クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バッハ:無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012

(Vc)ヤーノシュ・シュタルケル 1965年9月録音



Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [1.Prelude]

Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [2.Allemande]

Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [3.Courante]

Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [4.Sarabande]

Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [5.Gavottes]

Bach:Cello Suite No.6 in D major, BWV 1012 [6.Gigue]


組曲について

「組曲」とは一般的に何種類かの舞曲を並べたもののことで、16世紀から18世紀頃の間に流行した音楽形式です。この形式はバロック時代の終焉とともにすたれていき、わずかにメヌエット楽章などにその痕跡を残すことになります。
その後の時代にも組曲という名の作品はありますが、それはこの意味での形式ではなく、言ってみれば交響曲ほどの厳密な形式を持つことのない自由な形式の作品というものになっています。
この二通りの使用法を明確に区別するために、バッハ時代の組曲は「古典組曲」、それ以後の自由な形式を「近代組曲」とよぶそうです。まあ、このような知識は受験の役に立っても(たたないか・・)、音楽を聞く上では何の役にも立たないことではありますが。(^^;

バッハは、ケーテンの宮廷楽長をつとめていた時代にこの組曲形式の作品を多数残しています。
この無伴奏のチェロ組曲以外にも、無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ、無伴奏フルートのためのパルティータ、そして管弦楽組曲等です。
それにしても疑問に思うのは、この難曲である無伴奏のチェロ組曲を誰が演奏したのかということです。
ヴァイオリンの方はおそらくバッハ自身が演奏したのだろうと言われていますが、チェロに関してはそれほどの腕前は持っていなかったことは確かなようです。
だとすると、ケーテンの宮廷楽団のチェロ奏者がこの曲を演奏したと言うことなのでしょうか。現代においてもかなりの難曲であるこの作品を一体彼はどのような思いで取り組んだのでしょうか。

もっとも、演奏に関わる問題は作品にも幾ばくかの影響は与えているように思います。
なぜなら、ヴァイオリンの無伴奏組曲と比べると6曲全てが定型的なスタイルを守っています。
また、ヴァイオリンの組曲はシャコンヌに代表されるように限界を超えるほどのポリフォニックな表現を追求していますが、チェロ組曲では重音や対位法的な表現は必要最小限に限定されています。
もちろん、チェロとヴァイオリンでは演奏に関する融通性が違いますから単純な比較はできませんが、演奏者に関わる問題も無視できなかったのではないかと思います。

それにしても、よく知られた話ですが、この素晴らしい作品がカザルスが古道具屋で偶然に楽譜を発見するまで埋もれていたという事実は本当に信じがたい話です。
それとも、真に優れたものは、どれほど不当な扱いを受けていても、いつかは広く世に認められると言うことの例証なのでしょうか。

やはり一度はカザルスの演奏でじっくりと聞いてみたい作品です。

無伴奏チェロ組曲第6番 ニ長調 BWV1012


  1. Prelude

  2. Allemande

  3. Courante

  4. Sarabande

  5. Gavottes

  6. Gigue



シュタルケルのバッハとしては演奏、録音ともにベスト


巨匠と呼ばれたチェリストの中でこのバッハの無伴奏チェロ組曲に対して最も慎重だったのはロストポーヴィッチだったでしょう。彼がこの作品を始めて正規に録音したのは1991年のことでした。
彼は1927年生まれですから、その時既に60才を超えて4年が経った頃でした。

何処までが本音かは分かりませんが、弟子のマイスキーにバッハの無伴奏チェロ組曲を録音する話が舞い込んだときの助言が残っています。

「レコードなどは、いつでも録音できる。
今、あわててレコードを出すと、当初は、たしかに君にとって誇りになるだろうが、以後君はそのレコードによって判断される事になる。
そんな若い頃の未熟な演奏で評価されてしまうと、そこから立ち直るのはとても難しい。」

つまりは、バッハの無伴奏チェロ組曲というのは、本当に自分で納得のいく演奏ができるようになってから取り組むべき作品だと言うことなのでしょう。そして、その納得のいった時期がロストロポーヴィッチの場合は60才を超えた時だったと言うことなのでしょう。

ただし、未だ20代だった頃のライブ録音(1955年の「プラハの春」音楽祭の全曲ライブ録音盤)が最近になって発掘されたのですが、それを聞けば決して悪い演奏ではないのです。満を持した91年の録音と較べてもそれほど大きな違いはなくて、逆に若さゆえの勢いと切れ味があって、こちらの方がいいと思う人もいるかもしれないのです。
上の言葉も何処まで本音かはしれたものではありません。

それに対して、若い頃から晩年に至るまで、この作品を何度も録音する人もいます。その代表がここで紹介しているシュタルケルです。調べてみると、彼はその生涯にわたって4回も全曲録音を行っています。


  1. EMI:1957年~1959年

  2. Mercury:1963年~1965年

  3. Sefel Records:1984年(Original Release)

  4. RCA Victor Red Seal:1991年



5回という説もあるのですが、調べてみるとそれは51年の録音(EINSATZ)をカウントしてるようです。ただし、51年録音は1番・3番・4番・6番だけで2番と5番が欠落しています。

さて、かくも何度もこのバッハの大作をコンプリートしたシュタルケルなのですが、その理由を尋ねられて次のように答えています。

「Each time I changed record companies, I was asked to record them.」

これもまた、本音と言うよりは、あまりにも同じ事をしょっちゅう聞かれるので、いつの間にか身につけた「かわし技」と見た方がいいでしょう。ライナーに見込まれてメトロポリタン歌劇場の首席奏者からシカゴへと移り、その後ソリストとして活躍するようになったシュタルケルですから、そのテクニックに関しては若い頃から折り紙付きでした。
年を重ねるにつれて少しずつ表現は穏やかになっていったようにも聞こえるのですが、それでも豪快にしてゴツゴツしたバッハであることは間違いありません。

そして、この63年と65年に分けて録音されたMercury盤は演奏、録音ともにシュタルケルのベストと評されるものです。
オーディオマニア御用達の雑誌である「ステレオ・サウンド誌」がリリースしたリファレンス・レコードの中にこの録音が採用されていて、そこには次のような宣伝文句が添えられていました。

「チェロの音像はやや大きめだが、中程度のパースペクティヴにホログラフィックな形を保つ。ローレベル・テクスチュアやナチュラルな音色は、驚異的な水準にある。弦が指板にぶつかる音や呼吸音が距離感をともなって届けられるのはともかく、重音はもちろん単音のパッセージでも、レゾナンスによってスペースに生み出される和音が壮大な音の建築物を出現させる。その場を世界の中心に変えてしまうような感動的な録音だと言ったら過ぎるだろうか。」

ただ、個人的には、こういう楽器一挺の音楽ならば、まさに目の前で実際に演奏されているかのごとく再生したいという思いがあります。
その点で言えば、冒頭に示されている「チェロの音像はやや大きめ」というのが今ひとつ気にくわないというのが正直なところです。実際に目の前で演奏されるチェロはこういう鳴り方はしないからです。
また、残響も私の好みとしてはいささか多すぎる気がします。

ただし、オーディオ的にはその辺りは好き嫌いの範疇であることも事実です。

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