クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

モーツァルト:交響曲第40番 ト短調 K.550

ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1966年2月16日録音



Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [1.Molto Allegro]

Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [2.Andante]

Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [3.Menuetto]

Mozart:Symphony No.40 in G minor, K.550 [4.Allegro assai]


これもまた、交響曲史上の奇跡でしょうか。

モーツァルトはお金に困っていました。1778年のモーツァルトは、どうしようもないほどお金に困っていました。
1788年という年はモーツァルトにとっては「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」を完成させた年ですから、作曲家としての活動がピークにあった時期だと言えます。ところが生活はそれとは裏腹に困窮の極みにありました。
原因はコンスタンツェの病気治療のためとか、彼女の浪費のためとかいろいろ言われていますが、どうもモーツァルト自身のギャンブル狂いが一番大きな原因だったとという説も最近は有力です。

そして、この困窮の中でモーツァルトはフリーメーソンの仲間であり裕福な商人であったブーホベルクに何度も借金の手紙を書いています。
余談ですが、モーツァルトは亡くなる年までにおよそ20回ほども無心の手紙を送っていて、ブーホベルクが工面した金額は総計で1500フローリン程度になります。当時は1000フローリンで一年間を裕福に暮らせましたから結構な金額です。さらに余談になりますが、このお金はモーツァルトの死後に再婚をして裕福になった妻のコンスタンツェが全額返済をしています。コンスタンツェを悪妻といったのではあまりにも可哀想です。
そして、真偽に関しては諸説がありますが、この困窮からの一発大逆転の脱出をねらって予約演奏会を計画し、そのための作品として驚くべき短期間で3つの交響曲を書き上げたと言われています。
それが、いわゆる、後期三大交響曲と呼ばれる39番?41番の3作品です。

完成された日付を調べると、39番が6月26日、40番が7月25日、そして41番「ジュピター」が8月10日となっています。つまり、わずか2ヶ月の間にモーツァルトは3つの交響曲を書き上げたことになります。
これをもって音楽史上の奇跡と呼ぶ人もいますが、それ以上に信じがたい事は、スタイルも異なれば性格も異なるこの3つの交響曲がそれぞれに驚くほど完成度が高いと言うことです。
39番の明るく明晰で流麗な音楽は他に変わるものはありませんし、40番の「疾走する哀しみ」も唯一無二のものです。そして最も驚くべき事は、この41番「ジュピター」の精緻さと壮大さの結合した構築物の巨大さです。
40番という傑作を完成させたあと、そのわずか2週間後にこのジュピターを完成させたなど、とても人間のなし得る業とは思えません。とりわけ最終楽章の複雑で精緻きわまるような音楽は考え出すととてつもなく時間がかかっても不思議ではありません。
モーツァルトという人はある作品に没頭していると、それとはまったく関係ない楽想が鼻歌のように溢れてきたといわれています。おそらくは、39番や40番に取り組んでいるときに41番の骨組みは鼻歌混じりに(!)完成をしていたのでしょう。
我々凡人には想像もできないようなことではありますが。

セル&クリーブランド管が生み出す響きが素の状態ですくい上げられている


スタジオ録音とは違うセルの姿が刻み込まれた幾つかのライブ録音を紹介してきました。
ライブであってもスタジオ録音とほとんど変わらないのがセルの姿です。
いや、ライブであってもスタジオ録音と変わらないほどの完成度を維持していたことが、このコンビの凄さだったのです。

ですから、時にはオケのバランスが崩れたり、さらにはホルンのソロが止まったりすると言うのはレアであり、レアであるがゆえに「貴重」な記録だったわけです。

このコンビを語る上で避けて通れないのが1970年の来日公演です。
このコンビに関しては、彼らの実演に接するまではこの国では多くの誤解があったことは事実です。
その「誤解」のあれこれを数え上げることはしませんが、そう言う「誤解」を綺麗さっぱり吹き飛ばしてしまったのが1970年の来日公演だったのです。

しかし、その来日公演があまりにも凄かったがゆえに、今度は逆に神話化されてしまうという「弊害」も生んだような気がします。
ですから、「常に完璧であったわけではない」セルの姿を紹介することは、少なからぬ意味があると考えた次第です。

実際、ホルンのソロが途中で止まってしまったブラームスの2番の録音を聞いたときは本当に驚いてしまいました。
セルとクリーブランド管でもこんなミスが発生するんだと言うことを見せつけられると、他人のミスをあげつらうような事を言ってはいけないという、人生訓的反省を呼び覚まされたものです。

そして、時にはセルが手綱を緩める事で響きが緩くなったり、時には内声部のパートが突出してバランスを崩したりする場面に出会うたびに、「そりゃぁ、人間だものな」と納得するのです。
しかし、それだけに、一発勝負のライブにおいてスタジオ録音の完成度と寸分違わぬほどの完成度見せつけるような録音に出会うと、あらためてこのコンビの「神話」が蘇るのです。

最近聞き直した中で特に凄いと思ったのが、このシューベルトの8番「未完成」と、モーツァルトのト短調シンフォニーです。
とりわけ、モーツァルトのシンフォニーはスタジオ録音の方もモダン楽器を使った演奏としては一つの頂点を示す録音でしたが、ライブでもその凄みは変わりません。

そして、スタジオ録音ではどこか不満が残る硬めの響きが、このライブの録音では見事にほぐれています。
そして、何よりもハッとするのは管楽器の響きの美しさです。

スタジオ録音ではただならぬ弦楽器群の響きのバックに退いた格好の管楽器が、ここでは充分に存在感を示していて、ハッとするほどに美しい場面を生み出しているのです。

また、「未完成」もセルらしい硬質の響きによる引き締まった造形が特徴的だったのですが、それとほぼ等身大の音楽がこのライブでも実現しています。
とりわけ、半音階転調を繰り返して光と影が微妙に交錯するシューベルト的な世界をこれほど緻密に描き出しているライブ演奏は滅多にありません。

定期公演のライブ録音ですから、録音クオリティ的には不満が残るのは事実です。
しかし、その反面として録りっぱなしの功徳みたいなものもあって、このコンビが生み出す響きが素の状態ですくい上げられています。
テープヒスはやや気にあるのですが、じっくりと耳を傾ける価値は十分にあります。

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