ハイドン:フルート四重奏曲 ニ長調 Op.5, No.3, Hob.II:D10
(Fl)カミッロ・ヴァナウゼク:ヨーロッパ四重奏団のメンバー 1965年発行
Haydn:Flute Quartet in D Major, Op.5, No.3, Hob.II:D10 [1.Presto]
Haydn:Flute Quartet in D Major, Op.5, No.3, Hob.II:D10 [2.Adagio]
Haydn:Flute Quartet in D Major, Op.5, No.3, Hob.II:D10 [3.Menuetto]
Haydn:Flute Quartet in D Major, Op.5, No.3, Hob.II:D10 [4.Presto assai]
「室内楽的ソナタ」への方向性が垣間見える

ネットで中古レコードを物色しているときに思わず目を止めたのがこの作品です。何故かと言えば「ええーっ!ハイドンにフルート四重奏曲なんてあったの?」だったからです。
そこで、手もとのハイドン関係の書籍にあたってみたのですが全く記述はなく、ネットで検索してみると、その投稿主がレコード屋さんで「ハイドンのフルート四重奏曲ありますか」と尋ねると、店員さんに「「ええーっ!ハイドンにフルート四重奏曲なんてありましたか」と言われたという話が紹介されていて、思わず笑ってみました。
まあ、それだけマイナーな作品だと言うことです。
ただし、このフルート四重奏曲は作品6として6曲がワンセットで出版されています。ホーボーケン番号では「Hob.II」を与えられているので、ディヴェルティメントに分類されているようです。そして、No.1とNo.2派偽作の可能性が高い作品として分類されているようです。
「国際楽譜ライブラリー」では以下のように記述されています。
- Divertimento in D major, Hob.II:D9
- Divertimento in G major, Hob.II:G4
- Divertimento in D major, Hob.II:D10
- Divertimento in G major, Hob.II:1 (arr.)
- Divertimento in D major, Hob.II:D11
- Divertimento in C major, Hob.II:11 (arr.)
しかし、聞いてみれば実に優しく暖かく、ハイドンらしい親しみやすい音楽です。
基本的には第1楽章は整然としたソナタ風の音楽で、それに続く第2楽章はどれもが優美な緩徐楽章です。聞き手としては、この美しさが一番魅力的に思えます。
そして、第3楽章はメヌエットで、終楽章は舞曲風という定番スタイルです。この終楽章を軽快に終わらせるのは演奏効果という点でも大きな役割をはたしています。
そして、この作品は彼が仕えていたエステルハージ家のために書かれたものではなくて、どうやらフルート愛好家のアマチュアからの要望で書かれたものらしいのです。
一般的に、宮廷の音楽家というのは宮廷の仕事に集中すべきもので、そう言う「兼業」を行うことは禁止されていたようで、それはまたハイドンも例外ではありませんでした。しかし、ハイドンの作品があちこちで出版され、また筆写譜という形でヨーロッパ各地に広がるにつれ、ハイドンの音楽家としての名声は高まっていきました。
そうなると、ハイドンへの大きな讃辞は、それは同時に彼の雇い主である侯爵自身の権威の向上にも繋がる事に気づいたらしくて、侯爵はハイドンに対して宮廷以外の仕事を行うことを認めるという「特別扱い」をするようになります。
おそらく、このフルート四重奏曲もそういう「特越扱い」の中で生み出された作品なのでしょう。
アマチュアのフルート愛好家が仲間内で演奏して拍手を浴びるように配慮されていて、この作品からは宮廷的な雰囲気は希薄で、その後の時代に繋がる「室内楽的ソナタ」への方向性が垣間見えます。
おそらく、この作品を依頼した人物は大得意でこの作品を演奏したことでしょう。
フルート四重奏曲と言えばまずはモーツァルトを思い浮かべるのが普通なのですが、ハイドンにもこういう優れた作品があったのです。
全く分からない団体です
この録音は独奏フルートに「カミッロ・ヴァナウゼク」、弦楽には「ヨーロッパ四重奏団のメンバー(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ)」と記されているのですが、困ったことにこの両者の正体が全く不明です。かろうじて「カミッロ・ヴァナウゼク」はオーストリア生まれでウィーンなどを中心に活躍した人物らしいことは分かったのですが、録音はほとんど残っていないようです。
「ヨーロッパ四重奏団」に関しては、その大層な名前に反して全く持って正体不明です。Googleで検索してもかすりもしません。もしかしたら、覆面オーケストラならぬ覆面カルテットなのかもしれません。
しかし、演奏は悪くはありません。
フルートのカミッロ・ヴァナウゼクは実に素直な音色で伸び伸びと歌っていて、ランパルの様などこか癖のあるような歌わせ方とは少し異なります。おそらく、こういうアマチュア向けに作曲された作品だと、この様な素直な歌い回しの方が好ましく思えます。
そして、弦楽は作品そのものがフルートを引き立てるようになっていますからあまり表にはしゃしゃり出ないのですが、歌うべき部分では実に優美に美しい響きを聞かせてくれます。
これもまた、実にもって悪くはありません。
買い込んだ中古レコードの盤質も良く、なかなかにいい買い物をしたものだとひとり自己満足しています。
2022年11月3に追記
ソリストに関して情報をいただきました。
カミロ・ワナウゼックさんは、ウィーン交響楽団の首席フルート奏者だった人で、1957年11月のベルリン・フィル初来日時、当時の首席奏者オーレル・ニコレが来日できず(確か病気が原因)その代役としてカラヤンの希望でベルリン・フィルの一員として来日したこともあります。また、1951年7月のフルトヴェングラー/バイロイト祝祭管弦楽団のベートーヴェン「第九」のCD解説書(Grand SlamだったかOTAKENだったか)に掲載されていた、その年のバイロイト祝祭管のメンバー表に、フルート奏者として名前が載っているのを見たことがあります。
貴重な情報、感謝いたします。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-03-22]

アンリ・リトルフ:交響的協奏曲第4番 ニ短調, Op.102~第2楽章:Scherzo(Litolff:Concerto symphonique No.4 in D major, Op.102 [2.Scherzo. Presto])
(P)レナード・ペナリオ:アーサー・フィードラー指揮 ボストン・ポップス 1963年5月24日録音
[2026-03-19]

リリ・ブーランジェ:詩篇第130篇「深き淵より」(Boulanger:Psaume 130, Du Fond De L'Abime)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)ミシェル・セネシャル 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Michel Senechal Recorded on 1958)
[2026-03-17]

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第29番変ロ長調 作品106「ハンマークラヴィーア」(Beethoven:Sonate No.29 En Mi Bemol Majeur Op.106 "Hammerklavier")
(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1960年7月15日~19日録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on July 15-19, 1960 )
[2026-03-14]

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番 ハ短調,Op.27-4(Eugene Ysaye:6 Sonatas for Solo Violin, Op.27-4)
(Vn)マイケル・レビン:1955年9月30日録音(Michael Rabin:Recorded on September 17, 1955)
[2026-03-12]

フォーレ:夜想曲第13番 ロ短調 作品119(Faure:Nocturne No.13 in B minor, Op.119)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2026-03-11]

バッハ:前奏曲とフーガ ホ長調 BWV.566(J.S.Bach:Toccata and Fugue in E major, BWV 566)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1961年12月10日~12日録音(Marie-Claire Alain:Recorded December 10-12, 1961)
[2026-03-08]

ベルワルド:交響曲第4番 変ホ長調 「素朴な交響曲」(Berwald:Symphony No.4 in E-flat major "Naive" )
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1955年12月録音(Igor Markevitch:Berlin Philharmonic Orchestra Recorded on December, 1955)
[2026-03-05]

ヨーゼフ・マルクス:ヴァイオリンソナタ「春のソナタ」(Joseph Marx:Sonata for Violin and Piano in A major "Spring")
(Vn)ヴァーシャ・プシホダ:(P)オットー・アルフォンス・グレーフ 1954年録音(Vasa Prihoda:(P)Otto Alphonse Greif Recorded on 1954)
[2026-03-03]

ハイドン:弦楽四重奏曲 ニ長調, Hob.III:63(Op.64-5) 「雲雀」(Haydn:String Quartet in D major, Hob.III:63(Op.64-5) "Lark")
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1954年5月録音(Vienna Concert House Quartet:Recorded on May, 1954)
[2026-02-28]

グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲イ短調 作品82(Glazunov:Violin Concerto in A minor, Op.82)
(Vn)マイケル・レビン:ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1954年12月17日録音(Michael Rabin:(Con)Lovro von Matacic The Philharmonia Orchestra Recorded on December 17. 1954)