ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14
エデゥアルト・ファン・ベイヌム指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 1951年9月10日録音
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [1.Reveries - Passions. Largo - Allegro agitato e appassionato assai - Religiosamente]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [2.Un bal. Valse. Allegro non troppo
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [3.Scene aux champs. Adagio]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [4.Marche au supplice. Allegretto non troppo]
Berlioz:Symphonie fantastique in C minor, Op.14 [5.Songe dune nuit de sabbat. Larghetto - Allegro]
ベートーベンのすぐ後にこんな交響曲が生まれたとは驚きです。

私はこの作品が大好きでした。
「でした。」などと過去形で書くと今はどうなんだと言われそうですが、もちろん今も大好きです。なかでも、この第2楽章「舞踏会」が大のお気に入りです。
よく知られているように、創作のきっかけとなったのは、ある有名な女優(アイルランド出身の女優、ハリエット・スミッソン)に対するかなわぬ恋でした。
相手は、人気絶頂の大女優であり、ベルリオーズは無名の青年音楽家ですから、成就するはずのない恋でした。結果は当然のように失恋で終わり、そしてこの作品が生まれました。
しかし、凄いのはこの後です。
時は流れて、立場が逆転します。
女優は年をとり、昔年の栄光は色あせています。
反対にベルリオーズは時代を代表する偉大な作曲家となっています。
ここに至って、漸くにして彼はこの恋を成就させ、結婚をします。
やはり一流になる人間は違います。私などには想像もできない「しつこさ」です。(^^;
しかし、この結婚はすぐに破綻を迎えます。理由は簡単です。ベルリオーズは、自分が恋したのは女優その人ではなく、彼女が演じた「主人公」だったことにすぐに気づいてしまったのです。
恋愛が幻想だとすると、結婚は現実です。そして、現実というものは妥協の積み重ねで成り立つものですが、それは芸術家ベルリオーズには耐えられないことだったでしょう。「芸術」と「妥協」、これほど共存が不可能なものはありません。
さらに、結婚生活の破綻は精神を疲弊させても、創作の源とはなりがたいもので、この出来事は何の実りももたらしませんでした。
狂おしい恋愛とその破綻が「幻想交響曲」という実りをもたらしたことと比較すれば、その差はあまりにも大きいと言えます。
凡人に必要なもは現実ですが、天才に必要なのは幻想なのでしょうか?それとも、現実の中でしか生きられないから凡人であり、幻想の中においても生きていけるから天才ののでしょうか。
私君も、この舞踏会の幻想の中で考え込んでしまいます。
なお、ベルリオーズはこの作品の冒頭と格楽章の頭の部分に長々と自分なりの標題を記しています。参考までに記しておきます。
感受性に富んだ若い芸術家が、恋の悩みから人生に絶望して服毒自殺を図る。しかし薬の量が足りなかったため死に至らず、重苦しい眠りの中で一連の奇怪な幻想を見る。その中に、恋人は1つの旋律となって現れる…」
第1楽章:夢・情熱
「不安な心理状態にいる若い芸術家は、わけもなく、おぼろな憧れとか苦悩あるいは歓喜の興奮に襲われる。若い芸術家が恋人に逢わない前の不安と憧れである。」
第2楽章:舞踏会
「賑やかな舞踏会のざわめきの中で、若い芸術家はふたたび恋人に巡り会う。」
第3楽章:野の風景
「ある夏の夕べ、若い芸術家は野で交互に牧歌を吹いている2人の羊飼いの笛の音を聞いている。静かな田園風景の中で羊飼いの二重奏を聞いていると、若い芸術家にも心の平和が訪れる。
無限の静寂の中に身を沈めているうちに、再び不安がよぎる。
「もしも、彼女に見捨てれられたら・・・・」
1人のの羊飼いがまた笛を吹く。もう1人は、もはや答えない。
日没。遠雷。孤愁。静寂。」
第4楽章:断頭台への行進
「若い芸術家は夢の中で恋人を殺して死刑を宣告され、断頭台へ引かれていく。その行列に伴う行進曲は、ときに暗くて荒々しいかと思うと、今度は明るく陽気になったりする。激しい発作の後で、行進曲の歩みは陰気さを加え規則的になる。死の恐怖を打ち破る愛の回想ともいうべき”固定観念”が一瞬現れる。」
第5楽章:ワルプルギスの夜の夢
「若い芸術家は魔女の饗宴に参加している幻覚に襲われる。魔女達は様々な恐ろしい化け物を集めて、若い芸術家の埋葬に立ち会っているのだ。奇怪な音、溜め息、ケタケタ笑う声、遠くの呼び声。
”固定観念”の旋律が聞こえてくるが、もはやそれは気品とつつしみを失い、グロテスクな悪魔の旋律に歪められている。地獄の饗宴は最高潮になる。”怒りの日”が鳴り響く。魔女たちの輪舞。そして両者が一緒に奏される・・・・」
あっさりと思いきや、最後は叩きこむような迫力
ベイヌムと1946年と1951年の2回にわたって幻想交響曲を録音しています。当然の事ながら両方ともモノラル録音ですし、レーベルもともにDeccaです。
昨今と違って録音というのは誰でもが簡単にできることではなかった時代ですから、わずか5年の時を隔てて同一レーベルで同じ作品を2回も録音するというのは随分と珍しい話でしょう。普通こういう場合は、指揮者の側に主導権があって、1回目の録音がどうしても気に入らなかったので強引にもう一回録音するというパターンが一般的なのでしょうが、残念ながら私は1946年の録音を聞いたことがないのでそのあたりは何とも判断がつきかねます。
ですから、考えられるもうひとつの理由としては、モノラルで録音したものをもう一度ステレオで録音しなおすのと似た感覚で、SP盤の録音を長時間収録が可能なLP盤のために録音しなおしたと考えることも可能です。それに、この51年録音はおそらくはテープ録音でしょうから音質的なメリットは大きかったと言えます。
実際、50年代初頭のベエヌムとコンセルトヘボウというのは「黄金の組み合わせ」だと言えるのですが、この録音もまたそう言う素晴らしい響きの片鱗は捕らえています。
さて、録音に関する話はそれくらいにして肝心の演奏の方なのですが、これが意外なほどにあっさりとした音楽になっています。ただし、響きがこのコンビらしい芳醇さに溢れているので薄味という感じはしません。逆に、淡々と進む第3楽章の「野の風景」などは実にしみじみとした佇まいで非常に好ましく思えます。
第2楽章の「舞踏会」にしてもそれほど華やかに雰囲気を盛りあげるわけではないのですが、実にもって上品な舞踏会であることも事実です。
そして、最後の断頭台での処刑からワルプルギスの夜の夢についても、それほどおどろおどろしい感じはしません。ここも、大仰な身振りはぐっとおさえてある種の端正さを失いません。
なるほど、ベイヌムという人にはこういう側面もあったのだなと納得しかけたところで急に雰囲気が変わります。
それは最後の最後で急激にテンポが上がってとんでもないド迫力で最後を締めくくるのです。
これはもう唖然とするしかありません。
なんだ、今までのおとなしさはこの最後の一大スペクタクルをより効果あるものにするための伏線だったのか、等と思ってしまうほどです。
そう言えばブラームスの1番でも、最後の最後のコーダで鬼のインテンポを維持して聞き手の度肝を抜きました。
この最後の最後であっといわせるというのはベイヌムの得意技の一つだったのかもしれません。もっとも、いつもいつもそんな事をしてるわけではないのですが、上手く決まれば実に効果的だと思う人もいるでしょうし、あざといと思う人もいるでしょう。
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