クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブルックナー:交響曲第7番 ホ長調

ハンス・ロスバウト指揮 南西ドイツ放送交響楽団 1957年12月27日&30日録音



Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第1楽章」

Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第2楽章」

Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第3楽章」

Bruckner:交響曲第7番 ホ長調 「第4楽章」


はじめての成功

一部では熱烈な信奉者を持っていたようですが、作品を発表するたびに惨めな失敗を繰り返してきたのがブルックナーという人でした。

そんなブルックナーにとってはじめての成功をもたらしたのがこの第7番でした。

実はこの成功に尽力をしたのがフランツ・シャルクです。今となっては師の作品を勝手に改鼠したとして至って評判は悪いのですが、この第7番の成功に寄与した彼の努力を振り返ってみれば、改鼠版に込められた彼の真意も見えてきます。

この第7番が作曲されている頃のウィーンはブルックナーに対して好意的とは言えない状況でした。作品が完成されても演奏の機会は容易に巡ってこないと見たシャルクは動き出します。

まず、作品が未だ完成していない83年2月に第1楽章と3楽章をピアノ連弾で紹介します。そして翌年の2月27日に、今度は全曲をレーヴェとともにピアノ連弾による演奏会を行います。しかし、ウィーンではこれ以上の進展はないと見た彼はライプツッヒに向かい、指揮者のニキッシュにこの作品を紹介します。(共にピアノによる連弾も行ったようです。)

これがきっかけでニキッシュはブルックナー本人と手紙のやりとりを行うようになり、ついに1884年12月30日、ニキッシュの指揮によってライプツィッヒで初演が行われます。そしてこの演奏会はブルックナーにとって始めての成功をもたらすことになるのです。
ブルックナーは友人に宛てた手紙の中で「演奏終了後15分間も拍手が続きました!」とその喜びを綴っています。

まさに「1884年12月30日はブルックナーの世界的名声の誕生日」となったのです。

そのことに思いをいたせば、シャルクやレーヴェの

「聞かせ上手な」なスキルが炸裂!!


ハンス・ロスバウトといえば「ゲンダイ音楽」のスペシャリストというのが一般的な評価です。しかしながら、「ゲンダイ音楽」ばかりを指揮していたわけではなくて、調べてみると「『ドン・ジョヴァンニ』全曲、『フィガロの結婚』全曲 ロスバウト&パリ音楽院管弦楽団(5CD)」なんぞと言う素敵なCDもあるようです。オペラではそれ以外にワーグナーのマイスタージンガーの録音も残っているようですし、ブルックナーのシンフォニーも数が残っています。
考えてみれば当たり前のことで、「ゲンダイ音楽」ばかりやっていて飯が食っていけるとも思えませんから、飯が食っていけるような音楽も演奏しないといけません。

それでは、そう言う評価の定まった「古典」を「ゲンダイ音楽」のスペシャリストが指揮するとどんな塩梅になるのでしょうか?
特に、今回紹介したブルックナーのシンフォニーなんかだと、まずはそういう興味がわくかと思います。実は私自身の興味も、その一点にありました。
そして、実際に聞いてみて、その興味は完全にはぐらかされました。

あまりにも当たり前の佇まいで、隅々まで交通整理の行き届いた演奏でした。
ココロの中では、マッド・サイエンティスト的な異常なブルックナーを期待したのですが、そんな期待はものの見事に裏切ってくれました。しかし、考えてみれば、それは至極当然のことなのだと言うことに、彼の一連のブルックナー録音を聞いていくうちに納得するものがありました。

「現代音楽」というのは「古典」となった音楽と比べればはるかに聞きづらい音楽です。
理由は二つあります。
一つは耳に馴染みがないと言うこと、もう一つは耳になじみやすくしようというサービス精神が最初から欠落していることです。
ですから、そんな音楽をそのまま投げ出すような演奏をすれば、誰も聞きには来ません。まあ、最初から客は入らないことは覚悟の上としても、それでも限度というものがあります。そうなれば、そう言う聞きにくい音楽を、少しでも聴衆の耳に届きやすいように音楽を整理して届ける技術が指揮者には求められるはずです。
そう言うスタンスは「芸術」を求める「作曲家」にとっては許し難いスタンスなのかもしれませんが、客商売の指揮者にとっては必須のスキルだったはずです。

そして、彼のブルックナー演奏を聴いて、そう言う「聞かせ上手な」なスキルがこれでもか!!と言うくらいに発揮されていることに気づかされました。

そう言えば、朝比奈もブルックナーの交響曲のことを最後の最後まで「訳の分からん音楽」だとぼやいていました。そして、朝比奈は、そう言う訳の分からない音楽を愚直なでに訳の分からないままに投げ出すように指揮し続けていました。
ロスパウトの音楽作りは、そう言う朝比奈のようなスタンスとは真逆の世界です。
彼は、そう言う訳の分からない部分を徹底的に整理し尽くして、何だか訳の分からないような部分は繋ぎに徹して実に速めのテンポであっという間に通り過ぎ、逆に聞かせどころで美味しい部分になるとグッと腰を下ろしてたっぷりと歌わせます。
そのギアチェンジの見事さには拍手を送りたくなるほどです。

ですから、ロスパウトのブルックナーは構築もしなければうねりもしません。当然のことですが宇宙も鳴動しませんし心もこもりきっていないように聞こえます。
しかし、聞き終わった後の心地よさはかなり上位にきます。古典的なシンフォニーを実に気持ちよく聞かせてもらったような心地よさが残ります。

しかしながら、世のブルックナー信者からは絶対に評価されない演奏スタイルであることも事実です。
私個人の評価としてはファーストチョイスにはならないでしょうが、癖にまみれたブルックナー演奏を浴びるほど聞いた後の解毒剤としては最良の一枚かと思います。

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