シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」
ジョージ・セル ブダペスト弦楽四重奏団 1946年5月16日録音
Schubert:ピアノ五重奏曲「第1楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「第2楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「第3楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「第4楽章」
Schubert:ピアノ五重奏曲「第5楽章」
幸福な日々の反映
この第4楽章が歌曲「ます」の主題による変奏曲になっていて、あまりにも有名なメロディであるためにいろいろな場面で使われます。
ある方はこの作品を「給食五重奏曲」と語っています。小学校時代の給食時間に必ず流れていたため、この音楽を聴くとコッペパンと牛乳、そして大好きだったクリームシチューが思い浮かぶそうです。
私の友人で、モーツァルトのフルート四重奏曲が大嫌いだという女性がいました。保育所時代のお昼寝の時間に必ず流れていたそうで、お昼寝の時間が大嫌いだった彼女はこの音楽を聴くと苦しくも悲しかった保育所時代o(・_・θキック、を思い出してしまうらしいのです。
給食五重奏曲の方は幼い頃の幸せな思い出と結びついているのでいいのですが(大人?になった今、休日の午後ゆっくり、リラックスしながら「ます」を聴くことがしばしばある。美しいメロデイーを聴くと、豊かな気持ちでいっぱいになる。)、後者の彼女のような出会いだとこれは不幸ですね。
しかし、こういう超有名曲は、好むと好まざるとに関わらずそう言う前世での出会い( ̄○ ̄;)!お、おい・・・をしてしまう確率はかなり高いと言えます。
閑話休題。
そんなどうでもいいことは脇に置いておいて作品の真面目な紹介をしておきましょう。
この作品は友人のフォーゲルに誘われて風光明媚なシュタイアという町を訪れたことが創作のきっかけとなっています。滞在中に知り合ったこの町の鉱山長官のワインガルトナーがシューベルトの歌曲「ます」を大いに気に入り、このテーマを使ったピアノ五重奏曲を依頼したからです。
さらに、ワインガルトナーは当時話題になっていたフンメルの五重奏曲と同じ楽器編成の作品を依頼したために、ちょっと変わった編成の作品が仕上がりました。(ますの楽器編成は一頃就職試験によくでたそうです。そんなことを知っていて何の役に立つのかと思いますが、いわゆるひっかけ問題としては最適だったようです)
言うまでもなくクインテットの一般的な編成はピアノ+弦楽四重奏ですが、ここではピアノ+ヴァイオリン+ヴィオラ+チェロ+コントラバスとなっています。これは、チェロの愛好家だったワインガルトナー自身がその腕前を存分に発揮できるようにするためだったようです。最低音をコントラバスが受け持つために、チェロが自由に動き回るようになっています。
また、シュタイアでの幸福な日々を反映するかのように、かげりの少ない伸びやかな作品となっていることもこの作品の人気の一因となっているようです。
バランスのセル
ピアニストとしてのセルがいかにすぐれた腕前を持っていたかを如実に証明する録音です。
録音が年代相応に貧しいのが残念ですが、その価値は現在においても色褪せていません。
セルのピアノを聴くときにいつも感心するのは弦楽器群とのバランスの良さです。と言うのも、こういう形式の作品を演奏するときは基本的にピアニストは闖入者です。いつもいっしょにアンサンブルをやっている弦のメンバーの中にピアノが余所者としてやってくるわけです。さらに困ったことに、その余所者であるピアノはやろうと思えば弦楽器を圧倒してしまうことが音量的に可能です。
この音量面でのバランスというのは日常的にアンサンブルをやっている弦のメンバーにとっては一番神経を使う部分だと思うのですが、そこへ遠慮会釈なしにピアノをガンガン弾かれたりするとかなり困ったことになるはずです。
ところがセルがピアニストをつとめると、これが驚くほどいい案配に落ち着いているのです。まるで弦のメンバーと何年も一緒にアンサンブルをやっていたのかと思うほどのバランスの良さです。
若き時代に「バランスのセル」とよばれた人ですが、その本質はピアニストとしても発揮されていたのかとつくづくと感心させられます
よせられたコメント
2009-10-04:カンソウ人
- このピアノ五重奏曲は普通のピアノ五重奏曲とは編成が異なることは、この曲にとって大きな意味を持っている。ふつうの弦楽四重奏団にピアノの形よりは演奏の機会は減るものと思われる。機会音楽として、依頼主や演奏をする予定の音楽家の技術や音楽性、ご機嫌などを考慮して作曲されている。そう考えた方が良い。ピアノはおそらくアマチュアで腕前はあまり良くない人物を予定していたはずだ。常に両手のユニゾンで書かれている。チェロはあまり技術的に高くなく、しかも美味しいメロディをたくさん与える。依頼主の要求に応えるべく。本質的に最も難しく、技術も音楽も要求が高いのはコントラバスであろう。この演奏では、名前が書かれていない。大切な所だと思う。
遠慮会釈なくピアノが演奏しているような演奏(第2バイオリンに抜けてもらい、独奏者の少ないコントラバスと誰でも弾けるやさしいパートのピアノを呼んでくる)はまず考えられないが、第ピアニストのシュナーベルが引っ掻きまわして演奏している。下手や常識がないのではない。しかし、理由はここでは書かない。
2016-03-09:emanon
- ジョージ・セルはピアニストとしても優れた腕を持った人だったようです。この演奏では、セル独特の絶妙なバランス感覚が発揮されていて、今聴いてもまったく古臭い感じがしない立派なものです。H.タークィの「分析的演奏論」という著書によると、セルは、世界的なピアニストたちの代表団からピアノをやめてくれと懇請されたので、ピアノを断念したとのことですが、もしそれが事実だとすれば、とても残念なことです。
後年、セルはカサドシュとモーツァルトのピアノ協奏曲を録音していますが、それがもしセルの弾き振りだったら、一体どんな演奏になっていたでしょう。この演奏を聴いて、ふとそんなことを考えてしまいました。
点数は8点です。ライヴのため録音状態が良くないのが残念ですが、セルのピアノが聴けたことは貴重な体験でした。
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