クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:交響曲第8番 ト長調「夕」, Hob.I:8

マックス・ゴバーマン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1960年~1962年録音



Haydn:Symphony No.8 in G major, Hob.I:8 "Le Soir" [1.Allegro molto]

Haydn:Symphony No.8 in G major, Hob.I:8 "Le Soir" [2.Andante]

Haydn:Symphony No.8 in G major, Hob.I:8 "Le Soir" [3.Minuet - Trio]

Haydn:Symphony No.8 in G major, Hob.I:8 "Le Soir" [4.La Tempesta. Presto]


初期シンフォニーの最高傑作

ハイドンが活躍した時代も含めて、古典派の時代というのは基本的に「絶対音楽」の時代でした。そして、鳥の鳴き声や日の出などと言う情景を音楽で描写するのは、何かの行事などに供される機会音楽だけに限られていました。
ですから、厳格なソナタ形式で書かれている第4楽章に対して「嵐」というタイトルをつけて、独奏楽器群を見事に活用することで「夏の嵐」を描き出したことは注目に値します。

エステルハージ時代のハイドンを特徴づけるキーワードはおそらく「実験精神」だったはずです。
ハイドンにとってこの3部作を「交響曲」と認識していたかどうかは疑問は残るのですが、それでも、この三部作が何かの機会に演奏されることを念頭に置いて書かれた「機会音楽」ではないことは明らかです。

そう言う意味では、本来は描写音楽などは持ち込まれない絶対音楽の分野に「嵐」の場面を導入したのは、その様な実験精神の為せる技だったのではないでしょうか。
また、第1楽章の主題は、グルックのオペラ「大騒ぎ」で歌われる「たばこの歌」からとられています。「たばこの歌」は当時の人にとってはとてもポピュラーな音楽だったようなのですが、ハイドンはその主題を使ってシンフォニックな世界を作りあげているのです。

気楽な聞き手にとっては、それはお楽しみをもたらす「仕掛け」と映ったのでしょうが、その仕掛けには驚くべきハイドンの労作の冴えが光っているのです。

Hob.I:8 Symphony No.8 in G major "Le Soir"


  1. 第1楽章:Allegro molto
    ソナタ形式に基づく美しい構築美が生み出されています。

  2. 第2楽章:Andante
    独奏ファゴットと弦楽器だけで演奏されていく美しい音楽です。この静けさに満ちた音楽はまさに「夕」というタイトルに相応しい音楽です。

  3. 第3楽章:Minuet - Trio
    メヌエットはポリフォニックに、トリオはホモフォニックという対比が見事な楽章です。

  4. 第4楽章:La Tempesta. Presto
    ハイドンはこの楽章に「嵐」というタイトルをつけています。
    「夏の嵐」という情景を描写していくハイドンの腕の冴えには驚かされます。



ミュージカルの世界で人気を博してきたゴバーマンには明るく軽やかに振る舞うというスタイルが身にしみついていたのかもしれません


世間ではこれを、「現在のピリオド楽器演奏の原型ともいうべき、スリムで新鮮な演奏を繰り広げて」いると評しているのですが、それは少し違うような気がします。

おそらく、ピリオド楽器による演奏というスタイルがクラシック音楽の演奏史における一つの到達点だと信じている人にしてみれば、それは「褒め言葉」のつもりなのでしょう。
しかしながら、クラシック音楽の演奏史というのはそんなところを目指して「進化」していったわけではないのですから、少しでも「似た」ところがあれば、それを「現在のピリオド楽器演奏の原型」だと主張するのは我田引水が過ぎます。

このゴバーマンの演奏は、疑いもなくモダン楽器を前提とした解釈に基づく演奏です。
それは、例えば、ハイドンの初期の有名作である6番から8番の「朝」「昼」「夕」というタイトルの3部作あたりを聞くだけですぐに了解できるはずです。

あの交響曲はハイドンがエステルハージの宮廷に仕えて、はじめて侯からの依頼で作曲した3部作でした。
ハイドンはそこで、宮廷楽団の各奏者の腕前を披露するために、それぞれの楽器に独奏場面を用意しています。
ゴバーマンはその独奏場面において管楽器の美しさを存分に振りまいているのです。

この録音のオーケストラは「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」となっているのですが、これは疑いもなくウィーンフィルのメンバーも含んだ歌劇場のオケでしょう。
シェルヘンの場合は「ウィーン国立歌劇場管弦楽団」といっても怪しい部分も多くて、実際そのかなりの部分はフォルクスオーパーのオケであったことはよく知られているのですが、ここでは疑いもなくシュタッツオーパーのオケです。そして、この素晴らしい響きを聞く限りでは、ほとんどウィーンフィルのメンバーとニアイコールではないかと思われます。

こんなにもモダン楽器としての艶やかな美しさをふりまく演奏を「ピリオド楽器演奏の原型」などといわれるのは、到底納得行くものではありません。

おそらく、こういう演奏スタイルの背景には、彼が長年率いていた「ニューヨーク・シンフォニエッタ」というオーケストラが小ぶりな編成だったこと起因しているのかも知れません。
そして、それはミュージカル演奏のオケにおいても同様でしょう。

さらに言えば、長年ミュージカルという世界で人気を博してきたことが、音楽というものは重くてむっつりと演奏するのではなくて、明るく軽やかに振る舞うというスタイルが身にしみついていたのかもしれません。
ただし、それが「ポール・モーリア」とか「レイモン・ルフェーブル」のようなイージー・リスニング風の音楽にはならなかったのは、その根っこがクラシック音楽の世界に深く食い込んでいたからでしょう。

聞くところによると、「ポール・モーリア」とか「レイモン・ルフェーブル」のようなオケは、コンサートツアーなどが行われるたびに人を集めて編成されるようなので、そもそも「固有のオケの響き」などと言うものは存在しないとのことです。
そう考えれば、ゴバーマンが長年過ごしたブロードウェイの方がまだ音楽的だったのかも知れません。

そして、そんなゴバーマンが再びクラシック音楽の世界に帰ってきて最初に取り組んだのがハイドンの初期シンフォニーやヴィヴァルディの音楽だったというのは実に賢い選択肢だったと言えます。

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