいことは分からなくても、この作品の冒頭部分を聞くだけで、には今までにない響きが存在することは容易に了簡できるはずです。
そう言う意味で、一般的に「印象派」と呼ばれるドビュッシー的な世界はここからスタートします。
そして、この方向性はこれに続く2集の「映像」によってさらに先へと進められます。
そこでは、音楽は機能的な和声から自由となり、旋律や旋律の展開ではなく浮遊する響きによって自然の情景が描かれていきます。そして、ここで用いられた繊細なアルペッジョが絵画の分野における印象派の光と影の世界を連想させるものだったので、この「印象派」という言葉がドビュッシーなどにも用いられたのでしょう。
この新しい「革新的な世界」は娘エマの誕生で一段落します。(子供の領分)
しかし、この親バカ期をくぐり抜けたドビュッシーは最後の段階へと歩を進めていきます。それが、1909年から取り組まれた「前奏曲集」です。
「版画」や「映像」では少なくとも3曲ずつまとめて、さらには「標題」も与えてある種のまとまりを与えようとしていました。
しかし、ここにきて、ドビュッシーは何らかのまとまりを持って作品集とすることを放棄します。ですから、ショパンへのオマージュである「前奏曲集」なのですが、ここではショパンのように24曲で一つのまとまりとなることを拒否しています。
また、今までの作品では必ず与えられていた「標題」もここでは後退して、標題らしきものは曲の終わりに括弧書きで示されるにとどまります。結果として、音楽から叙情的な旋律はますます後退し、それに変わって音色とリズムによって描き出されるヴィジョンこそが重要になっていきます。
そして、最後の「練習曲集」に至ってドビュッシーの挑戦は終わります。
ここでは一つ一つの和声は全体の構成の中で位置づけられて意味を持つのではなく、まさに響きそのものとして存在することで音楽を成り立たせています。
彼はこの作品に「和声の花の下に過酷な技巧をつつみ隠している」と述べています。ドビュッシーが生涯にわたって追求した和声の花、微妙な陰影と精緻な響きがここに咲き誇っています。
「ピアノのために」
一般的には「ベルガマスク組曲」に次ぐピアに作品と位置づけられるのですが、両者の間には0年以上もの空白が存在します。その間にドビュッシーはいくつかのピアノ小品は作曲しているので、そう言う小さな試みの集大成とも言える作品かもしれません。
聴けば分かるように、華やかな演奏効果を持った作品であり、高度な演奏技術が求められる作品でもあります。
「プレリュード」:高度な演奏技術が必要らしいです。とにかく華やか!!
「サラバンド」:優雅な音楽で繊細な表現が特徴
「トッカータ」:冒頭に「Vif(活発に)」と記されているように、急流を滑り落ちような音の流れが魅力的
茫洋とした響きがクリアに表現されている演奏
「Albert Ferber」は「アルベール・フェルベール」と読むそうです。そんなことを紹介しなければいけないほどに、このピアニストは忘れ去られた存在になっています。
調べてみると、1919年にスイスのルツェルンに生まれ、マルグリット・ロンやヴァルター・ギーゼキングといった名匠に師事し、ラフマニノフの薫陶も受けたピアニスト・・・という紹介がされていました。
そして、ピアニストとして成功してからは活動の本拠をイギリスに据えるのですが、録音活動は「デュクレテ=トムソン」と言うフランスのローカルレーベルで行ったので、フランス風の「アルベール・フェルベール」が定着したようです。
彼はこの「デュクレテ=トムソン」というレーベルでかなり多くの録音活動を行い、特にこのドビュッシーの録音は高く評価されたようです。
しかし、ローカルレーベルの悲しさか、レーベルの消滅とともに彼の録音も忘れ去られてしまったようです。
ただし、中古LP市場ではかなりの高値で取引されているようですから、一部の好事家の間での評価は高かったようです。
そして、最近になって、漸くにしてCDによる復刻がなされ、誰もが簡単に聞けるようになってみると、なるほど、分かっている人には分かっていたんだと納得できる素晴らしい演奏でした。
そして、個人的な感想を言わせてもらえば、どうにもこうにも苦手だったドビュッシーのピアノ作品を、初めて面白く聞かせてもらえることができました。
私が苦手だったのは、あの茫洋としたドビュッシーの響きです。
何を言ってるんだ、それこそがドビュッシーの魅力なんだろう!と言われそうなのですが、まさにそれこそが「嫌い」だったのです。
しかし、このフェルベールのピアノによるドビュッシーには、そう言う茫洋とした雰囲気が希薄です。
おかしな言い方ですが、その茫洋とした響きがクリアに表現されているような気がするのです。ですから、ドビュッシーの音楽にいつも感じるとりとめのなさが姿を消して、どこかにとっかかりを持ちながら聞き続けることができるのです。
そう考えると、これは異端なドビュッシー演奏なのかも知れませんが、これを好きだという人がいて、とんでもない高値で中古LPを購入する人もいるのですから、これはこれで立派なドビュッシーなのでしょう。
なお、「デュクレテ=トムソン」というレーベルはかなりの優秀録音だったようで、50年代中頃のモノラル録音とは信じがたいほどのクリアな音質です。
また、彼のドビュッシー演奏の中ではこの「前奏曲集」が最も高く評価されているようです。しかし、その是非を判断できるほど良いドビュッシーの聞き手ではありません。
しかし、一つだけ言えることは、この「前奏曲集」を最後まで退屈しないで聞き続けられる数少ない演奏であるとことです。その事だけは、責任を持って保障できます。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-09-18]
ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 作品55 「英雄」(Beethoven:Symphony No.3 in E flat major , Op.55 "Eroica")
エーリッヒ・クライバー指揮 ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Erich Kleiber:Vienna Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2026-09-16]
ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 変ホ長調 「海の嵐」Op. 8, No. 5, RV 253(Vivald:Violin Concerto in E-Flat Major, Op. 8, No. 5, RV 253, "La tempesta di mare")
(Vn)フェリックス・アーヨ:イ・ムジチ合奏団 1961年9月20日~28日録音(Felix Ayo:Musici, I Recorded on September 20-28, 1961)
[2026-09-13]
アルビノーニ:ソナタ イ長調(Albinoni:Sonata In A Major, Op. 2, No. 3)
レナート・ファッサーノ指揮:ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:Virtuosi Di Roma Published in 1958)
[2026-09-11]
J.S.バッハ:管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067(J.S.Bach:Orchestral Suite No.2 in B minor, BWV 1067)
クルト・レーデル指揮:(Fl)クルト・レーデル ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:(Fl)Kurt Redel The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)
[2026-09-08]
サンティーノ・ガルシ:リュート曲集(Santino Garsi:Pieces For Lute)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:1953年4月7日~8日録音(Walter Gerwig:Recorded on April 7-8, 1953)
[2026-09-06]
オーランド・ギボンズ:幻想曲(Gibbons:Fantasies)
スコラ・カントゥルム・バジリエンシス・ヴィオール属合奏団:1954年4月29日~5月3日録音(Gambenconsortder Schola Cantorum Basiliensis:Recorded on April 29-May 3,1954)
[2026-09-04]
シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 Op.70(Schumann:Adagio and Allegro, Op.70)
(Hr)デニス・ブレイン:(P)ジェラルド・ムーア 1952年録音(Dennis Brain:(P)Gerald Moore Recorded on 1952)
[2026-09-02]
C.P.E. バッハ:フルート・ソナタ ト短調, H.542.5(C.P.E.Bach:Flute Sonata in G minor, H.542.5)
(Fl)オーレル・ニコレ (Harpsichord)カール・リヒター 1963年6月12日~15日録音(Aurele Nicolet(Harpsichord)Karl Richter Recorded on June 12-15,1963)
[2026-08-30]
アルビノーニ:オーボエ協奏曲 ニ長調, OP.7 No.6(Albinoni:Oboe Concerto in D major, Op.7 No.6)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)
[2026-08-28]
J.S.バッハ:管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066(J.S.Bach:Orchestral Suite No.1 in C major, BWV 1066)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)