ベートーベン:序曲「コリオラン」
フルトヴェングラー指揮 ベルリンフィル 1943年6月30日録音
Beethoven:序曲「コリオラン」
序曲と言っても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作されたようです。
この作品はコリンの戯曲「コリオラン」に触発されて作曲したと言われています。
コリオランとは、プルータークの英雄伝に登場する紀元前5世紀頃のローマの英雄です。日本ではなじみのうすい名前ですが、ショークスピアも「コリオレナース」として戯曲化していて、西洋ではそれなりに有名な人物のようです。
ベートーベンはこの作品をコリンに献呈し、コリンもそれを喜んで受け入れながら戯曲の上演でこの作品が使用された形跡はありません。
しかし、ベートーベンにとっての序曲とは、一部を除けば劇やオペラとしての序曲と言うよりは、「演奏会用の序曲」として演奏されることが一般的でしたから、実際の戯曲の上演で演奏されなかったと言っても決して不思議なことではありませんでした。
つまり、「序曲」と名前はついていても、基本的にはコンサート用のプログラムとして創作された作品でした。
この作品を特徴づけるのは頻繁に登場する全休止で、ベートーベンらしいドラマティックな性格を与えています。そのため、ベートーベンの数ある序曲の中では最も早い時期から聴衆に受け入れられた作品となったようです。
表現は壮絶の一語に尽きます
この作品のドラマティックな性格はフルトヴェングラーにはピッタリだと思うのですが、何故か録音は少ないようです。
戦時中にはここでお聞きいただいている一種類しかないようです。
戦後のスタジオ録音(確か、EMIのブラームスの交響曲全集の埋め草として収録されていました)と比べると、表現は壮絶の一語に尽きます。まさに時代の証言者とも言うべき演奏です。
しかし、第二主題の優美さは戦後の演奏の方が優れているかもしれません。全体の立派さでも戦後のスタジオ録音の方が一歩上だと思います。
よせられたコメント
2012-12-11:チエ
- 「コリオラン」は9曲の交響曲と並ぶ傑作です。全篇にただよう悲壮感、緊張感に惹かれます。「レオノーレ」第3番はその輝かしさからアンコールなどでよく演奏されますが、私は、地味かもしれませんが「コリオラン」の短調の力強さも高く評価します。モーツァルトは長調の天才であり、ベートーヴェンは短調の天才であると思います。ぎゅっと音楽が凝縮されていて、1曲の交響曲を聴き終えたと同じ感動を味わえます。
2013-10-06:原 響平
- この演奏を最初に聴いたのは、1970年代に発売されたLPレコードです。当時の私の粗末なオーディオ装置でも、物凄い緊張感のある演奏で、クラシック音楽にのめり込むきっかけとなった演奏です。人間は、極限状態において、時として神を超えるような所業を残す事がありますが、戦時中のフルトベングラーの演奏は、どれも、それに値します。生きることへの、もがき苦しみを忠実に再現した演奏は、現代の平和で裕福な環境の中で育った人間には、絶対に再現できません。感情移入を極端に嫌う人がいますが、この演奏は、それを完全に凌駕するほどの演奏で、間違いなく歴史的名演奏です。
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