ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調 作品90
クレンペラー指揮 ウィーン交響楽団 1956年3月8日録音
Brahms:交響曲第3番ヘ長調 op.90 「第1楽章」
Brahms:交響曲第3番ヘ長調 op.90 「第2楽章」
Brahms:交響曲第3番ヘ長調 op.90 「第3楽章」
Brahms:交響曲第3番ヘ長調 op.90 「第4楽章」
秋のシンフォニー

ユング君は長らくブラームスの音楽が苦手だったのですが、その中でもこの第3番のシンフォニーはとりわけ苦手でした。
理由は簡単で、最終楽章になると眠ってしまうのです(^^;
今でこそ曲の最後がピアニシモで消えるように終わるというのは珍しくはないですが、ブラームスの時代にあってはかなり勇気のいることだったのではないでしょうか。某有名指揮者が日本の聴衆のことを「最初と最後だけドカーンとぶちかませばブラボーがとんでくる」と言い放っていましたが、確かに最後で華々しく盛り上がると聞き手にとってはそれなりの満足感が得られることは事実です。
そういうあざとい演奏効果をねらうことが不可能なだけに、演奏する側にとっても難しい作品だといえます。
第1楽章の勇壮な音楽ゆえにか、「ブラームスの英雄交響曲」と言われたりもするのに、また、第3楽章の「男の哀愁」が滲み出すような音楽も素敵なのに、「どうして最終楽章がこうなのよ?」と、いつも疑問に思っていました。
そんなユング君がふと気がついたのが、これは「秋のシンフォニー」だという思いです。(あー、またユング君の文学的解釈が始まったとあきれている人もいるでしょうが、まあおつきあいください)
この作品、実に明るく、そして華々しく開始されます。しかし、その明るさや華々しさが音楽が進むにつれてどんどん暗くなっていきます。明から暗へ、そして内へ内へと音楽は沈潜していきます。
そういう意味で、これは春でもなく夏でもなく、また枯れ果てた冬でもなく、盛りを過ぎて滅びへと向かっていく秋の音楽だと気づかされます。
そして、最終楽章で消えゆくように奏されるのは第一楽章の第1主題です。もちろん夏の盛りの華やかさではなく、静かに回想するように全曲を締めくくります。
そう思うと、最後が華々しいフィナーレで終わったんではすべてがぶち壊しになることは容易に納得ができます。人生の苦さをいっぱいに詰め込んだシンフォニーです。
スタジオ録音と聞き比べてみれば結構面白いです。
ハスキルとの共演でクレンペラー大先生のことを随分と悪く書いたので、少しは彼の大先生の名誉を回復するためにブラームスの交響曲のライブ演奏を追加しておきます。
・交響曲第1番ハ短調 op.68 フランス国立放送管弦楽団 1954年9月17日録音
・交響曲第2番ニ長調 op.73 ベルリン放送交響楽団 1957年1月21日録音
・交響曲第3番ヘ長調 op.90 ウィーン交響楽団 1956年3月8日録音
・交響曲第4番ホ短調 op.98 バイエルン放送交響楽団 1957年9月27日録音
クレンペラーは56年から57年にかけてフィルハーモニア管とのコンビでブラームスの交響曲全集を録音していますから、それと聞き比べてみるとのも面白いでしょう。
あのスタジオ録音に関しては「全体を通してまとめてみれば、極めて真っ当ななテンポ設定と、キチンとしたフォルム重視の、実にスタンダードな演奏だと言うことです。部分的には『おや?』という異形な部分があることも事実ですが、全体的に見てみれば、実に真っ当で立派な演奏です。」とまとめています。
よく知られているように、クレンペラーはモントリオール空港のタラップからの転落事故で大怪我をしてからは椅子に座って指揮をするようになり、おかげで抑制のきいた音楽作りができるようになったと陰口をたたかれています。ところが、その抑制のきいた演奏も59年の寝たばこ事件で大火傷を負い、その抑制がさらに行き過ぎた超スローテンポの音楽作りをするになります。
つまり、今回紹介したライブ録音もフィルハ?モニア管とのスタジオ録音も、ある意味クレンペラーの「絶頂期」に録音されたものなのです。(もちろん、最晩年の録音を評価する多くの人からは石礫が飛んできそうな物言いですが・・・)
ところが、その演奏の雰囲気は随分と異なります。
たとえば、第4番のスタジオ録音は「これほどゴツゴツ感のある第4番も珍しいのではないでしょうか。特に、最終楽章のパッサカリアは、あの音形が聞き手にもはっきりと分かるように、念押しするようにきっちりと提示されています。」と書いたような演奏です。それに対して、ライブ録音の第4番は実に細やかなニュアンスにあふれていて、「優美」とも言えるほどに感情たっぷりに歌い上げています、
もしも、これをブラインドで聞かされて指揮者がクレンペラーだと言い当てられる人はほとんどいないでしょう。
第1番もライブもどちらかと言えば軽めで第4楽章のあの有名なテーマなども実に優美に歌い上げています。作品全体のフォルムが実にかっちりとしていて、ある意味では極めて優等生的な演奏だったスタジオ録音とはずいぶん雰囲気が異なります。
第2番のスタジオ録音も「前半の3楽章がいささか窮屈な感が否めません」と書いたようなキッチリとした演奏になっているのですが、ライブの方は最初からかなりテンションが高めです。そのため、指揮者のコントロールが行き届いていないようでいささか荒っぽい感じの演奏になっています。
ただ、クレンペラーが凄いと思うのは、何をしたのかは分かりませんが、第3楽章あたりからはオケが落ち着いてきて完全に統制がとれてきていることです。惜しむらくは、最終楽章の爆発的に盛り上がっていく部分でリミッターがかかったようになっていて、その凄さが十分に収録され切っていないことです。
ただ、第3番に関しては、演奏のベクトルがとても似通っています。ですから、ミスなくきれいに仕上がっているスタジオ録音の立派さが際だっています。
なるほど、指揮者というものは煮ても焼いても食えない代物のようで、その場その場の雰囲気でくるくると姿を変えます。それが、クレンペラーのような傑物であればなおさらと言うことなのでしょう。
かなりマニアックな聴き方ではありますが、同時期に録音されたスタジオ録音とライブ録音を聞きくべてみるというのは、そう言う指揮者の多面性というものに気づくと言うことでは面白い試みだと思いました。
なお録音に関しては、会場のノイズなどがかなり盛大に入っていて人によっては好き嫌いが分かれると思います。私などはあまり好きな方ではありません。しかし、肝心のオケの音は、この時代のライブ録音としては「出色」と言っていいほどに押し強い部分を上手くすくい取っています。聴き応えは十分です。
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