メンデルスゾーン:華麗なカプリッチョ ロ短調
(P)ゲイリー・グラフマン:シャルル・ミュンシュ指揮 ボストン交響楽団 1960年3月14日録音
Mendelssohn:Capriccio brillant for piano and orchestra, Op22
ウェーバーからの色濃い影響
1825年に作曲されていますから、メンデルスゾーンがわずか16歳の頃の作品です。
単一楽章で構成されているピアノと管弦楽のための協奏曲であり、その色彩感などからもウェーバーからの色濃い影響がみられると言われています。
もともとオーケストラというものはコレッリなどに始まる純粋器楽としての合奏体と、オペラの伴奏を務める合奏体としての二つの源流を持っていると言われています。そして、その二つの源流が密やかに融合して、さらに豊かな色彩感を持つようになっていく端緒を築いたのがウェーバーでした。
メンデルスゾーンはそう言う意味で、最初から古典派とは異なる新しい色彩感を求めた人であり、それが最も見事に開花したのが「夏の夜の夢」の序曲でした。
あの「序曲」はこの協奏曲の翌年に作曲されたもので、それこそはまさに新しい時代を切り開く豊かな色彩が溢れる世界でした。
この単一楽章からなコンチェルトはアンダンテで、アルペッジョの伴奏和音にのせて、親しみやすい優美な旋律がゆっくりと歌われていきます。そこに弦楽器の伴奏が加わって音楽はしだいに幅を広げていきます。
このあたり、聞いていて実に心地よくなりますね。
そして、音楽はアレグロ・コン・フォーコとなって、「カプリッチョ」に相応しい気ままで愉快な音楽へと姿を変えていきます。
独奏ピアノもオーケストラの軽快なリズムにのって、華やかで情熱的なソロを披露します。やがて、曲は行進曲調になり、爽快感あふれる主題がピアノと管弦楽で堂々と歌われます。
そして、最後は独奏ピアノの華やかな見せ場を用意して曲は締めくくられます。音楽の持つ楽しさを素直に享受できる作品です。
指がまわるだけでは駄目
この、どちらかと言えばマイナーな作品は同じ組み合わせによるショパンのピアノ協奏曲第1番とカップリングでリリースされました。まあ、悪く言えば「埋め草」と言えるのでしょうが、それでも、こういう形で録音が残ったことには感謝したいと思います。
この世界は何故か分かりやすくて楽しい音楽は軽く見られるという不思議な性向を持っています。それ故に、こういう作品が陽の目を見ることは少ないのですが、それがミンシュと若き気鋭のピアニストとの組み合わせで聞けるのですから感謝あるのみです。
以前にも少しふれたことがあるのですが、この頃のグラフマンは指のよくまわるひたすらな直進性だけが取り柄みたいなところがありました。それは、昨今あちこちで嫌になるほど聞かされる、ひたすら指だけ回る馬鹿ウマ若手ピアニストの嚆矢のように感じたものでした。
しかし、それがミンシュのような指揮者を相手にコンチェルトを演奏すると、そう言う雰囲気が一掃されています。
それは、この作品とカップリングされているショパンのコンチェルト聞いて驚かされたことでした。
そして、それはこのマイナーなメンデルスゾーンの「華麗なカプリッチョ」にもあてはまります。
メニューヒンは「ショパンを一つの画期としてピアノは文学的な楽器になった。」と語っています。
おそらくミンシュのような老練な指揮者と共演することで、指がまわるだけでは駄目なことを学び取ったのかもしれません。
よせられたコメント 2021-03-03:joshua Gary Graffman32歳の演奏、60年前。その名の通りbrilliantなメンデルスゾーンです。また、彼は存命でして、ルビンスタインやホルショフスキーを思わせる長命のピアニストです。60年頃、マウツジンスキよろしく、彼もBrahmsの1番をミュンシュと録っています。これがまた、(ミュンシュに煽られてか!?)なかなか熱い演奏です。その彼もフライシャーのように、右手の故障を煩い、「左手のピアニスト」の時期がありました。その師ホロヴィッツや、他方リヒテルは度々心を病みましたし、心身いずれに出てくるかは人それぞれのようです。immortalと呼ばれる名演奏とて、mortalな人間のある時期の記録にすぎない。いやいや、凡人のわたしには数週間の幸せを与えてはくれます。Munch ミュンシュと読むには、ウムラウトが必要ですが、通例見かけません。ドイツとフランスの国境を行き来したこの人の宿命か、本人も両方使っていたようです。有るときはカール・ムンク、フランスに帰化してはシャルル・ミュンシュ。英単語でも、マンチ munch「むしゃむしゃ食べる」があり、一字違いのmuchに「むしゃむしゃ」感を連想してしまいます。ヒマ人の連想です。
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