クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

バルトーク:管弦楽のための協奏曲 Sz.116

フリッチャイ指揮 ベルリン放送交響楽団1957年4月9&10日録音



Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [1st movement "Introduzione"]

Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [2nd movement "Giuoco delle coppie"]

Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [3rd movement "Elegia"]

Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [4th movement "Intermezzo interrotto"]

Bartok:Concerto for Orchestra Sz.116 [5th movement "Finale"]


ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽

 この管弦楽のための協奏曲の第3曲「エレジー」を聞くと、ハンガリーの大平原に沈む真っ赤な夕陽を思い出すと言ったのは誰だったでしょうか?それも、涙でにじんだ真っ赤な夕陽だと書いていたような気がします。
 上手いことを言うものです。音楽を言葉で語るというのは難しいものですが、このように、あまりにも上手く言い当てた言葉と出会うとうれしくなってしまいます。そして、この第4曲「中断された間奏曲」もラプソディックな雰囲気を漂わせながらも、同時に何とも言えない苦い遊びとなっています。ユング君はこの音楽にも同じような光景が目に浮かびます。

 バルトークが亡命したアメリカはシェーンベルグに代表されるような無調の音楽がもてはやされているときで、民族主義的な彼の音楽は時代遅れの音楽と思われていました。そのため、彼が手にした仕事は生きていくのも精一杯というもので、ヨーロッパ時代の彼の名声を知るものには信じがたいほどの冷遇で、その生活は貧窮を極めました。
 そんなバルトークに援助の手をさしのべたのがボストン交響楽団の指揮者だったクーセヴィツキーでした。もちろんお金を援助するのでは、バルトークがそれを拒絶するのは明らかでしたから、作品を依頼するという形で援助の手をさしのべました。
 そのおかげで、私たちは20世紀を代表するこの傑作「管弦楽のための協奏曲」を手にすることができました。(クーセヴィツキーに感謝!!)

 一般的にアメリカに亡命してから作曲されたバルトークの作品は、ヨーロッパ時代のものと比べればはっきりと一線を画しています。その変化を専門家の中には「後退」ととらえる人もいて、ヨーロッパ時代の作品を持ってバルトークの頂点と主張します。確かにその気持ちは分からないではありませんが、ユング君は分かりやすくて、人の心の琴線にまっすぐ触れてくるようなアメリカ時代の作品が大好きです。
 また、その様な変化はアメリカへの亡命で一層はっきりしたものとなってはいますが、亡命直前に書かれた「弦楽四重奏曲第6番」や「弦楽のためのディヴェルティメント」なども、それ以前の作品と比べればある種の分かりやすさを感じます。そして、聞こうとする意志と耳さえあれば、ロマン的な心情さえも十分に聞き取ることもできます。
 亡命が一つのきっかけとなったことは確かでしょうが、その様な作品の変化は突然に訪れたものではなく、彼の作品の今までの延長線上にあるような気がするのですが、いかがなものでしょうか。

多面的な複雑さへの共感


ハンガリという国はすぐれた指揮者を輩出しています。ざっと指を折っただけで、ライナー、セル、ショルティなどです。そして、その中にフリッチャイを数え上げることに異議を差し挟む人はいないでしょう。
そして、当然と言えば当然のことですが、彼らのレパートリーの重要な部分としてバルトークが位置づけられていたことに異議を申し立てる人はいないでしょう。

しかし、彼らの演奏するバルトークを聞いてみると、フリッチャイのバルトークはかなり土臭く感じます。
その違いは、たとえば、バルトーク晩年の名作である「管弦楽のための協奏曲」を聞き比べてみればよく分かります。セルもライナーも、明らかにバルトークがもっている「理知的」な部分を強調して音楽を構成しています。そして、そう言う理知的な部分を骨格に音楽を構成しようと思えば、オケの演奏精度を極限にまで引き上げて対応せざるを得ないのですが、彼らは時代の制約などは完全に吹き飛ばして、その難事を見事に成し遂げています。
ショルティが手兵のシカゴ響を使って80年代に録音した演奏などは、その延長線上における「極値」として記録されるべきものです。

それと比べると、フリッチャイのバルトークは随分ともっさりとしています。オケが「ベルリン放送交響楽団」や「RIAS交響楽団」ですから、シカゴ響やクリーブランドのオケのようなわけにはいかないことは分かります。しかし、重要なことはそのような外的条件にあるのではなく、音楽の作り方の根本的な部分で違いがあるように思えます。

その違いは、バルトークという人がもっている、一筋縄ではいかない多面的な複雑さに共感できるか否かです。

セルは明らかに共感していません。ですから、冗長に過ぎると言って終楽章でばっさりとカットを施し、「弱点の改善」を行った嘯いています。彼は、バルトークが本当は改善したかったように改めてやったので、これこそが正しいというスタンスをとっていたようです。セルはあの終楽章の「夜の歌」は理知的なバルトークにはふさわしくないと考えたのです。
ライナーやショルティは、さすがにそこまでの「暴挙」はしていませんが、それでも理知的なバルトークの音楽の精緻にして明晰な造形を際だたせています。

しかし、フリッチャイは、そう言う複雑さにココロからの共感を寄せています。ですから、バルトークの音楽が土臭くなればフリッチャイの音楽もためらうことなく土臭くなります、そこに、オケの至らなさも加わって、ますます土臭くなるのはご愛敬です。
しかし、フリッチャイはバルトークが内包している複雑さを鏡のように映し出して見せます。
ですから、どうか冒頭の部分だけを聞いて「こりゃ、駄目だ」と聞くのをやめるのではなく、出来れば一度は最後までおつきあいください。

セルやライナーのようなスタイリッシュで近代的なたたずまいとは異なる、もう一つのバルトーク像を体験することが出来るはずです。

よせられたコメント

2014-09-09:nakamoto


【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-05-25]

モーツァルト:弦楽四重奏曲第6番 変ロ長調 K.159(Mozart:String Quartet No.6 in B-flat major, K.159)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-05-23]

モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調 K.488(Mozart:Piano Concerto No. 23 in A major, K.488)
(P)マルグリット・ロン:フィリップ・ゴーベール指揮 パリ交響楽団 1935年12月13日録音(Marguerite Long:(Con)Philippe Gaubert The Paris Symphony Orchestra Recorded on December 13, 1935)

[2024-05-21]

ボッケリーニ:チェロ協奏曲第9番 G.482(Boccherini:Cello Concerto No.9 in B flat major, G.482)
(Cell)ガスパール・カサド:ルドルフ・モラルト指揮 ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団 1958年発行(Gaspar Cassado:(Con)Rudolf Moralt Vienna Pro Musica Orchestra Released in 1958)

[2024-05-19]

ブラームス:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番ト長調 Op.78(Brahms:Violin Sonata No.1 in G major, Op.78)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1951年1月4日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on January 4, 1951)

[2024-05-17]

リスト:ペトラルカのソネット104番(Liszt:Deuxieme annee:Italie, S.161 Sonetto 104 del Petrarca)
(P)チャールズ・ローゼン 1963年12月録音(Charles Rosen:Recorded on December, 1963)

[2024-05-15]

サン=サーンス:ハバネラ Op.83(Saint-Saens:Havanaise, for violin & piano (or orchestra) in E major, Op. 83)
(Vn)ジャック・ティボー (P)タッソ・ヤノプーロ 1933年7月1日録音(Jacques Thibaud:(P)Tasso Janopoulo Recorded on July 1, 1933)

[2024-05-13]

ヨハン・シュトラウス:皇帝円舞曲, Op.437(Johann Strauss:Emperor Waltz, Op.437)
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1962年録音(Jascha Horenstein:Vienna State Opera Orchestra Recorded on December, 1962)

[2024-05-11]

バルトーク:ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119(Bartok:Piano Concerto No.3 in E major, Sz.119)
(P)ジェルジ・シャーンドル:ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1947年4月19日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Eugene Ormandy The Philadelphia Orchestra Recorded on April 19, 1947)

[2024-05-08]

ハイドン:弦楽四重奏曲第6番 ハ長調 ,Op. 1, No. 6, Hob.III:6(Haydn:String Quartet No.6 in C Major, Op. 1, No.6, Hob.3:6)
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1931年12月2日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on December 2, 1931)

[2024-05-06]

ショーソン:協奏曲 Op.21(Chausson:Concert for Violin, Piano and String Quartet, Op.21)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッテ ギレ四重奏団 1954年12月1日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Guilet String Quartet Recorded on December 1, 1954)

?>