クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調 作品53

(Vn)イダ・ヘンデル:カール・ランクル指揮 ナショナル交響楽団 1947年1月録音





Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [1.Allegro ma non troppo]

Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53 [3.Allegro giocoso, ma non troppo]


何故かマイナーな存在です。

クラシックの世界では有名な作品は「メンコン・チャイコン」みたいに短縮してよばれることがあります。メンコンは言うまでもなくメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲のことですし、チャイコンはチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の事です。
同じように、「ドヴォコン」という呼ばれ方もあるのですが、こちらはヴァイオリンではなくてチェロ協奏曲のことです。

そうなのです、同じ協奏曲でもチェロの方はドヴォルザークと言うよりもクラシック音楽を代表するほどの有名作品であるのに、こちらのヴァイオリン協奏曲の方は実にマイナーな存在なのです。

ドヴォルザークはピアノ・ヴァイオリン・チェロのための協奏曲をそれぞれ一つずつ書いています。この中で、チョロの協奏曲が突出して有名なのですが、他の協奏曲もドヴォルザークらしい美しい旋律とファンタジーにあふれた作品です。確かに、ブラームスやベートーベンの協奏曲のような緻密で堅固な構成は持っていませんが、次々と湧き出るようにメロディがあふれ出してきて、それらが織物のように作品の中に織り込まれていく様は実に見事と言うしかありません。
英国近代音楽の父とも言うべき、サー・チャールズ・スタンフォードはドヴォルザークを評して「彼は考えるために立ち止まることをせず、思い浮かんだことをまず何よりも五線紙上で述べた」と語りましたが、まさにその言葉ピッタリの作品だといえます。

天性の「歌心」が宿っている


イダ・ヘンデルの事を「録音嫌い」と書いたのですが、実はそうでもなかったようです。とりわけ、戦後すぐの時期から50年代の初め頃に至るまでの「Decca」との関係は悪くはなかったようです。
何故ならば、彼女は結構な「愛犬家」で常に手もとに犬を飼い続けていたらしいのですが、そのワンちゃんの名前はいつも「Decca」だったそうです。実は、初めてDeccaと録音契約したときにスタッフからクリスマスに犬を贈られたそうです。そして、そのワンちゃんに彼女は「Decca」と名前を付けたのですが、それ以後は何代目になっても犬の名前はいつも「Decca」だったそうなのです。

ですから、彼女は必ずしも「録音嫌い」ではなかったようです。
そして、40年代に「Decca」で録音したメンデルスゾーンとドヴォルザークの協奏曲は、SP盤時代のものとは信じがたいほどの優秀録音なのです。さすがに、45年録音のメンデルソゾーンにはいささか苦しい場面もあるのですが、48年録音のドヴォルザークにはもはや声を失うほどの優秀録音です。

そして、演奏に関しても彼女が初めてプロムスでブラームスの協奏曲を演奏したときのことを思い出して語った「私は純粋に本能のままに弾きました。ブラームスを弾くのに必要なものは、持って生まれたこの本能です。」と言う言葉を思い出してしまいます。
おそらく、今のヴァイオリニストの耳からすれば技巧的には甘い部分は多々あることでしょう。
しかしながら、例えばメンデルそーんのような作品はいくら楽譜通りに正確に弾いてもどうなるものでもありません。そうではなくて、何よりもその作品に内包されている「歌心」みたいなものを己の心の底から表白しなければ決して聞き手を満足させることは出来ません。ですから、まず何よりも大切なことは、その演奏家の心の中に「音楽」があるかどうかです。

そして、イダ・ヘンデルというヴァイオリニストには、どうやら天性の「歌心」が宿っていたようなのです。
とりわけ、素晴らしいのはドヴォルザークの協奏曲の方でしょう。この作品はチェロの協奏曲と較べれば格段に知名度が落ちますから、名盤が目白押しのチェロ協奏曲とは大きく異なります。そして、数少ない録音を幾つか聞いてみても、何処かドヴォルザークならではの「歌」が十分に伝わってこない演奏が多いのです。

それに対して、このイダ・ヘンデルの演奏には、彼女の本能的に身にそなえた「歌」と、ドヴォルザークならではの希有とも言うべき「歌」とが見事に響きあって、「ああ、この協奏曲ってこんなにも素晴らしい作品だっただ」と言うことを初めて教えてもらったような気になりました。
また、いつもは気になる響きの線の細さも、何故かこの58年録音のドヴォルザークの演奏からは感じられません。おそらくは作品との相性の良さに加えて「Decca」録音の優秀さが大きく貢献したのでしょう。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-19]

ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調 Op.78(Brahms:Violin Sonata No.1 in G major, Op.78)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1951年1月4日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on January 4, 1951)

[2024-05-17]

リスト:ペトラルカのソネット104番(Liszt:Deuxieme annee:Italie, S.161 Sonetto 104 del Petrarca)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-05-15]

サン=サーンス:ハバネラ Op.83(Saint-Saens:Havanaise, for violin & piano (or orchestra) in E major, Op. 83)
(Vn)ジャック・ティボー (P)タッソ・ヤノプーロ 1933年7月1日録音(Jacques Thibaud:(P)Tasso Janopoulo Recorded on July 1, 1933)

[2024-05-13]

ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437(Johann Strauss:Emperor Waltz, Op.437)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-05-11]

バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119(Bartok:Piano Concerto No.3 in E major, Sz.119)
(P)ジェルジ・シャーンドル:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1947年4月19日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Eugene Ormandy The Philadelphia Orchestra Recorded on April 19, 1947)

[2024-05-08]

ハイドン:弦楽四重奏曲第6番 ハ長調 ,Op. 1, No. 6, Hob.III:6(Haydn:String Quartet No.6 in C Major, Op. 1, No.6, Hob.3:6)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

[2024-05-05]

スカルラッティ:20のソナタ集(4)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

[2024-05-04]

スカルラッティ:20のソナタ集(3)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1939年1月9日,11日&12日録音(Wanda Landowska:Recorded on January 9,11&12, 1939

[2024-05-03]

スカルラッティ:20のソナタ集(2)(Scarlatti:20 Sonates Pour Clavecin)
(Cembalo)ワンダ・ランドフスカ:1940年3月8日~9日録音(Wanda Landowska:Recorded on March 8-9, 1940)

?>