ワーグナー:ローエングリン 第1幕&第3幕への前奏曲
ハンス・スワロフスキー指揮 ウィーン交響楽団 1954年11月30日~12月2日日録音
Wagner:Lohengrin Act1 Prelude & Act3 Prelude
分かりやすさが陳腐につながらない音楽の力の凄さ

ワーグナーはこの前奏曲について「天使の群れによって運ばれてきた聖杯が、まばゆいばかりの高みから降臨してくる印象だ」と語っていたそうです。
なるほどね。
冒頭の、精妙極まるヴァイオリンの響きはまさに天使の群れ、その中から聖杯を象徴する旋律が姿を現します。それが次第に大きなクライマックスを築くと、音楽は再び天空の彼方に消え去っていくかのように静まり、そして消え去っていきます。
ワーグナーにそう言われてみれば、確かに分かりやすい音楽になっています。
しかし、驚くべきは、そこまでの分かりやすさに徹しながら、音楽は決して陳腐になっていないことです。
それ故に、この音楽はいろいろな映画やドラマでも使われて、その音楽の力でどんなにつまらないシーンでも意味ありげに見えるような力を発揮しています。
しかしながら、考えてみればこの「ローエングリン」という歌劇自体が実に分かりやすくできていて、下手をすればどんでもない「安手のドラマ」になってしまう危険をはらんでいるのです。
何しろ、悪者の奸計にはめられたお姫様がいて、その夢の中に自分を救ってくれる立派な騎士があらわれるのです。そして、驚くなかれ、その夢の中の騎士は白鳥に曳かれた船に乗って姿を現し、その悪者を退治してしまうのです。
このシーンが大好きだったバイエルンの国王フリードリヒ2世はお城の中に池を作り、そこに白鳥の船を浮かべてはその騎士になりきっていたというのは有名な話です。
そして、そのお姫様と騎士は結婚をして幸せがやってくるかに見えたのですが、疑念にとらわれたお姫様は禁じられた問い、その騎士の身元をたずねる問いを発してしまうのです。
やがて、悪者達は最後の攻撃を仕掛けてくるのですが、その騎士はそれらを難なくやっつけてしまうと、お姫様に向かってあなたは禁問の問いを発したと言って、自分は聖杯の騎士ローエングリンであることを明かして去っていくのです。
こう書いてしまうと恥ずかしくなるくらいに安っぽいのドラマではあるのですが、そこに音楽が加わるとそれが一転してロマン主義的営為の白眉とも言うべき音楽に変身してしまうのですから、ワーグナー恐るべしです。
ギリギリのラインを狙っている
ヨハン・シュトラウスのワルツなどを紹介したときにも感じたのですが、スワロフスキーという人にはウィーンの伝統を根っこにしっかりと保持しながら、その上でスワロフスキーならではの造形を見せてくれます。
その特徴は、同時代の巨匠たちのワーグナー演奏と較べてみればはるかに明晰であると言うことです。
クナッパーツブッシュのような有機生命体がのたうつような演奏は特別としても、それでも同時代の巨匠たちのワーグナー演奏は基本はその方向性にありました。ワーグナーが理想としたバイロイトの歌劇場のオーケストラピットは蓋で覆われているように、ワーグナーは自らの音楽は全ての楽器の響きが渾然一体となる事を望んでいたことは間違いありません。
それ故に、例えばセル&クリーブランドカンナの明晰きわまる演奏は、逆説的な言い方になるかもしれませんが、セルという男の徹底した主観性に基づいた演奏だと言えます。ただし、セルの音楽の根っこにはウィーンの伝統がありますから、その主観性は分かるべき事は熟知した上での造形でした。
同じようにドラティのワーグナーもまた精緻を極め、まるでワーグナーのミニチュア作品だと思ったものです。
しかし、スワロフスキーの明晰さはそう言う徹底したものではありません。
それはもう実に「いい案配」と言うべきか、セルのように光と影をクッキリと描き出して、細部の細部までさらけ出すような事はしなくて、その様な明暗に微妙な濃淡をつけることによってワーグナーの音楽が持つ重さとスケールの大きさを保持しています。
つまりは、ウィーンの劇場において「ワーグナーというものはこういうふうに演奏するものだ」という継承の枠の中に己を留まらせながら、その中でギリギリのラインを狙っているという感じなのです。
それはオケが馴染みのウィーン交響楽団ではなくてチェコ・フィルであっても同様です。
下手をすれば「中途半端」になる恐れがあるのかもしれませんが、私は十分に楽しんで聞くことができました。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2026-06-21]

アイルランド民謡「ミンストレル・ボーイ」(Rose Plays the Minstrel Boy & Others)
(T)クリストファー・リンチ:(Cello)レナード・ローズ (Flute)ジョン・ワマー (Harp)ローラ・ニューウェル 1947年録音(Christopher Lynch:(Cello)Leonard Rose (Flute)John Wummer (Harp)Laura Newell Recorded on 1947)
[2026-06-19]

ハイドン:弦楽四重奏曲第66番 ト長調, Op.64, No.4, Hob.3:66(Haydn:String Quartet in G major, Op.64, No.4, Hob.3:66)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1937年11月16日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on November 16, 1937)
[2026-06-17]

ベートーベン:リギーニのアリエッタ「恋人よ来たれ」による24の変奏曲 WoO 65(Beethoven:24 Variations on Righini's Arietta Venni amore, WoO 65)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-06-15]

ボッケリーニ:チェロ・ソナタ第1番 イ長調, G.13(Boccherini:Cello Sonata No. 1 in A Major, G. 13)
(Cell)エンリコ・マイナルディ:(P)カルロ・ゼッキ 1952年録音(Enrico Mainardi:(P)Carlo Zecchi Recorded on 1952)
[2026-06-13]

ベートーベン:ピアノ三重奏曲第7番 変ロ長調 「大公」 Op.97(Beethoven:Piano Trio No.7, Op.97 in B-flat major "Archduke")
(Vn)ダヴィド・オイストラフ (P)レフ・オボーリン (Cello)スヴィヤトスラフ・クヌシェヴィツキー 1958年5月9日~10日&12日録音((Vn)David Oistrakh:(P)Lev Oborin (Cello)Sviatoslav Knushevitsky Recorded on May 9-10&12, 1958)
[2026-06-11]

フランツ・シュミット:ピアノ五重奏曲(Schmidt:Piano Quintet in G major)
バリリ四重奏団:(P)イエルク・デムス 1952年録音(Barylli Quartet:(P)Jorg Demus Recorded on 1952)
[2026-06-09]

バッハ:教会カンタータ 「死人の中より甦りしイエス・キリストを覚えよ」 BWV67(J.S.Bach:Halt im Gedachtnis Jesum Christ, BWV 67)
ギュンター・ラミン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 トーマス教会少年合唱団 他 1954年2月26日録音(Gunther Ramin:Gewandhausorchester Leipzig Thomanerchor Leipzig (Org)Hannes Kastner (A)Gertrud Wagner (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel Recorded on February 26, 1954)
[2026-06-07]

エルガー:セレナーデ Op.20(Elgar:Serenade for String Orchestra in E minor, Op.20)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年6月6日録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on June 6, 1959)
[2026-06-05]

ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調, Hob.III:65(Haydn:String Quartet in C major, Hob.III:651)
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1954年録音(Vienna Concert House Quartet:Recorded on 1954)
[2026-06-03]

バッハ:教会カンタータ 「人々シバよりみな来たりて」 BWV65(J.S.Bach:ie werden aus Saba alle kommen, BWV 65)
ギュンター・ラミン指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 トーマス教会少年合唱団 (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel 1952年1月11日録音(Gunther Ramin:Gewandhausorchester Leipzig Thomanerchor Leipzig (T)Gert Lutze (Bass)BJohannes Oettel Recorded on January 11, 1952)