クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ラヴェル:ツィガーヌ(音楽会用狂詩曲)

レナード・バーンスタイン指揮 (vn)ジノ・フランチェスカッティ ニューヨーク・フィル 1964年1月6日録音



Ravel:Tzigane(Rhapsodie de concert) M.76 [1-1.Lento, quasi cadenza]

Ravel:Tzigane(Rhapsodie de concert) M.76 [1-2.Moderato]


パガニーニよりも難しい音楽を書いてやる

ラヴェルという人は基本的に職人肌の人ですから、この作品もまたジプシーの音楽をもとにしたと言うだけでなく、ヴァイオリンという楽器の技巧を極限まで追求するような音楽に仕上がっています。ただ、彼の持ち味はピアノの方に相応しかったようで、例えば「夜のガスパール」のような具合に仕上がっているかと言われると少しばかり疑問は残ります。
聞いてみれば分かるとおり、ヴァイオリンのテクニックは存分に味わえるのですが、スイスの時計職人とも称されたラヴェルらしい味わいには乏しいような気がします。もう少し分かりやすく言えば、何となくラヴェルらしくない音楽に仕上がってしまってるのです。

ただし、冒頭の長いヴァイオリン独奏なんかを聴くと、ヴァイオリニストにとっては怖い音楽だろうな・・・とは思います。
ここで外したら目も当てられません。
その後は重音奏法は言うに及ばず、重音トレモロ、ハーモニクス(フラジオレット)等のオンパレードです。

おそらくこういう音楽を書こうとした背景には、パガニーニの影響(おそらく、カプリッチョ)があるだろうと推測されます。
そう言えば、「夜のガスパール」はバラキレフの「イスメライ」に対抗して、より華やかでより難しい音楽を書こうとしたものだと言われています。
ただ少しばかり違うのは。「夜のガスパール」がラヴェルの分身のような音楽になっているに対して、ツジガーヌの方は何となくラヴェルらしくないと思ってしまうのです。

なお、この作品は、本来はヴァイオリンとピアノ・リュテラルというジプシー音楽のための楽器で演奏されます。ピアノ・リュテラルは、どちらかと言えばチェンバロに似た音色を持っているので、これをピアノで伴奏すると少しばかり雰囲気が違ってしまうようです。
ただし、ピアノ・リュテラルなんて言う楽器は簡単には用意できませんから、一般的にはピアノで伴奏されます。

さすがにそれでは不味いとラヴェルも思ったのか、その後彼自身の手によって管弦楽伴奏にも編曲されています。そこでは、ピアノ・リュテラルのアルペッジョがハープに、同音の連打がピッコロなどのトリルなどに置き換えられていて、さすがラヴェルは上手いもんだと感心させられます。

不思議な男


バーンスタインとフランチェスカッティのコンビによる録音は以下の通りではないかと思います。オケは言うまでもなくニューヨークフィルです。


  1. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77 1961年4月15日録音

  2. シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 作品47 1963年1月15日録音

  3. ショーソン:詩曲 作品25 1964年1月6日録音

  4. ラヴェル:ツィガーヌ 1964年1月6日録音

  5. サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 作品28 1964年1月6日録音



聞いてみると、一番最初に録音したブラームスだけが明らかに異なっています。
バーンスタインに率いられたニューヨークフィルは元気にいっぱいに鳴り響いていて、彼らのマッチョな本質が前面に出てきています。しかし、それはソリストにとってはかなり困った話だったようです。
ソロ楽器がピアノであるならば、それはそれで「勝負したろか!」と大阪弁的雰囲気になることも可能でしょうが、ヴァイオリンではあまりにも分が悪すぎます。そして、フランチェスカッティというヴァイオリニストはそう言う分厚い響きを突き抜けてヴァイオリンを響かせるというタイプではありません。
どちらかといえば、オケは伴奏に徹してもらって、それを背景にして曲線を多用しながら美音で勝負するタイプです。

この若造との最初の録音では、その若造のペースでまんまとしてやられた、と言う思いがあったのではないでしょうか。
2回目からの録音では、明らかにオケが控えめにしか鳴っていません。録音の方も、ブラームスの方はこの時代のバーンスタインの特長である「録りっぱなし」の雰囲気が濃厚なので、非常に生々しい音に仕上がっています。しかし、63年のシベリウスの方では、そう言う録りっぱなしのままで
結果として、バーンスタインの美質がかなりの部分スポイルされているのですが、不思議なことに彼はそう言うことにはあまり頓着しないようなのです。おそらく、一仕事終わった後にはいつものように上機嫌で帰っていったような気がするのです。
そう言う辺りが、バーンスタインという男の不思議です。

ただし、結果として、仕上がった音楽としては圧倒的にブラームスが面白いです。ここでは、いつもダンディで涼しい顔をしている雰囲気のフランチェスカッティが結構ムキになってオケと勝負しています・・・と言うか、そうしないと自分の音がオケの中に埋没してしまう状態に追いやれています。
おそらくは、聞いている方は面白くても、やっている方にしてはたまったものではないと言うことだったのでしょう。

そして、シベリウスでは、その反動としてあまり面白くない演奏となったので、最後の顔合わせでは自分の土俵で勝負できるフランス音楽に絞り込んだと言うことなのでしょう。
これらは基本的にはオーケストラ伴奏付きのヴァイオリン曲ですから、自分の美質が遠慮なく発揮できます。
バーンスタインにしては、どう考えても面白くもない仕事だったと思うのですが、それでもやるべき事はきちんとやっておきましたという演奏になっています。当然の事ながら、それなりに完成度の高い演奏にはなっていても、ブラームスの時のようなエキサイティングなことにはなりようがありません。

そして、贅沢で我が儘な聞き手はそう言うことに不満を口にするのですから、なるほど芸術家というものは大変な仕事だと言わざるを得ません。

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-25]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K.159(Mozart:String Quartet No.6 in B-flat major, K.159)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-05-23]

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488(Mozart:Piano Concerto No. 23 in A major, K.488)
(P)マルグリット・ロン:フィリップ・ゴーベール指揮 パリ交響楽団 1935年12月13日録音(Marguerite Long:(Con)Philippe Gaubert The Paris Symphony Orchestra Recorded on December 13, 1935)

[2024-05-21]

ボッケリーニ:チェロ協奏曲第9番 G.482(Boccherini:Cello Concerto No.9 in B flat major, G.482)
(Cell)ガスパール・カサド:ルドルフ・モラルト指揮 ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団 1958年発行(Gaspar Cassado:(Con)Rudolf Moralt Vienna Pro Musica Orchestra Released in 1958)

[2024-05-19]

ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調 Op.78(Brahms:Violin Sonata No.1 in G major, Op.78)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1951年1月4日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on January 4, 1951)

[2024-05-17]

リスト:ペトラルカのソネット104番(Liszt:Deuxieme annee:Italie, S.161 Sonetto 104 del Petrarca)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-05-15]

サン=サーンス:ハバネラ Op.83(Saint-Saens:Havanaise, for violin & piano (or orchestra) in E major, Op. 83)
(Vn)ジャック・ティボー (P)タッソ・ヤノプーロ 1933年7月1日録音(Jacques Thibaud:(P)Tasso Janopoulo Recorded on July 1, 1933)

[2024-05-13]

ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437(Johann Strauss:Emperor Waltz, Op.437)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-05-11]

バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119(Bartok:Piano Concerto No.3 in E major, Sz.119)
(P)ジェルジ・シャーンドル:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1947年4月19日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Eugene Ormandy The Philadelphia Orchestra Recorded on April 19, 1947)

[2024-05-08]

ハイドン:弦楽四重奏曲第6番 ハ長調 ,Op. 1, No. 6, Hob.III:6(Haydn:String Quartet No.6 in C Major, Op. 1, No.6, Hob.3:6)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

?>