クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ワーグナー:「リエンツィ」序曲

ハンス・スワロフスキー指揮 チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1952年7月15日録音





Wagner:Rienzi Overture


ワーグナーの出世作

パリで不遇な時代を過ごしていたワーグナーが何とか成功を勝ち取りたいとの「鉄の意志」のもとに書き上げたのが「リエンティ」です。

実際、ビューローが「マイアベーヤの最後のオペラ」と称したように、華麗で豪華な作品に仕上がっています。
しかし、そのマイアベーヤの尽力があったにもかかわらずパリでの上演は成功せず、初演はドレスデンの歌劇場に行われることになります。

上演時間は6時間にも達するにもかかわらず(現在は整理がされて3時間半程度になっています)、この初演は熱狂的とも言える大成功をおさめ、無名のワーグナーを有名作曲家へと押し上げることになりました。

しかし、現在ではこれに続く「さまよえるオランダ人」と比べると評価は低く、編成の規模の大きさや上演時間の長さもあって歌劇場で上演されることはほとんどありません。
CDを探してみても、全曲録音されたものは地元ドレスデンの歌劇場のものをのぞけばほとんど存在しないのではないでしょうか。

そんな中で、この序曲だけはコンサートピースとしてよく演奏されます。
序曲はまずリエンツィが、民衆に革命を呼びかけるトランペットの動機から始まり、さらにリエンツィの祈りの歌「全能の天よ、護りたまえ」、リエンツィの雄叫び「聖なる魂の騎士」等が用いられていて、これを聴けば歌劇の全体が分かるという仕組みになっています。

ギリギリのラインを狙っている


ヨハン・シュトラウスのワルツなどを紹介したときにも感じたのですが、スワロフスキーという人にはウィーンの伝統を根っこにしっかりと保持しながら、その上でスワロフスキーならではの造形を見せてくれます。
その特徴は、同時代の巨匠たちのワーグナー演奏と較べてみればはるかに明晰であると言うことです。
クナッパーツブッシュのような有機生命体がのたうつような演奏は特別としても、それでも同時代の巨匠たちのワーグナー演奏は基本はその方向性にありました。ワーグナーが理想としたバイロイトの歌劇場のオーケストラピットは蓋で覆われているように、ワーグナーは自らの音楽は全ての楽器の響きが渾然一体となる事を望んでいたことは間違いありません。

それ故に、例えばセル&クリーブランドカンナの明晰きわまる演奏は、逆説的な言い方になるかもしれませんが、セルという男の徹底した主観性に基づいた演奏だと言えます。ただし、セルの音楽の根っこにはウィーンの伝統がありますから、その主観性は分かるべき事は熟知した上での造形でした。
同じようにドラティのワーグナーもまた精緻を極め、まるでワーグナーのミニチュア作品だと思ったものです。

しかし、スワロフスキーの明晰さはそう言う徹底したものではありません。
それはもう実に「いい案配」と言うべきか、セルのように光と影をクッキリと描き出して、細部の細部までさらけ出すような事はしなくて、その様な明暗に微妙な濃淡をつけることによってワーグナーの音楽が持つ重さとスケールの大きさを保持しています。

つまりは、ウィーンの劇場において「ワーグナーというものはこういうふうに演奏するものだ」という継承の枠の中に己を留まらせながら、その中でギリギリのラインを狙っているという感じなのです。
それはオケが馴染みのウィーン交響楽団ではなくてチェコ・フィルであっても同様です。

下手をすれば「中途半端」になる恐れがあるのかもしれませんが、私は十分に楽しんで聞くことができました。

よせられたコメント

2022-05-19:joshua


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-25]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K.159(Mozart:String Quartet No.6 in B-flat major, K.159)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-05-23]

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488(Mozart:Piano Concerto No. 23 in A major, K.488)
(P)マルグリット・ロン:フィリップ・ゴーベール指揮 パリ交響楽団 1935年12月13日録音(Marguerite Long:(Con)Philippe Gaubert The Paris Symphony Orchestra Recorded on December 13, 1935)

[2024-05-21]

ボッケリーニ:チェロ協奏曲第9番 G.482(Boccherini:Cello Concerto No.9 in B flat major, G.482)
(Cell)ガスパール・カサド:ルドルフ・モラルト指揮 ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団 1958年発行(Gaspar Cassado:(Con)Rudolf Moralt Vienna Pro Musica Orchestra Released in 1958)

[2024-05-19]

ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調 Op.78(Brahms:Violin Sonata No.1 in G major, Op.78)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1951年1月4日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on January 4, 1951)

[2024-05-17]

リスト:ペトラルカのソネット104番(Liszt:Deuxieme annee:Italie, S.161 Sonetto 104 del Petrarca)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-05-15]

サン=サーンス:ハバネラ Op.83(Saint-Saens:Havanaise, for violin & piano (or orchestra) in E major, Op. 83)
(Vn)ジャック・ティボー (P)タッソ・ヤノプーロ 1933年7月1日録音(Jacques Thibaud:(P)Tasso Janopoulo Recorded on July 1, 1933)

[2024-05-13]

ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437(Johann Strauss:Emperor Waltz, Op.437)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-05-11]

バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119(Bartok:Piano Concerto No.3 in E major, Sz.119)
(P)ジェルジ・シャーンドル:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1947年4月19日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Eugene Ormandy The Philadelphia Orchestra Recorded on April 19, 1947)

[2024-05-08]

ハイドン:弦楽四重奏曲第6番 ハ長調 ,Op. 1, No. 6, Hob.III:6(Haydn:String Quartet No.6 in C Major, Op. 1, No.6, Hob.3:6)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

?>