ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14(Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14)
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 パリ音楽院管弦楽団 1961年2月6日~8日&11日録音(Constantin Silvestri:Orchestre De La Societe Des Concerts Du Conservatoire Recorded on June 6-8&11, 1961)
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [1.Reveries - Passions. Largo - Allegro agitato e appassionato assai - Religiosamente]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [2.Un bal. Valse. Allegro non troppo
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [3.Scene aux champs. Adagio]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [4.Marche au supplice. Allegretto non troppo]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [5.Songe dune nuit de sabbat. Larghetto - Allegro]
ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。
この作品が大好きでした。
「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。
よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優に対するかなわぬ恋でした。
相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。
しかし、凄いのはこの後です。
時は流れて、立場が逆転します。
女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。
やはり一流になる人間は違います。ユング君などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;
しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。
さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。
凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
ユング君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。
なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。
「感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」
第1楽章:夢・情熱
「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」
第2楽章:舞踏会
「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」
第3楽章:野の風景
「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」
第4楽章:断頭台への行進
「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」
第5楽章:ワルプルギスの夜の夢
「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」
「動」から「静」へ
シルヴェストリと言えば一部では「爆裂指揮者」というレッテルを貼られています。しかし、そんな簡単な一言で決めつけられては困ります。
確かに、有名な1957年録音のドヴォルザークの「新世界より」は強烈な演奏で、それゆえに「爆裂指揮者」というレッテルが貼られたようです。翌年に録音したドビュッシーの「海」なんかも強烈な「荒れ狂う海」でした。
しかし、彼の録音をもう少し聞いてみれば、それとは真逆のアプローチに驚かされることがあります。
私の感覚としては、まずは「新世界より」や「海」のような強烈な表現で注目を浴びたのですが、年を追うにつれて次第に「動」から「静」へと移り変わっていきます。
「新世界より」や「海」では「爆裂」と言われても仕方がないほどの強烈な「動」の表現でしたが、チャイコフスキーのマンフレッド交響曲などでは「ドラマティック」という範囲に収まっています。同じことがフランクの交響曲にも言えます。
他の指揮者に比べれば十分すぎるほどに濃厚でドラマティックな表現ですが、さすがに「爆裂」とは言えないでしょう。
そして61年に録音したベルリオーズの幻想交響曲あたりになると、それまでのシルヴェストリに見られた濃厚な世界観は後退して意外なほど普通の演奏になっています。もっとも第4楽章「断頭台への行進」では変な響きがしていて意味不明ではあります・・・が。
そして、最晩年に近い66年に録音されたルムスキー.コルサコフの「シェエラザード」などでは十分にドラマティックでありながら佇まいは精緻であり、オケもよくコントロールされています。
さらに、彼が西側で初めて手兵としたボーンマス交響楽団との録音では、静的で極めて精緻な響きに驚かされます。もちろんドラマティックな部分は失っていないのですが、もはや「爆裂、爆演」とは真逆の世界です。
そういう彼の西側での軌跡をたどってみると、そこには見事なまでの「静」から「動」への変身が見て取れます。
そして、どちらがシルヴェストリの「本当」なんだと思うのです。
まあ、どちらもジルヴェストリなのでしょう。「静」であれ「動」であれ、そこにあるのは完全に燃やし尽くした演奏であり、逆から見れば、そこまで燃えていない時は駄演となることは否定できなかったようです。
シルヴェストリについては長らく視野の外にありました。
彼が再び私の視野に入ってきたのはジョルジュ・ジョルジェスクのベートーベンと出会ったからでした。
そして、その結果として彼の残した録音をあれこれ聞きなおしています。
聞けば聞くほど、1969年にわずか55歳で亡くなったことが残念でなりませんでした。できれば手兵のボーンマス交響楽団ともっとたくさんの「燃やし尽くした」録音を残してほしかったものです。
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