シューマン:チェロ協奏曲 イ短調, Op.129(Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129)
(Cell)ザラ・ネルソヴァ:ゲオルク・ルートヴィヒ・ヨッフム指揮、ベルリン放送交響楽団 1960年2月1日~2日録音(Zara Nelsova:(Con)Georg Ludwig Jochum Berlin Radio Symphony Orchestra Recorded on February 1-2, 1960)
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [1.Nicht Zu Schnell]
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [2.Langsam]
Schumann:Cello Concerto in A minor, Op.129 [3.Sehr Lebhaft(Cadenza:Pierre Fournier)]
「よい作品」がないのならば自分で書いてみよう!!
色々な数え方はあると思うのですが、一般的にこのシューマンの作品と、ハイドン、ドヴォルザークの作品を持って「三大チェロ協奏曲」と呼ばれるようです。ドヴォルザークのチェロ協奏曲がこのジャンルにおける屈指の名曲であることに異論はないと思うのですが、残る2曲については色々意見もあることでしょう。
しかしながら、このシューマンのコンチェルトから立ち上るロマン的な憂愁と独奏チェロの見事な技巧を聞くと、少なくともこちらのは同意できそうかな・・・と思ってしまいます。
元々、シューマンがこの作品を書こうと思ったきっかけは彼が「評論家」であったことに起因します。
当然、ドヴォルザークのコンチェルトは未だ存在しなかった訳なので、評論家であるシューマンから見れば、このジャンルというのはあまりにもすぐれた作品がないことを憂えたらしいのです。そして、普通の「評論家」ならば、そう思ったところでそれだけで終わるのですが、作曲家でもあったシューマンは、「それならば、自分でそのすぐれた作品」を書いてみよう」と思ってしまった次第なのです。
さらに付け加えれば、その「作曲家」でもあるシューマンは、ロマン派の数ある作曲家の中でもとびきりすぐれた作曲家でもあったので、そうやって決心して生み出したこのチェロ協奏曲もまた、その決心に違わぬ「傑作」となった次第なのです。
まあ、言葉にしてみれば簡単なのですが、それを実際にやり遂げるとなると常人のなし得ることではありません。
このコンチェルトは、シューマンが期待をこめて乗り込んだデュッセルドルフにおける最初の大作です。
それだけに、チェロの憂愁に溢れた響きが一つの特徴でありながらも、音楽全体としては明るく晴れやかな力に満ちています。
そして、この音楽の価値に確信を持っていたシューマンは、何人かのチェリストに演奏上の問題に関わる幾つかの助言(チェリストにとってあまりにも難しすぎる!!)は受け入れたのですが、その他の音楽の本質に関わるようなアドバイスは全て無視したのでした。そう言う助言の大部分は、当時の聴衆にとって「聞きやすく」するための助言だったようなのですが、その様な助言は全て無視したのです。結果として、当時の聴衆にとっては容易に受け入れられる音楽ではなかったので好意を持って受け入れられることはなかったようですが、歴史はシューマンが正しかったことを如実に証明することになるのです。
なお、この作品は3楽章構成なのですが、全体は途切れのないひとまとまりとして演奏されます。
細やかさと暖かみあふれた演奏
ザラ・ネルソヴァという名前も今となっては多くの人の記憶から消えてしまっていることでしょう。ですから、彼女の録音(
ラフマニノフ:チェロ・ソナタ ト短調 作品19 )を初めて紹介したときには、その経歴などに関しても少しばかり詳しく紹介しました。
封建的な時代が終わり、社会が近代に入ってもそれが「男社会」であることには大きな違いはありませんでした。とりわけ、クラシック音楽の世界などというものは最後の最後まで「男社会」であり続けました。
ウィーンフィルやベルリンフィルのように、女性を団員として迎え入れないことを「伝統」としていたオケも数多く存在していて、とりわけあのカラヤンが女性のクラリネット奏者をベルリンフィルに迎え入れようとして大混乱を引き起こしたのは有名な話です。
ですから、女性がクラシック音楽の世界でソリストとしてキャリアを築き上げていくというのは大変な困難が伴いました。そして、その困難を偉大な先駆者たちが切り開いていったのですが、チェロの世界の先駆者と言えばおそらくはこの「ザラ・ネルソヴァ」の名前が上がるでしょう。
しかしながら、そんな女性に対してついて回った形容詞が「男勝り」だったのですから、今もなおセクハラ行為がまかり通って騒ぎとなるのもやむを得ないのかもしれません。
ただし、そんなネルソヴァも地道な活動を積み重ねていく中で「The Cello Queen」と呼ばれるようになったのですから、彼女が切り開いた道は偉大だったと言わざるを得ません。
ところが、そんな彼女の名前がいつの間にか多くの人の記憶から消えていってしまったのは、そんな彼女のすぐ後に「ジャクリーヌ・デュ・プレ」という偉大な才能が登場したからでした。おそらく、ネルソヴァが切り開いた道がなければ、あれほど順調にデュ・プレがキャリアを積み上げていくことは出来なかったことでしょう。
そして、ネルソヴァ自身の思いがどのあたりにあったのかは分かりませんが、デュ・プレが輝きを増していった60年代の中頃には演奏活動よりは教育活動の方に力を入れるようになりました。
おそらく、そう言うことも相まって2000年まで長生きしたにもかかわらず多くの人の記憶から消えていってしまったのです。
そう言う意味でいえば、このシューマンのチェロ協奏曲は、演奏家としては最後の頃の録音と言えます。この5年後には彗星のように偉大な才能が登場し、彼女はフェード・アウトをするように演奏の表舞台から姿を消していってしまいました。
しかし、ここでは「The Cello Queen」とよばれた風格というかオーラというか、そう言うものが漂っています。伴奏をつとめるルートヴィヒ・ヨッフム(オイゲン・ヨッフムの弟)もネルソヴァのサポート役として仕えているような雰囲気です。
この頃のネルソヴァには「男社会」であるクラシック音楽の世界に立ち向かうという気負いからも少しずつ解放されて、自分らしい細やかさと温かみに溢れた音楽を楽しんでいたのかもしれません。
おそらく、デュ・プレという異次元の才能に出会ったときに、後はまかせたという安堵の思いがあったのかもしれないな・・・等と、妄想をふくらませてしまいます。
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