ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60
フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル 1943年6月27〜30日録音
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60 「第4楽章」
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。
そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。
最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)
改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています。
やはり戦争中の録音は凄いなー!!
フルトヴェングラーの演奏に関しては大戦中のライブ録音を評価するのが一般的でした。しかし、戦後になされたスタジオ録音を素晴らしい音質で蘇らせてリリースする動きが最近になって目立ってきました。
とりわけ、52年の11月の下旬から12月の初旬にかけて集中的に録音されたベートーベンの交響曲は注目に値します。
52年11月24,25日:交響曲第6番「田園」
52年11月26,27日:交響曲第3番「エロイカ」
52年11月24,27,28日:交響曲第1番
52年12月1,2日:交響曲第4番
これだけ集中的に録音したのですから、それなりの準備と思い入れを持って取り組んだはずです。一般的にはそれほど評価の高くないスタジオ録音ですが、すぐれたCDで聞き直してみると全く別物のように聞こえるはずです。
等と書いていたのですが、こうして戦争中の録音を聞いてみると、「やっぱり、これは凄いなー!!」と思わざるをえません。とりわけ終楽章のたたみ込むような迫力はクライバーさんもびっくりです。
おそらく、クライバーの演奏はまともな時代に狂ってみせたものです。それに対して、フルトヴェングラーの演奏は狂った時代の中でその狂気から必死で抜け出そうともがいています。人間一人が狂ってもたかがしれていますが、時代と社会が狂うと本当に怖いです。
はてさて、そう考えると今の日本はどっち向いて進んでいるんでしょうか?あのボンボン顔を見ていると「ニッポン ヨイクニ ツヨイクニ。 セカイデ ヒトツノ カミノクニ」なんて言葉が聞こえてくるのはユング君だけ?
よせられたコメント
2011-02-15:nako
- 7番もそうですが、命をかけた演奏というのは、やはり重みがちがいますね。指揮者も演奏者たちも、「音楽の力」を、それがもたらす生きる喜びや夢や希望を、必死になって人々に?この場合は戦時下のドイツ国民ですが?に伝えようとしている、というかそれに徹した演奏だからこそ、60年以上たってもこれだけ人の心を打つのでしょう。
戦時中の演奏を聴くたびに、そういった演奏をした楽団員の何人が、ベルリンの大空襲を生き延びて、無事に終戦を迎えられたのだろうかと考えると、胸がいっぱいになります。ベルリン陥落の二週間前まで、彼らは演奏を続けていたと聞きました。フルトヴェングラーは無事スイスに脱出出来たわけですが・・・
2012-10-30:のん
- 第4番大好きです。明るくはつらつとした曲想がいいです。あと第2楽章の朗々としたところもいいです。こういう楽章はは他では2番と9番しかありません。実は私はカラヤンの演奏をよく聴いています。肩の力の抜けた、しかし芯のある名演だと思います。しかしフルトヴェングラーもいいですね。ベートーヴェンの表現したかったものを堂々と形にしていると思います。緊張感もすばらしく、ドイツの深い森をゆっくり通りぬけるような感じも受けます。
2022-10-28:joshua
- 芸術至上主義なんて言葉が要らないくらい、いい演奏は元気をくれます。夢中になるフルトヴェングラー、いいじゃないですかあ。今一瞬に入魂。アウトコースに外れても、その意気込みは伝わってくる。その時その一瞬は、演奏論なんぞ、とうに越えた生きることの証。だから、80年過ぎても元気がもらえるんです。
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