クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第1番 ハ長調 作品21

シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1958年9月27&29日録音





Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第1楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第2楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第3楽章」

Beethoven:交響曲第1番 ハ長調 作品21 「第4楽章」


栴檀は双葉より芳し・・・?

ベートーベンの不滅の9曲と言われ交響曲の中では最も影の薄い存在です。その証拠に、このサイトにおいても2番から9番まではとっくの昔にいろいろな音源がアップされているのに、何故か1番だけはこの時期まで放置されていました。今回ようやくアップされたのも、ユング君の自発的意志ではなくて、リクエストを受けたためにようやくに重い腰を上げたという体たらくです。

でも、影は薄いとは言っても「不滅の9曲」の一曲です。もしその他の凡百の作曲家がその生涯に一つでもこれだけの作品を残すことができれば、疑いもなく彼の代表作となったはずです。問題は、彼のあとに続いた弟や妹があまりにも出来が良すぎたために長兄の影がすっかり薄くなってしまったと言うことです。

この作品は第1番という事なので若書きの作品のように思われますが、時期的には彼の前期を代表する6曲の弦楽四重奏曲やピアノ協奏曲の3番などが書かれた時期に重なります。つまり、ウィーンに出てきた若き無名の作曲家ではなくて、それなりに名前も売れて有名になってきた男の筆になるものです。モーツァルトが幼い頃から交響曲を書き始めたのとは対照的に、まさに満を持して世に送り出した作品だといえます。それは同時に、ウィーンにおける自らの地位をより確固としたものにしようと言う野心もあったはずです。

その意気込みは第1楽章の冒頭における和音の扱いにもあらわれていますし、、最終楽章の主題を探るように彷徨う序奏部などは聞き手の期待をいやがうえにも高めるような効果を持っていてけれん味満点です。第3楽章のメヌエット楽章なども優雅さよりは躍動感が前面にでてきて、より奔放なスケルツォ的な性格を持っています。
基本的な音楽の作りはハイドンやモーツァルトが到達した地点にしっかりと足はすえられていますが、至る所にそこから突き抜けようとするベートーベンの姿が垣間見られる作品だといえます。

ステンドグラスのようなベートーヴェン


Google先生にこのシューリヒトのベートーベンの評判を聞いてみると、意外なほどに好意的なので驚きました。
「演奏のきびきびとした活きの良さ、音と音の絡み合いの妙、とにかく聴いていて音楽の素晴らしさに感動した。」とか、「透明感のある響き、まるでステンドグラスのようなベートーヴェンだと思います。」等々、なかなかに好意的です。

ただ、問題は「録音」です。
正直言ってこれは「犯罪的」と言っていいでしょう。
EMIがステレオ録音に懐疑的だったのは分かりますので、50年代後半であるにもかかわらずモノラルで録音されたことは目を瞑りましょう。実際、当時のモノラル録音は技術的には完成の域に達していて、「モノラル録音=音質が悪い」という公式は成り立ちません。それどころか、実験段階にあった当時のステレオ録音と比較すると、完成の域に達したモノラル録音の方が音質的には好ましく思えるものも少なくなかったのです。
たとえば、55?56年にモノラルで録音されたカラヤン&フィルハーモニアの演奏などは、下手なステレオ録音などは足元にも及ばないような見事さです。
しかし、このシューリヒトの録音に関しては、何かの間違いではないかと思えるほどに録音のクオリティが低いのです。それは、「モノラルで録音されたから音が悪い」のではなくて、「完成の域に達していたモノラルで録音したにもかかわらずこの体たらく」であることに「犯罪」のにおいを感じるのです。

おそらく、EMIはやる気がなかったのでしょう。そうでなければ、こんなひどい録音でリリースされることなど考えられません。
「隣の部屋でならしてる音楽を壁に耳あてて聴くような音質」とまでは酷評しませんが、この時期のモノラル録音の完成度を知るものならば、大いに「怒り」を感じるクオリティであることは事実です。

しかし、そんな録音のマイナスは割り引いても、演奏の面白さは一級品です。
これは、フルトヴェングラーやクナのベートーベン演奏からは対極にある演奏であることはすぐに分かりますが、かといってトスカニーニやセルのベートーベンと同族かと言われるとそれも少し違います。
そこで気づいたのが、もしかしたらこれと一番対極にあるのは晩年のカラヤンかもしれないということです。そう、あの「カラヤン美学」から最も遠い位置にある演奏がこのシューリヒトではないかと思い至ったのです。

カラヤンの特長はめいっぱいに「音価」を長くとって、それを徹底的に磨き抜くことです。たとえば、晩年に録音したシベ2の第4楽章などは、別の音楽に聞こえるほどに音価を長くとって、まるでハリウッドの映画音楽みたいになっています。
それに対して、ここでのシューリヒトは限界までに音価を短く切り詰めています。たとえば、エロイカの冒頭などは切り詰めを通り越して切り上げてるようにすら聞こえます。結果として、聞こえてくる音楽はとても「軽く」なります。当然のことながら、人の官能に訴えかける魅力は非常に乏しくなります。
しかし、そう言う俗耳に入りやすい「分かりやすさ」を犠牲にしてシューリヒトが獲得しようとしたのは明晰でクリアなベートーベン像だったことは明らかです。ただし、そのベートーベンはトスカニーニやセルのような甲冑を身にまとったベートーベンではなくて、「透明感のある響き、まるでステンドグラスのようなベートーヴェン(・・・うーん、実に上手いこというものです!!」です。

とは言え、さすがに「軽すぎるだろう・・・(^^;・・・は思わざるを得ないものもありました。もちろん、そのあたりの感覚は人それぞれでしょうから、他の人にそのような感覚を押しつけるつもりはありませんが・・・。
ただし、「田園」「合唱付き」は文句なしに素晴らしいと思います。
特に第九は「犯罪的」とも言える録音の中では一番被害が少ないように思いますし、これだけがステレオで録音された音源が存在するようで、別のレーベルからそのステレオ録音によるCDも発売されているようです。

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