クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューベルト:交響曲8(9)番「ザ・グレイト」

エドワルド・フォン・ベイヌム指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団 1950年録音





Schubert:交響曲8(9)番「第1楽章」

Schubert:交響曲8(9)番「第2楽章」

Schubert:交響曲8(9)番「第3楽章」

Schubert:交響曲8(9)番「第4楽章」


この作品はある意味では「交響曲第1番」です。

天才というものは、普通の人々から抜きんでているから天才なのであって、それ故に「理解されない」という宿命がつきまといます。それがわずか30年足らずの人生しか許されなかったとなれば、時代がその天才に追いつく前に一生を終えてしまいます。

 シューベルトはわずか31年の人生にも関わらず多くの作品を残してくれましたが、それらの大部分は親しい友人達の間で演奏されるにとどまりました。彼の作品の主要な部分が声楽曲や室内楽曲で占められているのはそのためです。
 言ってみれば、プロの音楽家と言うよりはアマチュアのような存在で一生を終えた人です。もちろん彼はアマチュア的存在で良しとしていたわけではなく、常にプロの作曲家として自立することを目指していました。
 しかし世間に認められるには彼はあまりにも前を走りすぎていました。(もっとも同時代を生きたベートーベンは「シューベルトの裡には神聖な炎がある」と言ったそうですが、その認識が一般のものになるにはまだまだ時間が必要でした。)

 そんなシューベルトにウィーンの楽友協会が新作の演奏を行う用意があることをほのめかします。それは正式な依頼ではなかったようですが、シューベルトにとってはプロの音楽家としてのスタートをきる第1歩と感じたようです。彼は持てる力の全てをそそぎ込んで一曲のハ長調交響曲を楽友協会に提出しました。
 しかし、楽友協会はその規模の大きさに嫌気がさしたのか練習にかけることもなくこの作品を黙殺してしまいます。今のようにマーラーやブルックナーの交響曲が日常茶飯事のように演奏される時代から見れば、彼のハ長調交響曲はそんなに規模の大きな作品とは感じませんが、19世紀の初頭にあってはそれは標準サイズからはかなりはみ出た存在だったようです。
 やむなくシューベルトは16年前の作品でまだ一度も演奏されていないもう一つのハ長調交響曲(第6番)を提出します。こちらは当時のスタンダードな規模だったために楽友協会もこれを受け入れて演奏会で演奏されました。しかし、その時にはすでにシューベルがこの世を去ってからすでに一ヶ月の時がたってのことでした。

 この大ハ長調の交響曲はシューベルトにとっては輝かしいデビュー作品になるはずであり、その意味では彼にとっては第1番の交響曲になる予定でした。もちろんそれ以前にも多くの交響曲を作曲していますが、シューベルト自身はそれらを習作の域を出ないものと考えていたようです。
 その自信作が完全に黙殺されて幾ばくもなくこの世を去ったシューベルトこそは「理解されなかった天才の悲劇」の典型的存在だと言えます。しかし、天才と独りよがりの違いは、その様にしてこの世を去ったとしても必ず時間というフィルターが彼の作品をすくい取っていくところにあります。この交響曲もシューマンによって再発見され、メンデルスゾーンの手によって1839年3月21日に初演が行われ成功をおさめます。

 それにしても時代を先駆けた作品が一般の人々に受け入れられるためには、シューベルト〜シューマン〜メンデルスゾーンというリレーが必要だったわけです。これほど豪華なリレーでこの世に出た作品は他にはないでしょうから、それをもって不当な扱いへの報いとしたのかもしれません。

ベイヌムについて


メンゲルベルグの跡を継いでアムステルダムの首席指揮者に就任したのがベイヌムです。(正確に言うと、メンゲルベルグがナチスへの協力容疑で追放されたあとにコンセルトヘボウを引き継いだのがベイヌムです)
メンゲルベルグの片腕として戦前から地道な活動を続けていたベイヌムも50歳を目前にした時期でした。年齢から言っても、またコンセルトヘボウの体質から言っても長期政権が期待されていましたが、1959年に急死をします。リハーサルの最中に心臓発作で倒れるという劇的なものでした。

この急死はコンセルトヘボウにとっては予想もしない出来事であり、その後任として未だ20代のハイティンクが就任することになりました。キャリアらしいキャリアをほとんど持っていなかっただけに前途が危ぶまれたハイティンクですが、その後は「地位が人を作る」と言う格言通りにその大役を立派に果たし長期政権を築くことになります。
そんなわけでベイヌムという人は、メンゲルベルグとハイティンクという二つの長期政権に挟まれてしまったために、どうしても影の薄い存在となっています。

また、音楽自体も真に熟成するには時間が足りなかったようで、どこか不自然さがつきまとうのも事実です。
実際この演奏でも、冒頭の二本のホルンが思いの丈をこめて歌ったあと、突然我に返ったように走り出していきます。そして、その走り出した勢いで最後まで突っ走るだけに、あの冒頭のテンポは何だったんだ?と思ってしまいます。
全体としてみれば非常に引き締まった構成のしっかりした演奏を展開しているのですが、所々にへんてこりんな不自然さを感じるのは私だけでしょうか?

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