クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲 ロ短調 作品104

(Cello)ヤーノシュ・シュタルケル:アンタル・ドラティ指揮 ロンドン交響楽団 1962年7月6日~7日録音録音





Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [1.Adagio]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [2.Adagio ma non troppo]

Dvorak:Cello Concerto in B Minor, Op.104 ; B.191 [3.Finale. Allegro moderato]


アメリカとボヘミヤという異なった血が混じり合って生まれた史上類をみない美人

この作品は今さら言うまでもなく、ドヴォルザークのアメリカ滞在時の作品であり、それはネイティブ・アメリカンズの音楽や黒人霊歌などに特徴的な5音音階の旋律法などによくあらわれています。しかし、それがただの異国趣味にとどまっていないのは、それらのアメリカ的な要素がドヴォルザークの故郷であるボヘミヤの音楽と見事に融合しているからです。
その事に関しては、芥川也寸志が「史上類をみない混血美人」という言葉を贈っているのですが、まさに言い得て妙です。

そして、もう一つ指摘しておく必要があるのは、そう言うアメリカ的要素やボヘミヤ的要素はあくまでも「要素」であり、それらの民謡の旋律をそのまま使うというようなことは決してしていない事です。
この作品の主題がネイティブ・アメリカンズや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説が早い時期から囁かれていたのですが、その事はドヴォルザーク自身が友人のオスカール・ネダブルに宛てた手紙の中で明確に否定しています。そしてし、そう言う民謡の旋律をそのまま拝借しなくても、この作品にはアメリカ民謡が持つ哀愁とボヘミヤ民謡が持つスラブ的な情熱が息づいているのです。

それから、もう一つ指摘しておかなければいけないのは、それまでは頑なに2管編成を守ってきたドヴォルザークが、この作品においては控えめながらもチューバなどの低音を補強する金管楽器を追加していることです。
その事によって、この協奏曲には今までにない柔らかくて充実したハーモニーを生み出すことに成功しているのです。


  1. 第1楽章[1.Adagio]:
    ヴァイオリン協奏曲ではかなり自由なスタイルをとっていたのですが、ここでは厳格なソナタ形式を採用しています。
    序奏はなく、冒頭からクラリネットがつぶやくように第1主題を奏します。やがて、ホルンが美しい第2主題を呈示し力を強めた音楽が次第にディミヌエンドすると、独奏チェロが朗々と登場してきます。
    その後、このチェロが第1主題をカデンツァ風に展開したり、第2主題を奏したり、さらにはアルペッジョになったりと多彩な姿で音楽を発展させていきます。
    さらに展開部にはいると、今度は2倍に伸ばされた第1主題を全く異なった表情で歌い、それをカデンツァ風に展開していきます。
    再現部では第2主題が再現されるのですが、独奏チェロもそれをすぐに引き継ぎます。やがて第1主題が総奏で力強くあらわれると独奏チェロはそれを発展させた、短いコーダで音楽は閉じられます。

  2. 第2楽章[2.Adagio ma non troppo]:
    メロディーメーカーとしてのドヴォルザークの資質と歌う楽器としてのチェロの特質が見事に結びついた美しい緩徐楽章です。オーボエとファゴットが牧歌的な旋律(第1主題)を歌い出すと、それをクラリネット、そして独奏チェロが引き継いでいきます。
    中間部では一転してティンパニーを伴う激しい楽想になるのですが、独奏チェロはすぐにほの暗い第2主題を歌い出します。この主題はドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして op.82-1 (B.157-1)」によるものです。
    やがて3本のホルンが第1主題を再現すると第3部に入り、独奏チェロがカデンツァ風に主題を変奏して、短いコーダは消えるように静かに終わります。

  3. 第3楽章[3.Finale. Allegro moderato]:
    自由なロンド形式で書かれていて、黒人霊歌の旋律とボヘミヤの民族舞曲のリズムが巧みに用いられています。
    低弦楽器の保持音の上でホルンから始まって様々な楽器によってロンド主題が受け継がれていくのですが、それを独奏チェロが完全な形で力強く奏することで登場します。
    やがて、ややテンポを遅めたまどろむような主題や、モデラートによる民謡風の主題などがロンド形式に従って登場します。
    そして、最後に第1主題が心暖まる回想という風情で思い出されるのですが、そこからティンパニーのトレモロによって急激に速度と音量を増して全曲が閉じられます。



室内楽的な精緻さとハーモニーの美しさのようなものを求めている


気がつけば、長い間この録音をアップするのを忘れていました。そして、その理由は、シュタルケルがワルター・ジュスキント&フィルハーモニア管と録音をアップしたときにこんな事を書いてたからです。

振り返ってみると、シュタルケルのコンチェルトを一つもアップしていないことに気づきました。
と言うことで、50年代の後半を中心として、彼のコンチェルトの録音をまとめて聞いてみることにしました。
そして、そうやってまとめて聞いてみることで、何故に今でアップしていなかったのかを思い出しました。それは、かつて、彼がドラティ&ロンドン交響楽団と録音したドヴォルザークのチェロ協奏曲(1962年録音)を聞いた時に、つまらない!!と思ったからでした。
うーん、シュタルケルの演奏をつかまえて「つまらない」とは、なかなか思い切った発言だと思うのですが、確かにその時はつまらないと思ったのでした。そして、その時にそう思ったがゆえに、今に至るまで彼のコンチェルトは一つもアップしていないという仕儀に相成った次第なのです。
では、何処がつまらないのかと言えば、それもまた、今回あれこれの録音を聞いてみてありありと思い出すことができました。
一言で言えば、あまりにも大人しくとこぢんまりとした音楽になっているのです。
サン=サーンスのコンチェルトなんかはその典型で、オケの響きの中から前に出ようと奮闘しているのでしょうが、何故かチェロは最後まで埋没気味です。さらに、その響きにも、サン=サーンスならばほしいと思う「艶」や「色気」も希薄です。


つまりは私はこの作品にはある種の豪快さみたいなものを要求していて、それがあまりにも希薄なように思えたのでした。
しかし、あらためてこの録音を聞き直してみることによって、シュタルケルはこの協奏曲に「豪快」さなどは全くもとめていないことに気づきました。それでは、彼は何を求めたのかといえば、ある意味ではそれとは真逆の室内楽的な精緻さ、さらに言えばそれぞれの楽器がもたらすハーモニーの美しさのようなものを求めていることに気づかされたのです。
その典型的な部分が、最終楽章における、ソリスト(チェロ)とコンサートマスター(ヴァイオリン)によって醸し出される繊細なハーモニーの美しさでしょう。この様にソリストとコンサート・マスターがデュオを展開するというのは数ある協奏曲の中でも珍しい手法でしょうし、その手法が見事な成果を収めている場面でもあります。

しかし、そう言うことをはっきりと感じ取れるためには、再生システムに並々ならぬクオリティが求められるのです。
豪快さを前面に出している演奏ならばある程度はザックリとパワフルに鳴らせば、そこで奏者がやろうとしていることはそれなりに分かるのですが、それと同じようなやり方でこういう録音を再生すると、私が最初に書いたような間違い、「あまりにも大人しくとこぢんまりとした音楽」とか「オケの響きの中から前に出ようと奮闘しているのでしょうが、何故かチェロは最後まで埋没気味」という誤解を生んでしまうのです。
そして、そのことに気づけば、この演奏は必要にして十分なだけの「大きさ」も持っていることを納得するのです。

それにしても、この録音はシュタルケルのチェロが見事なことは言うまでもないのですが、それに応えて繊細なオーケストラのハーモニーをコントロールしたドラティの手腕と、その響きを見事にとらえた「Mercury」の録音陣の手腕も賞賛に値します。まずあるMercury録音の中でも出色の一枚でしょう。

よせられたコメント

2019-06-22:マルメ


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