クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:チェロ協奏曲第2番 ニ長調 Hob.VIIb:2

(Vc)ヤノシュ・シュタルケル:カルロ・マリア・ジュリーニ指揮フィルハーモニア 1958年5月29~30日録音



Haydn:Cello Concerto No.2 in D major, Hob.VIIb:2 [1.Allegro moderato]

Haydn:Cello Concerto No.2 in D major, Hob.VIIb:2 [2.Adagio]

Haydn:Cello Concerto No.2 in D major, Hob.VIIb:2 [3.Allegro]


「三大チェロ協奏曲」の一つです。

色々な数え方はあると思うのですが、一般的にこのハイドンの作品と、シューマン、ドヴォルザークの作品を持って「三大チェロ協奏曲」と呼ばれるようです。確かに、そう呼ばれるだけあって、ハイドンの協奏曲作品の中でも最も充実した作品となっています。

この作品はエステルハージの宮廷楽団でチェロを演奏していたアントン・クラフトのために作曲されたと言われています。ところが、ハイドンの自筆楽譜が長らく不明だったために、クラフトの作品ではないかという「贋作説」が根強く主張されてきました。その主張の根拠は、この作品のあちこちに登場する重音奏法やハイ・ポジションの使用が時代の壁を越えているというものでした。
ところが、50年代に入ってウィーン国立図書館でハイドンの自筆楽譜が発見されることで、この「贋作説」は完全に否定されることになります。しかし、この長きにわたる贋作説によって、逆にハイドンの先進性が浮き彫りになる結果となりました。

彼の同時代の作曲家が誰もチャレンジしなかった先進的な技法を用いることで、チェロという楽器が持っている可能性と個性を存分に引き出して見せたのです。その意味で、この作品が「三大チェロ協奏曲」に数え上げられる理由があるのです。

「第1楽章:アレグロ・モデラート」

弦楽器を中心とした単純な伴奏音型の上でチェロが遺憾なくその名人芸を発揮します。この独奏チェロの魅力がこの楽章の魅力となっているのですが、その高度なテクニックがこの作品に対する「贋作説」の根拠ともなりました。

「第2楽章:アダージョ」

チェロは歌うことが得意な楽器なのですが、その魅力が存分に発揮されている楽章です。静かで美しい世界が展開されていきます。

「第3楽章:アレグロ」

この楽章もまた、チェロの名人芸が存分に発揮されています。しかし、第1楽章と異なるのは、その様な名人芸が非常に引き締まって緊張感溢れる世界の中で展開されていくところです。

響きが「苦い」


振り返ってみると、シュタルケルのコンチェルトを一つもアップしていないことに気づきました。
これはだめですね・・・。

と言うことで、50年代の後半を中心として、彼のコンチェルトの録音をまとめて聞いてみることにしました。
そして、そうやってまとめて聞いてみることで、何故に今でアップしていなかったのかを思い出しました。それは、かつて、彼がドラティ&ロンドン交響楽団と録音したドヴォルザークのチェロ協奏曲(1962年録音)を聞いた時に、つまらない!!と思ったからでした。
うーん、シュタルケルの演奏をつかまえて「つまらない」とは、なかなか思い切った発言だと思うのですが、確かにその時はつまらないと思ったのでした。そして、その時にそう思ったがゆえに、今に至るまで彼のコンチェルトは一つもアップしていないという仕儀に相成った次第なのです。
では、何処がつまらないのかと言えば、それもまた、今回あれこれの録音を聞いてみてありありと思い出すことができました。
一言で言えば、あまりにも大人しくとこぢんまりとした音楽になっているのです。
サン=サーンスのコンチェルトなんかはその典型で、オケの響きの中から前に出ようと奮闘しているのでしょうが、何故かチェロは最後まで埋没気味です。さらに、その響きにも、サン=サーンスならばほしいと思う「艶」や「色気」も希薄です。

この「埋没気味」という感じは62年録音のドヴォルザークの時にも強く感じた次第でした。
これがロストロ小父さんなんかだと、もっと豪快にオケを突き抜けてくるんですが、それと比べれば実に大人しくて慎ましやかなのです。
シュタルケルと言えばコダーイやバッハの無伴奏で聞かれるように「豪快」というイメージがあっただけに、その落差にしばし考え込んでしまいました。ただし、この時代を代表するチェリストには全て同じような不満は感じていましたから、それはそれで一つの時代の制約だったのかもしれません。(例:グレゴール・ピアティゴルスキー:シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団)

カザルスを別格とすれば、この時代のチェリストを後のロストロ小父さんと較べるのは根本的に間違っているのでしょう。

ただ、古い録音ではあるのですが、56年録音のドヴォルザークは、62年盤よりはチェロがしっかりと主張していますし、フィルハーモニア管の響きも実に立派ですし、それをグイグイ引っ張っていくジュスキントの指揮も見事なものです。この時代のフィルハーモニア管は疑いもなく世界のトップクラスに位置したオケでした。(本当は世界一!!と言いたいほどです)
ただ、それでも、このチェロの響きにはどこか違和感を覚えます。そう思ってネット上を眺めていると、この響きを「苦い」と評している人がいて、実に上手いこというものだと感心しました。今回聞いた中では、どれもこれもが「苦い響き」で、それが取りわけ似合わないのがサン=サーンスだったのかもしれません。

と言うことで、ここまで書けばシュタルケルを愛する人からは怒りの礫が跳んできそうなのですが、しかし、私は彼の独奏曲作品や室内楽作品の演奏は高く評価しています。ただ、不思議なくらいに彼のコンチェルト演奏は私にとっては相性が悪いのです。
ただし、そうやって聞き進んでいくうちに出会ったハイドンのコンチェルトなんかだと、ジュリーニ&フィルハーモニア管の響きが実に立派で、その響きに身を浸しているうちにオケが主役の「チェロ独奏付きの管弦楽曲」という風情になってきて、それはそれで悪くないという感じになってきます。もちろん、そんな言い方は、ソリストとしてのシュタルケルに対するなんの褒め言葉にもなっていないのですが・・・(^^;。

もちろん、最終判断は個々の聞き手の方にゆだねるべき問題ではあります。

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