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モーツァルト:ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488


(P)アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ:フランコ・カラッツィオーロ指揮 ナポリ・スカルラッティ管弦楽団 1953年11月23日~24日 & 27日~28日録音


ヴェールをかぶった熱情

モーツァルトにとってイ長調は多彩の調性であり、教会の多彩なステンドグラスの透明さの調性である。(アルフレート・アインシュタイン)

モーツァルトは、k466(ニ短調:20番)、K467(ハ長調:21番)で、明らかに行き過ぎてしまいました。そのために自分への贔屓が去っていくのを感じたのか、それに続く二つのコンチェルトはある意味での先祖帰りの雰囲気を持っています。
構造が簡単で主題も明確、そしてオケとピアノの関係も常識的です。
事実、この作品で、幾ばくかはウィーンの聴衆の支持を回復することができたようです。

しかし、一度遠い世界へとさまよい出てしまったモーツァルトが、聴衆の意を迎え入れるためだけに昔の姿に舞い戻るとは考えられません。そう、両端楽章に挟まれた中間のアンダンテ楽章は紛れもなく遠い世界へさまよい出たモーツァルトの姿が刻印されています。
それは深い嘆きと絶望の音楽です。
ただし、そのようなくらい熱情はヴェールが被されることによって、その本質はいくらかはカモフラージュされています。このカモフラージュによってモーツァルトはかろうじてウィーンの聴衆の支持をつなぎ止めたわけです。
遠い世界へさまよい出ようとするモーツァルトと、ウィーンの聴衆の支持を引き止めようとするモーツァルト。この二つのモーツァルトの微妙な綱引きの狭間で、奇跡的なバランスを保って成立したのがこの作品でした。しかし、そのような微妙なバランスをいつまでも保ち続けることができるはずがありません。
続くK491(ハ短調:24番)のコンチェルトでモーツァルトはそのくらい熱情を爆発させ、そしてウィーンの聴衆は彼のもとを去っていきます。

どこかミスマッチなモーツァルト


後年、「氷の巨匠」とも呼ばれるようになった「アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ」の若き時代(28歳)の録音です。
若き時代にコルトーから「リストの再来」と言われたエピソードは有名ですが、私の聞くところでは(あまり当てにはならないのですが・・・)、彼の凄さはそう言うテクニック面での凄さではなくて、彼がイメージする氷のような精緻な姿を譜面から描き出すところにこそあるのだと思います。ですから、それはスコアに忠実という「即物主義」的な仮面をかぶりながらも、その音楽はきわめて「主観的」であり、その主観的なイメージを聞き手に納得させるために彼のテクニックは奉仕しているように聞こえるのです。

そう言えば、彼は大変な完璧主義者であり、その結果としての「キャンセル魔」であったのは有名な話です。そして、チェリビダッケほど極端ではないにしても「録音」という行為に懐疑的であったようで、70年代以降ににある程度まとまった録音を残すまではきちんとしたセッション録音は多くはありません。
今回、その様な録音嫌いだった若き時代の数少ないセッション録音を引き出してきたのですが、このモーツァルトに関しては、何故にこれを録音したのかと疑問に感じざるを得ません。
オケも指揮者も私の狭い知見の中では殆ど聞いたことのないものです。だからと言うわけでもないのでしょうが、48年に録音されたブゾーニ編曲のシャコンヌと較べてもかなり落ちます。周波数特性は間違いなくこちらの方がいいのですが、肝心の響きの美味しい部分がスポイルされているのです。
オケに関しては、もとからそれほど素敵な響きはしていなかった可能性も否定できないのですが、肝心のミケランジェリのピアノまでもがイマイチ冴えません。

さらに言えば、音楽をひたすら精緻に分析して完璧にそれを再現してもどうにもならない部分がモーツァルトにはあります。いや、逆に言えば、そう言うテクニックはモーツァルトには不要であって、大切なことはモーツァルトの音楽が要求する「ふわりとした人の営み」みたいなものが伝わってくることだと私は考えます。
つまり、モーツァルトの音楽の発想の根幹は器楽曲ではなくてオペラだと思うのです。そこで繰り広げられる、様々な感情を伴った人の営みを音楽的に昇華することこそがモーツァルトの音楽にとっては大切ではないかと思うのです。

その意味では、ミケランジェリ的なアプローチではどこかミスマッチが解消できず、本人もどこか消化不良のまま演奏を終えているよう聞こえます。これが「巨匠」となった後年ならば間違いなく録音の途中で「気に入らない」と言って二度と帰って来なかったように思うのですが、いかがなものでしょうか。

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