クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 , Op.67 「運命」

フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 1959年5月4日録音





Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [1.Allegro Con Brio]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [2.Andante Con Moto]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [3.Allegro]

Beethoven:Symphony No.5 in C minor, Op.67 [4.Allegro]


極限まで無駄をそぎ落とした音楽

今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。
クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。

交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。

この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803~4年にかけて創作されています。)

しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。

そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。

その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。

それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)

それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。

「苦」のない世界に「美」も「甘美」も存在しない


2021年の幕開けに何がいいのかと思案して選んだのがベートーベンの交響曲第5番でした。
2020年はおそらく世界史に刻み込まれることが間違いのない1年でした。もっとも、その一年が後世の人々からどの様に様に評価されるのかは分かりません。しかし、このパンデミックスが収束した後にそれまでと変わらぬ社会の有り様が復活するだけならば、それはこの上もなく「愚かな出来事」として記されるだろう事は確かです。

何故ならば、そう言う復活は、ベートーベン風に言うならば「暗から暗」への無反省な継続でしかないからです。このパンデミックスという大惨事をベートーベンが訴えたような「暗から明」に転換するためには「何をかけなければいけないのか」と言うことを必要な自分の問題として惹きつけて一人ひとりがじっくりと考え、そして何かの形でそれを行動へと移していくことが必要でしょう。

しかしながら、見通しは暗いですね。

10年前の東日本大震災の時に、「何かを変えなければいけない」と多くの人が考えたはずです。しかし、現実は何も変わることなく、それどころか、その時に「変えるべき対象」だと多くの人が思った数多くの理不尽と不合理はより再拡大し、再生産されていってしまったのです。
気づいてみれば、理不尽と不合理は放置され、それどころか、いつの間にか全てのことが市場原理にゆだねられる社会へと変化していってしまいました。その社会は人類がジャングルから初めてサバンナに進出したとき以上に危険な「弱肉強食」の世界です。
こんな現状を見ていると、あの大震災の時に言われた「絆」って何だったのかと暗澹たる思いにとらわれてしまいます。

そして、その「弱肉強食」の世界は、その世界の中で生き残ったものは己の才能と努力を誇示し、敗れ去ったものは己の無能と努力の足りなさに打ちのめされると言う、「底責任論」という忌むべき思想をより強固なものにしてしまいました。、
「自己責任論」が罪深いのは勝者がそれを称揚するだけでなく、敗者によっても補完されてしまうことです。
そして、その「弱肉強食」の理不尽と不合理はこのパンデミックスによってさらに凶暴な姿で牙を剥いたのです。

とは言え、生きると言うことは常にその様な不条理と向き合うことです。それはおそらくいつの世になっても変わらないでしょう。
釈迦は人が逃れられない苦しみとして「生老病死」の四苦をあげました。
その四苦の中に「生」、すなわち「この世に生まれてきたこと」を上げたの事こそが釈迦の慧眼でした。しかし、釈迦は同時に「この世界は美しい、人生は甘美である」とも言っています。

考えてみれば「苦」のない世界に「美」も「甘美」も存在しません。それは皮肉で残酷なパラドックスです。
そして、そのパラドックスを音楽というジャンルにおいてもっとも力強く表現したのがベートーベンでした。

このフリッツ・ライナーとシカゴ響による演奏に関しては何も付け加える必要はないでしょう。
細かい楽譜の話などはここでは必要はありません。私がベートーベンという男から受け取りたいメッセージが力強く伝わってくる演奏です。ただ黙して聞くのみです。

ただし、この録音をどうして今まで紹介していなかったのか我ながら不思議です(^^;。
ユーザーの方から指摘されて気がついたのですが、考えようによっては2021年という年が本当に「新しい第一歩」となれよと祈りを捧げるためには、もっとも相応しい「供物」になりうる演奏です。そんな「供物」を、神か仏かは分かりませんが、このパンデミックスの世界にこのサイトのために取り置いてくれていたのかもしれません。

よせられたコメント

2021-01-02:omori satoru


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