J.S.バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
ヘルマン・シェルヘン指揮 イングリッシュ・バロック管弦楽団 1954年9月録音
J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [1.Ouverture]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [2.Bourree I, II]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [3.Gavotte]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [4.Menuett ]
J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069 [5.Rejouissance]
ブランデンブルグ協奏曲と双璧をなすバッハの代表的なオーケストラ作品

ブランデンブルグ協奏曲はヴィヴァルディに代表されるイタリア風の協奏曲に影響されながらも、そこにドイツ的なポリフォニーの技術が巧みに融合された作品であるとするならば、管弦楽組曲は、フランスの宮廷作曲家リュリを始祖とする「フランス風序曲」に、ドイツの伝統的な舞踏音楽を融合させたものです。
そのことは、ともすれば虚飾に陥りがちな宮廷音楽に民衆の中で発展してきた舞踏音楽を取り入れることで新たな生命力をそそぎ込み、同時に民衆レベルの舞踏音楽にも芸術的洗練をもたらしました。
同様に、ブランデンブルグ協奏曲においても、ともすればワンパターンに陥りがちなイタリア風の協奏曲に、様々な楽器編成と精緻きわまるポリフォニーの技術を駆使することで驚くべき多様性をもたらしています。
ヨーロッパにおける様々な音楽潮流がバッハという一人の人間のもとに流れ込み、そこで新たな生命力と形式を付加されて再び外へ流れ出していく様を、この二つのオーケストラ作品は私たちにハッキリと見せてくれます。
ただし、自筆のスコアが残っているブランデンブルグ協奏曲に対して、この管弦楽組曲の方は全て失われているため、どういう目的で作曲されたのかも、いつ頃作曲されたのかも明確なことは分かっていません。
それどころか、本当にバッハの作品なのか?という疑問が提出されたりもしてバッハ全集においてもいささか混乱が見られます。
疑問が提出されているのは、第1番と第5番ですが、新バッハ全集では、1番は疑いもなくバッハの作品、5番は他人の作品と断定し、今日ではバッハの管弦楽組曲といえば1番から4番までの4曲ということになっています。
- 管弦楽組曲第1番 ハ長調 BWV1066
荘厳で華麗な典型的なフランス風序曲に続いて、この上もなく躍動的な舞曲が続きます。
- 管弦楽組曲第2番 ロ短調 BWV1067
パセティックな雰囲気が支配する序曲と、フルート協奏曲といっていいような後半部分から成り立ちます。終曲は「冗談」という標題が示すように民衆のバカ騒ぎを思わせる底抜けの明るさで作品を閉じます。
- 管弦楽組曲第3番 ニ長調 BWV1068
この序曲に「着飾った人々の行列が広い階段を下りてくる姿が目に浮かぶようだ」と語ったのがゲーテです。また、第2曲の「エア」はバッハの全作品の中でも最も有名なものの一つでしょう。
- 管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069
序曲はトランペットのファンファーレで開始されます。後半部分は弦楽合奏をバックに木管群が自由に掛け合いをするような、コンチェルト・グロッソのような形式を持っています。
とらえどころのない人です。
こういう演奏を聞かされると、ヘルマン・シェルヘンという指揮者は実にとらえどころのない人だと思ってしまいます。
ロマン派の交響曲などでは、情緒というものを残酷なまでに切り捨てて、まるで冷血動物のような演奏をするかと思えば、このバッハのような作品に対しては実に情緒纏綿たる表現で押し通すのです。いったい、どちらがシェルヘンの正体なのだと思ってしまうのですが、おそらくはそう言う分裂症的な部分にこそ彼の特徴が有り、そう言う部分が最晩年のルガーノでのベートーベンの暴演に結びついたのかもしれません。
使っているオーケストラは「イングリッシュ・バロック管弦楽団」ですから、それなりに規模の小さなオーケストラだと思うのですが、それでも響きは重厚な低声部を土台にした伝統的なものです。ここでは冷血動物どころか暖かい血の通ったふくよかなバッハが表現されています。
それは、言ってみれば、この時代における巨匠たちのバッハ演奏のスタイルを踏襲したものです。
とりわけ、第2番のテンポ設定や分厚い低声部などを聞くと、もはやクナッパーツブッシュ張りのデフォルメという感じがします。第1番もかなり遅めのテンポ設定ですが、第3番、第4番と進むにつれて正気に戻っていくという雰囲気です。
リヒターなどが提示したバッハからはじまって、一頃のピリオド演奏によるスタンダードなバッハ像からすれば、これはもうも化石のようなバッハかもしれません。悪く言ってしまえば、ロマン主義的に歪曲された昔ながらのバッハと言い切っても誤りではないでしょう。
しかし、それでも、聞いていて楽しいことは間違いないのです。
「学問的」に間違っていても聞いていて楽しい演奏と、「学問的」に正しくても聞いていてちっとも楽しくない演奏では、どちらを選ぶでしょうか。
言葉をかえれば、ふくよかで暖かいバッハと、青白い貧血気味のバッハでは、どちらが好きになれるでしょう。
クラシック音楽というものが若い世代では聞く人が減っているそうですが。
その原因がどこにあるのか、あれやこれやと考えさせてくれる演奏です。
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