R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」 作品35
アンドレ・クリュイタンス指揮 パリ音楽院管弦楽団 1952年6月13日&16日録音
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [1.The Sea and Sinbad's Ship]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [2.The Legend of the Kalendar Prince]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [3.The Young Prince and The Young Princess ]
Rimsky-Korsakov:Scheherazade, Op.35 [4.Festival at Baghdad. The Sea. Ship Breaks against a Cliff Surmounted by a Bronze Horseman]
管弦楽法の一つの頂点を示す作品です。

1887年からその翌年にかけて、R.コルサコフは幾つかの優れた管弦楽曲を生み出していますが、その中でももっとも有名なのがこの「シェエラザード」です。彼はこの後、ワーグナーの強い影響を受けて基本的にはオペラ作曲家として生涯を終えますから、ワーグナーの影響を受ける前の頂点を示すこれらの作品はある意味ではとても貴重です。
実際、作曲者自身も「ワーグナーの影響を受けることなく、通常のオーケストラ編成で輝かしい響きを獲得した」作品だと自賛しています。
実際、打楽器に関しては大太鼓、小太鼓、シンバル、タンバリン、タムタム等とたくさんでてきますが、ワーグナーの影響を受けて彼が用いはじめる強大な編成とは一線を画するものとなっています。
また、楽曲構成についても当初は
「サルタンは女性はすべて不誠実で不貞であると信じ、結婚した王妃 を初夜のあとで殺すことを誓っていた。しかし、シェエラザードは夜毎興味深い話をサルタンに聞かせ、そのた めサルタンは彼女の首をはねることを一夜また一夜とのばした。 彼女は千一夜にわたって生き長らえついにサルタンにその残酷な誓いをすてさせたの である。」
との解説をスコアに付けて、それぞれの楽章にも分かりやすい標題をつけていました。
しかし、後にはこの作品を交響的作品として聞いてもらうことを望むようになり、当初つけられていた標題も破棄されました。
今も各楽章には標題がつけられていることが一般的ですが、そう言う経過からも分かるように、それらの標題やそれに付属する解説は作曲者自身が付けたものではありません。
そんなわけで、とにかく原典尊重の時代ですから、こういうあやしげな(?)標題も原作者の意志にそって破棄されるのかと思いきや、私が知る限りでは全てのCDにこの標題がつけられています。それはポリシーの不徹底と言うよりは、やはり標題音楽の分かりやすさが優先されると言うことなのでしょう。
抽象的な絶対音楽として聞いても十分に面白い作品だと思いますが、アラビアン・ナイトの物語として聞けばさらに面白さ倍増です。
まあその辺は聞き手の自由で、あまりうるさいことは言わずに聞きたいように聞けばよい、と言うことなのでしょう。そんなわけで、参考のためにあやしげな標題(?)も付けておきました。参考にしたい方は参考にして下さい。
- 第1楽章 「海とシンドバットの冒険」
- 第2楽章 「カランダール王子の物語」
- 第3楽章 「若き王子と王女」
- 第4楽章 「バグダッドの祭り、海、船は青銅の騎士のある岩で難破。終曲」
妖艶な美女と言うよりはかなり気の強い賢い女性として描かれている
クリュイタンスとコンセルヴァトワールのオケとの組み合わせから想像される「シェエラザード」とは随分雰囲気が異なる録音です。ただし、「クリュイタンスとコンセルヴァトワールのオケとの組み合わせ」から何を想像するかは人によって異なるでしょうから、この実感をどれほどの人が共有してくれるかは分かりません。
言うまでもないことですが、クリュイタンスのキャリアのほぼ全てはこのパリ音楽院管弦楽団の首席指揮者によって覆われています。そして、その関係は1960年に終わりをむかえるのですが、コンセルヴァトワールのオケはクリュイタンスに変わる首席指揮者を置かなかったので、実質的にはその関係はクリュイタンスがこの世を去る1967年まで継続しました。そして、その死によってコンセルヴァトワールのオケ自体が「パリ管弦楽団」に改組されるという形で終わりをむかえました。
今さら確認するまでもないことですが、パリ管弦楽団に改組されるに当たってオーケストラのメンバーの大半が馘首になっていますから、実質的にはその時点でパリ音楽院管弦楽団は終わりをむかえたのです。
確かに、このオケはツボにはまるとほかのオケでは絶対に聞くことのできない、うっとりとするような美しい響きを聞かせてくれました。しかし、それ以外の時は規律のないだれきった演奏をしても全く気にしない横着さを身につけていました。ですから、この組み合わせから思い浮かぶ音楽の形は、多少は緩くても軽やかで洒落た音楽を聞かせてくれるというものでした。
しかし、その様な音楽の形は60年代の中庸においてもすでに過去のものになっていました。そして、時の文化大臣だったマルローはその様なオケを近代的なアンサンブルを実現できるオケにかえるには「解体」するしかないと判断したのでした。
そして、そうなってしまった理由の半分ずつを指揮者のクリュイタンスとオケのメンバーが分け合う必要があったのです。
ところが、このシェエラザードでは、その出始めからして「剛直」と言っていいほどの響きなので、思わず録音クレジットを確かめました。確かめましたが、間違いなくオケはパリ音楽院管弦楽団でした。
ここでのシェエラザードは妖艶な美女と言うよりはかなり気の強い賢い女性として描かれているようです。しかしながら、ヴァイオリンのソロがシェエラザードのテーマを演奏すると、そこには清潔感のある色気も溢れています。
なるほど、考えてみれば、女性と一夜をともにしては殺してしまうと言う「変態男」から身を守り続けるには、「妖艶な色気」よりは「賢さと強さ」の方が必要なのは当然のことです。ですから、このようなシェエラザードは実に納得がいくというものです。
そして、昔のパリ音楽院管弦楽団はこういう演奏も出来たんだと驚かされるのです。
そう言えば、50年代の終わりに、一度だけ「ショルティ」という指揮者がやってきて、それこそ様々な軋轢の末に、最終的には鞭でしばき倒すように録音したチャイコフスキーの交響曲がありました。オケのメンバーにしてみれば悪夢のような日々だったとは思うのですが、それでも時代の流れはショルティの主義の方に理があって、やがてはその方向にオケを作り直すために解体的な改組の日を迎えてしまう事を後の時代の我々は知ってしまっているわけです。やろうと思えばやれるんだったら、リストラされる前に態度を改めておけばよかったのにと思うのですが、そうなれば、それはもはやコンセルヴァトワールのオケではないという矜恃もあったのでしょう。
しかし、この50年代初めのシェエラザードの演奏を聞いていると、もとは決してアンサンブルを疎かにするようなオケではなかったことに気づかされます。それだけに、何処でどう間違って解体への道を歩み始めてしまったのかと思うのですが、困るのはそう言う「いい加減さ」がもたらす「美」も間違いなくあったと言うことです。
一人ひとりが真面目で、それぞれの持ち場で各自の果たすべき役割を完璧に果たしていけば、組織は完璧に機能します。その事に文句を言う気はないのですが、それによって失われてしまうものあるのです。そして、そう言う「平均的水準」をはるかに超えるような「美」というものは、そう言う「機能性」からは生まれないことをも事実なのです。
ただし、そう言う「美」はこの録音では希薄かもしれません。だとすれば、この後の時代を通してこのコンビは進歩したと言うことなのでしょうか。世間がそれを「劣化」と批判してもそうではないという「矜恃」を持ち続けていたのかもしれません。
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