ベートーヴェン:魔笛の主題による12の変奏曲, Op. 66(Beethoven:12 Variations on Ein Madchen oder Weibchen from Mozart's Die Zauberflote in F Major, Op. 66)
(Cello)モーリス・ジャンドロン (P)ジャン・フランセ 1966年11月録音(Maurice Gendron:(P)Jean Francaix Recorded on November, 1966)
Beethoven:12 Variations on 'Ein Madchen oder Weibchen', Op.66
初期から中期への移行期に存在する作品
ベートーベンの変奏曲形式の小品は1800年前後の若い時代に集中しています。
今回はチェロとピアノによる作品を取り上げましたが、これ以外にもエロイカ変奏曲に代表されるようなピアノ作品や、フィガロの結婚のテーマを用いたヴァイオリンとピアノのための作品も残しています。
この手の作品は、巷間に知れ渡った有名なメロディをテーマとして取り上げて、それを小粋に変奏して楽しんでもらうという趣向ですから、当時の一般的な人々には結構受けた形式だったようです。
実際それらの音楽は、今日聞いてみてもなかなかに面白いです。つまりは、一般受けしそうな優美なメロディと雰囲気をもちながらも、ピリッとした辛みも効いているという洒落た作品群だからです。
しかし、このような変奏曲に集中した時代を過ぎると、ベートーベンはこのようなギャラントな雰囲気を漂わせた音楽からは身を引いてしまいます。そして、私たちがベートーベンという名前から受け取るような印象の音楽を書き始めます。
彼がふたたび変奏曲形式に舞い戻ってくるのは最晩年のピアノソナタや弦楽四重奏曲においてであって、そこで展開される変奏曲の世界は若い時代のギャラントな雰囲気などは微塵もない音楽が展開されます。
そう言う意味では、この若い時代の一群の変奏曲は、ベートーベンがベートーベンになっていく過程を表現したものとなっています。
このチェロとピアのための3曲の変奏曲を見ても、ヘンデルの有名な主題による変奏曲は最も娯楽性の高い作品となっていますが、それが魔笛の主題による12の変奏曲から7つの変奏曲とたどっていくと、彼が次第にただの娯楽作品としての変奏曲形式から抜け出していこうとした軌跡が浮かび上がってきます。
とりわけ、最後の7つの変奏曲では、チェロはオブリガートとしての地位を解き放たれて、時にはピアノと対等に協奏的に演奏されます。それは、ピアノにおけるエロイカバリエーションとも似通ったものであり、単なる娯楽性から解き放たれて、緻密な構成をもとにして音楽を建造物のように仕上げていこう中期のベートーベンの姿が垣間見える作品となっています。
魔笛の主題による12の変奏曲 ヘ長調 Op.66
この作品にはOp.66という作品番号が与えられていますが、それは出版された時期につけられたもので、作曲されたのは1790年代の後半頃と見られています。若きベートーベンの作品ということです。
テーマはパパゲーノが歌う有名なアリアで、これもまた娯楽性に富んだ作品になっています。また、ピアノが冒頭でその主題を呈示するのも、「オブリガートのチェロを伴う・・・」と言う約束事を踏襲したものだと言えます。
しかし、第10変奏まではきちんと16小節で構成しながら、11変奏では21小節、そして最終変奏には80小節も費やして音楽が持つ表現力を高めようとしているのは、常に前に進もうとする若きベートーベンの心意気がチラリとのぞいたように感じます。
チェロを歌わせることに関しては特別な才能を持っていたようです。
「フランス・チェロ界の至宝」などと言われるわりには、そのディスコ・グラフィを眺めてみると録音には恵まれていないことに気づかざるを得ません。それは、彼よりは一世代前になるピエール・フルニエなどと比較してみればその違いは一目瞭然です。
そして、そこには第2次大戦の影が色濃く落ちていることに気づかされます。
1920年生まれのジャンドロンにしてみれば、まさに演奏家としてデビューしようかという時期にヨーロッパは戦雲に包まれてしまったのです。そして、ドイツ占領下のフランスでレジスタンス運動に参加しながら20代前半の貴重な時代を過ごしてしまい、チェリストとしてのデビューを果たしたのは戦後のことでした。
戦前においてすでにチェリストとしての地位を確立していて、戦争下においてもパリを中心に演奏活動を続けることが出来たフルニエと較べればその違いは大きかったと言わざるを得ないのです。
詳細を見る
作曲、音楽理論
Cello
音楽
さらに言えば、同じフランス人チェリストとして二人の芸風にはかぶるところが大きかったこともジャンドロンにとっては不幸だったのかもしれません。
何しろ、フルニエはその優雅で洗練された演奏によって「チェロの貴公子」と呼ばれていたのです。
そして、ジャンドロンもまた明るく豊かな音色としなやかなフレージングによって「チェロの貴公子」と呼ばれるのですが、やはり分が悪いことは否めませんでした。
しかし、チェロを歌わせることに関しては特別な才能を持っていたようで、それがこういう小品になるとフルニエにはない強みとなっているように思われるのです。
音を途切れさせることなく、美しい旋律を何処までも流麗に歌い上げていくスタイルはジャンドロンならではの音楽だと言えます。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-08-04]
メンデルスゾーン:チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調, Op.45(Mendelssohn:Cello Sonata No.1, Op.45)
(Cell)ルートヴィヒ・ヘルシャー:(P)ハンス・アルトマン 1959年発行(Ludwig Hoelscher:(P)Hans Altmann Published in 1959)
[2026-08-02]
ディーリアス:別れの歌(Delius:Songs of Farewell)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 ロイヤル・コーラル・ソサエティ 1964年4月22日~23日録音(Sir Malcolm Sargent:Royal Philharmonic Orchestra Royal Choral Society Recorded on April 22, 1964)
[2026-07-30]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第4番 ト短調, Op.40(Rachmaninov:Piano Concerto No.4 in G minor, Op.40)
(P)レナード・ペナリオ:アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1964年10月3日録音(Leonard Pennario:(Con)Rene Leibowit London Symphony Orchestra Recorded on October 3, 1964)
[2026-07-29]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第1番 嬰ヘ短調, Op.1(Rachmaninov:Piano Concerto No.1 in F-sharp minor, Op.1)
(P)レナード・ペナリオ:アンドレ・プレヴィン指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1964年10月2日録音(Leonard Pennario:(Con)Rene Leibowit London Symphony Orchestra Recorded on October 2, 1964)
[2026-07-27]
バルトーク:ピアノのための組曲 Sz.62 Op.14(Bartok:Suite for Piano, Op.14)
(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月19日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 19, 1951)
[2026-07-25]
エルガー:「ゲロンティアスの夢」第2部 (Elgar:The Dream Of Gerontius, Op. 38 Part2)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 (T)リチャード・ルイス (MS)マージョリー・トーマス (Br)ジョン・キャメロン ハダースフィールド合唱協会 1954年11月4日~6日録音(Sir Malcolm Sargent:Liverpool Philharmonic Orchestra (T)Richard Lewis (MS)Marjorie Thomas (Br)John Cameron Huddersfield Choral Society Recorded on November 4-6, 1954)
[2026-07-24]
エルガー:「ゲロンティアスの夢」第1部 (Elgar:The Dream Of Gerontius, Op. 38 Part1)
マルコム・サージェント指揮 ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団 (T)リチャード・ルイス (MS)マージョリー・トーマス (Br)ジョン・キャメロン ハダースフィールド合唱協会 1954年11月4日~6日録音(Sir Malcolm Sargent:Liverpool Philharmonic Orchestra (T)Richard Lewis (MS)Marjorie Thomas (Br)John Cameron Huddersfield Choral Society Recorded on November 4-6, 1954)
[2026-07-22]
J.S.バッハ:カンタータ第202番「いまぞ去れ、悲しみの影よ」 (結婚カンタータ)BWV.202(J.S.Bach:Weichet nur, betrubte Schatten, BWV 202)
カール・ミュンヒンガー指揮 (S)シュザンヌ・ダンコ (Ob)フリッツ・フィッシャー (Vn)ヴェルナー・クロツィンガー (Cemb)ジェルマン・ヴォーシェ=クレール シュトゥットガルト室内管弦楽団 1953年録音(Karl Munchinger:(S)Suzanne Danco (Ob)Fritz Fischer (Vn)Werner Krotzinger (Cemb)Germaine Vaucher-Clerc Stuttgarter Kammerorchester Recorded on 1953)
[2026-07-20]
ベートーヴェン:魔笛の主題による12の変奏曲, Op. 66(Beethoven:12 Variations on Ein Madchen oder Weibchen from Mozart's Die Zauberflote in F Major, Op. 66)
(Cello)モーリス・ジャンドロン (P)ジャン・フランセ 1966年11月録音(Maurice Gendron:(P)Jean Francaix Recorded on November, 1966)
[2026-07-17]
サンマルティーニ:チェロ・ソナタ ト長調(Sammartini:Cello Sonata in G major)
(Cello)レナード・ローズ:(P)レオニード・ハンブロ 1953年5月11日~12日録音(Leonard Rose:(P)Leonid Hambro Recorded on May 11-12, 1953)