モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K.525 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 1965年8月録音
Mozart:Serenade In G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [1. Allegro]
Mozart:Serenade In G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [2. Romance (Andante)]
Mozart:Serenade In G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [3. Menuetto (Allegretto)]
Mozart:Serenade In G Major, K.525 "Eine kleine Nachtmusik" [4. Rondo (Allegro)]
小さい枠ではあるが、それ自身で完結した小宇宙
この作品は驚くほど簡潔でありながら、一つの完結した世界を連想させるものがあります。
「音符一つ変えただけで音楽は損なわれる」とサリエリが感嘆したモーツァルトの天才をこれほど分かりやすく提示してくれる作品は他には思い当たりません。
おそらくはモーツァルトの全作品の中では最も有名な音楽の一つであり、そして、愛らしく可愛いモーツァルトを連想させるのに最も適した作品です。
ところが、それほどまでの有名作品でありながら、作曲に至る動機を知ることができないという不思議さも持っています。
モーツァルトはプロの作曲家ですから、創作には何らかのきっかけが存在します。
それが誰かからの注文であり、お金になる仕事ならモーツァルトにとっては一番素晴らしい動機だったでしょう。あるいは、予約演奏会に向けての作品づくりであったり、出来のよくない弟子たちのピアノレッスンのための音楽作りであったりしました。
まあ早い話が、お金にならないような音楽づくりはしなかったのです。
にもかかわらず、有名なこの作品の創作の動機が今もって判然としないのです。誰かから注文があった気配はありませんし、演奏会などの目的も考えられません。何よりも、この作品が演奏されたのかどうかもはっきりとは分からないのです。
そんなわけで、自分のために音楽を作るということはちょっと考えづらいモーツァルトなのですが、もしかしたら、この作品だけは自分自身のために作曲したのかもしれないのです。もしそうだとすると、これは実に貴重な作品だといえます。
そして、そう思わせるだけの素晴らしさを持った作品でもあります。
モーツァルトには「幸福」こそが最も似合います
カラヤンのモーツァルトは至って評判が悪いのですが、何故かしらこの65年の8月にまとめて録音された一連のモーツァルトは悪くないのです。いや、悪くないと言うよりは、非常に素晴らしいのです。調べてみると、以下の作品が録音されています。
Symphony No. 29 in A major, K.201
Symphony No. 33 in B flat major, K.319
Serenade In G Major, K.525 Eine kleine Nachtmusik
Divertimento No.15 in B Flat Major, K.287
Divertimento in D, K.334
さらに振り返ってみると、この前年の8月にはバッハのブランデンブルク協奏曲を一気に録音しています。(正確に言うと、第6番だけは翌年の2月22日に管弦楽組曲の2番、3番と一緒に録音しています。)
カラヤンがこういう作品をこういう形でまとめて録音するというのは珍しいことです。そこで、その理由を調べてみて分かったのは、これら一連の録音は全て夏の避暑地における録音だと言うことです、
カラヤンはブランデンブルグ協奏曲を録音した1964年から、夏は避暑地のサンモリッツで過ごすようになりました。そして、そのサンモリッツに気の合うベルリンフィルのメンバーを呼んで気楽な感じで演奏会やセッション録音を行ったのです。
64年はブランデンブルグ協奏曲、65年はモーツァルト作品をまとめて録音し、67年から68年にかけてはヘンデルの合奏協奏曲とモーツァルトのディヴェルティメントを録音しています。そして、そう言う録音活動以外にも気楽な演奏会も行っていたようで、そう言う活動場所はサンモリッツ誌が全て全面的にバックアップをしていたようです。それらは、気の張りつめた音楽活動ではなく、まさに夏の避暑の合間における楽しみとしての音楽活動という面が強かったようです。
そして、この優雅な夏の日々は72年まで続くことになります。
この何とも言えず力の抜けた楽しげなモーツァルトは、カラヤンとベルリンフィルが本気で録音したそれ以外のモーツァルトよりもはるかにモーツァルトらしいのです。
ここにはカラヤンとベルリンフィルが紡ぎ出す過剰なまでの響きがないのです。そして、その薄めの響きがバッハにおいてもモーツァルトにおいても、明らかにプラスに働いているような気がするのです。
おそらくは、サンモリッツに集ったのはベルリンフィルの主なメンバーではあったでしょうがフルメンバーではなかったはずです。
クレジットが「ベルリンフィル管弦楽団」とはなっていても、その編成はかなり小ぶりであったと思われます。
ところが、その小編成の弦楽合奏が紡ぎ出す響きの何という美しさ!!
そして、独奏ヴァイオリンのうっとりするような響きと伸びやかなホルンの何という美しさ!!
これを聞いてしまうと、何故にカラヤンは本気モードの時にあそこまで過剰な響きでモーツァルトを描き出そうとしたのかと疑問に思わざるを得ません。その気になりさえすれば、このサンモリッツの時のように透明感あふれるモーツァルトの世界を描き出すことができたのに!!
しかし、できるけれどもやらなかった、と言う事実を私たちは直視すべきなのでしょう。
私は、この小編成のオケが紡ぎ出す世界こそがモーツァルトらしい世界だと思うのですが、カラヤンはそうは思わなかったと言うことです。
そして、あのカラヤンが思わなかったものを、我々ごときがあれこれ言って何になると言うのでしょう。
私がいかに過剰と思っても、そこにカラヤンが求めたモーツァルトの姿が示されているのならば、私たちはそれを敬して受け入れるしかないのです。
ただ、この8月の録音に刻まれた音楽は、疑いもなくカラヤンとベルリンフィルの最も幸福な時代の記録であることは事実です。
そして、モーツァルトには「幸福」こそが最も似合うということだけは間違いないようです。
<追記>
人によっては、29番のシンフォニーと較べれば作品のクオリティが落ちるので聞きごたえは今ひとつとの声も聞きます。しかし、こういう気楽なスタイルの演奏ではそう言う小難しいことを考えるのはよしましょう。
さらに言えば、こういうスタイルならば、交響曲よりはセレナードやディヴェルティメントなんかの方がもっとピッタリな感じがします。
とりわけ、この「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、その作品が持っている優美な美しさが如何なく描き出されているような気がします。
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