モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 K.481
(Vn)エリカ・モリーニ (P)ルドルフ・フィルクスニー 1961年2月録音
Mozart:Violin Sonata in E-flat major, K.481 [1.Allegro molto]
Mozart:Violin Sonata in E-flat major, K.481 [2.Adagio]
Mozart:Violin Sonata in E-flat major, K.481 [3.Allegretto]
後期の三大ソナタ:K.454、K.481、K.526

「三大ソナタ」という呼び方は一般的ではありあせんが、モーツァルトのこのジャンルにおける最後の貢献としてこの3作品を指摘することができますから、あえてこのようなネーミングをしてみました。
この3作品は、K.376?K.380のように、何らかの目的を持ってまとめて作曲されたわけではありません。
K.454については、モーツァルトは父親に宛てた手紙でふれていますからその成立状況はよく分かっています。そして、それはモーツァルトの「天才伝説」を彩るエピソードの一つでもあります。
この作品は、当時ウィーンを訪れていたストリナサッキというヴァイオリニストのために作曲されたもので、それをモーツァルトとの競演で演奏しました。しかし、演奏会当日までにはヴァイオリンのパートしか楽譜が完成しなかったために、モーツァルトは白紙の楽譜を前にピアノを演奏したというのです。・・・恐るべし、モーツァルト!!
次のK.481については成立事情に関しては何も分かっていません。おそらくは出版目的の小銭稼ぎだったと思われますが、これもまた作品の「価値」とは間の関係もない話です。
この作品の第1楽章には「ジュピター」のモチーフ「ドレファミ」が出てきます。モーツァルトはこのモチーフがよほど気に入っていたようで、彼の作品には何回も顔を出します。
そして、最後のK.526は、おそらく「ドン・ジョヴァンニ」の作曲中に書かれたものと思われます。クロイツェル・ソナタの先駆けとも呼ばれるこの作品については、アインシュタインによる次の賛辞ほど相応しいものはありません。
「この曲においてモーツァルトはヴァイオリンソナタの分野でも完璧な《諸様式の調和》に到達し得ている。」
「緩徐楽章では、あたかもすべての善人に生存の苦い甘みを味わわせようと、父なる神が世界の一瞬だけいっさいの運動を停止させたかのような、魂と芸術との均衡が達成されている。」
ヴァイオリンソナタ第41番 変ホ長調 K.481
- 第1楽章:Molto allegro
- 第2楽章:Adagio
- 第3楽章:Allegretto
聡明な演奏
ヴァイオリンという楽器には、他の楽器にはない悪魔性が存在しています。
パガニーニはその超絶技巧ゆえに「悪魔に魂を売った」と言われました。不思議なことに、リストの超絶技巧には「悪魔」のレッテルが貼られることはありませんでした。
それから、弾くものを次々と不幸にする「呪われたヴァイオリン」というものは存在しますが、同じように弾くものを次々と不幸にする「呪われたピアノ」等というものは聞いたことがありません。
そして、演奏に使ったヴァイオリンが呪われていたかどうかは分かりませんが、ヴァイオリンという楽器には、それを演奏する人間の心と体を蝕んでいくような「怖さ」を持っていることは疑いがないようです。
マイケル・レビンとクリスチャン・フェラスは薬物やアルコールにおぼれて自宅で不慮の死を遂げます。ヘンリック・シェリングは不慮の死は遂げなかったものの、その晩年は深刻なアルコール中毒に蝕まれていました。
また、ジネット・ヌヴーとジャック・ティボーは飛行機事故でその生涯を閉じていますし、コーガンも列車の中で心臓発作に見舞われて不慮の死を迎えています。
もちろん、こういう悲劇的な事は全体の母数からみればごく限られた事例であることは確かなのですが、それでも、そう言う悲劇に対してヴァイオリンという楽器は(おかしな言い方ですが)よく似合ってしまいます。
ですから、これもまたおかしな言い方なのですが、そう言う悪魔性に絡め取られないように、凛と背筋を伸ばして悪魔と対峙するようにヴァイオリンを演奏した人がいます。すぐに思い浮かぶのが、ジョコンダ・デ・ヴィートにミシェル・オークレール、そして、ここで紹介しているエリカ・モリーニあたりでしょうか・・・、って、みんな女性じゃないですか(^^;。
デ・ヴィートとオークレールは若くして第一線のソリストからは引退して教育活動に重点を置いてしまいましたが、モリーニは70歳過ぎまで第一線で活躍し続けました。そして、その引退後も20年近くの余生を過ごしたのですから、彼女こそは見事なまでに悪魔を飼い慣らしたヴァイオリニストだったのかもしれません。
ただ、残念なのは、驚くほどに録音が少ないことと、そのレパートリーが頑固なまでに狭いことです。
そして、共演者の選り好みも厳しかったのか、共演したピアニストはレオン・ポマーズとルドルフ・フィルクスニーの二人くらいです。そして、この二人との組み合わせもはっきりしていて、ベートーベンやモーツァルト、ブラームスのようなキッチリした作品はフィルクスニー、それ以外のもう少し肩のこらない作品の時はポマーズと組むという感じです。もちろん、ポマーズとは56年にブラームスのソナタを録音していますから例外はあります。
また、同じヴァイオリニストとしてはミルシテイン、指揮者で言えばワルターやセルが共演者のメインだったので、その選別の潔さは際だっています。
彼女の演奏を一言で言えば「聡明」という言葉が最もピッタリでしょう。そして、その事はデ・ヴィートとやオークレールにもあてはまるのですが、その事を最も強く感じさせてくれるのがモリーニです。
彼女は、自分という存在をよくわきまえていて、それ以上に見せようと力むこともなく、それ以下だと嫌らしく卑下することもなく、自分自身が納得できる音楽をひたすら追求し続けた人でした。ですから、そう言う音楽に相応しくない音楽家と組むことは絶対になかったのです。
結果として、彼女が残した録音の数は本当に少ないのですが、驚くほどの粒ぞろいです。そして、その音楽はどれもがモリーニに相応しく、背筋がしっかりと伸びた清潔な佇まいを崩すことはありません。そして、それはヴァイオリンという楽器がもっているある種の官能性とは遠いところにあるものなので、彼女以外では聞くことのできない佇まいを持っています。
このモーツァルトのソナタにしても、こんなに折り目正しく演奏されるのは他では聞いた記憶がありません。
これはもう、頑張って落ち穂拾いしていく必要があるようです。
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