ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104
(Cello)アントニオ・ヤニグロ:エーリヒ・クライバー指揮 ケルン放送交響楽団 1955年3月23日録音
Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]
Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]
Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]
アメリカとボヘミヤという異なった血が混じり合って生まれた史上類をみない美人
この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。
そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。
それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。
第1楽章[1.Adagio]:
ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。
第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。
第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。
豪快なチェロはすでにヤニグロによって実現されていた
これもまた、おそらくはヤニグロ全盛期の録音でしょう。
録音的に言えばオケの響きがいささかしょぼくてクライバーの魅力が十分に伝わってこないのがいささか残念ですが、チェロの響きに関しては満足できる範囲でとらえられています。
ヤニグロは指の故障によって、しだいにソリストとしての活動から指揮者としての活動へと比重を移していくのですが、この50年代の中頃は世界最高峰のチェリストの一人として君臨していました。
この時代のチェリストと言えば、その大半がチェロという楽器が持っている響きを美しく上品に鳴らす事が主流でした。ですから、60年代に入って鉄のカーテンの向こうからロストロポーヴィッチというチェリストの姿がはっきりと視野に入ってきたときに、その豪快な響きに多くの人は度肝を抜かれたのでした。
しかし、そう言う豪快なチェロはすでにヤニグロによって実現されていたのです。この演奏は私のような鈍な聞き手に対してもその事実をはっきりと分からせてくれます。
おそらく、70年代以降は指揮活動に専念したために、ヤニグロはチェリストとしてではなくて指揮者として認識されてしまうようになりました。
さらに言えば、彼の全盛期の姿を刻み込んだ演奏の全てはモノラル録音によってでしか窺うことが出来ないので、ますますチェリストとしての本当の姿は見えにくくなっています。
その意味では、このドヴォルザークの協奏曲は実に貴重な録音だと言えます。
豪快にして自由闊達なヤニグロのチェロの響きをここでは十二分に味わうことが出来ます。
そして、録音的にはいささかのハンデは否定できないものの、それをサポートしているのがエーリヒ・クライバーなのですから、悪かろうはずがありません。
それにしても、オケの強奏部でリミッターがかかったようにへこんでしまうのは何とかならなかったのでしょうか。
もとの録音が最初から問題ありだったのか、復刻用の音源に問題があったのかは不明ですが、実にもって残念と言えば残念な話です。
それからも一つ、さらに調べてみると、Westminsterによってもヤニグロによるドヴォルザークの協奏曲が録音されているようです。
ディーン・ディクソンと言う指揮者とウィーン国立歌劇場管弦楽団がサポートしているようです。おそらく、探せばどこかに眠っている可能性があるので、少し頑張って探してみようかと思います。
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