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モーツァルト:弦楽四重奏曲第1番 ト長調 「ローディ」 K.80(73f)

バリリ弦楽四重奏団 1955年2月録音

Mozart:String Quartet No.1 in G major, K.80/73f [1.Adagio]

Mozart:String Quartet No.1 in G major, K.80/73f [2.Allegro]

Mozart:String Quartet No.1 in G major, K.80/73f [3.Menuetto and Trio]

Mozart:String Quartet No.1 in G major, K.80/73f [4.Rondo]


最初の弦楽四重奏曲

ーツァルトの弦楽四重奏曲の中では若書きの孤立した作品ですが、「ローディ、1770年3月15日、晩の7時に」にきわめて正確にデータが記入されています。1769年から1771年にかけて行われた第1回目のイタリア旅行は、システィーナ礼拝堂では、門外不出の秘曲とされていた『ミゼレーレ』を聴いて暗譜で書き記したというエピソードが有名ですが、その他にも多くの実りがあった旅行でした。

特に、長期滞在したミラノでは、グルックの恩師と言われ、ヨハン・クリスティアン・バッハに影響を与えたことでも知られるジョヴァンニ・バッティスタ・サンマルティーニとその仲間達との交流は、若きモーツァルトに多くの印象を与えたようです。このサンマルティーニという作曲はは大変な多作家で、特に70曲をこえる交響曲は、短いオペラのシンフォニア(序曲)から、重々しい序曲と主題の展開を特徴とするウィーン古典派の交響曲へと変化してゆく時期の始まりを予告している・・・そうです。(聞いたことがないので、人の受け売りです^^:)

モーツァルトがこの最初の弦楽四重奏曲の楽譜に書き込んだ「ローディ」とはその長期滞在したミラノからの帰途に最初に宿泊した地です。ですから、この作品にはミラノでサンマルティーニとその仲間達の印象が色濃く反映した音楽になっているようです。
それ故に、モーツァルトにとってもこの作品はとても大切なものだったようで、この8年後のマンハイム・パリ旅行の時にも名刺代わりとしてこの作品を写譜させています。





バリリの矜恃が感じ取れる録音

ウェストミンスターレーベルと言えば、第2次大戦の傷跡が未だ生々しく残るウィーンに出かけていって積極的に録音活動を行った事で知られています。とりわけ、室内楽の分野においては、世界的にはそれほどメジャーではないものの腕前だけは確かだという演奏家を積極的に活用したことで多くの優れた録音を残しました。
これを口さがない連中は、「アメリカ資本が安い金で敗戦国オーストリアの優秀な演奏家たちを買いたたいて録音を残した」と言いますし、好意的に解する人は「ウィーンにたくさんの良い音楽家がいて、しかも、大戦の終わった後その人達の仕事がないのを見かねて、彼らを集めてプロデュースし、レコードを作った」とも言われます。
金儲けを目的にしてよい仕事などは出来るはずがないというのは、綺麗事のようでいて怖ろしいまでの真実ですし、逆に、いい仕事をしたいという理想だけでは経済活動としては成り立たないというのもまた真実です。
このウェストミンスターというレーベルが50年代を中心に優れた録音を多く残せた背景には、この二つが奇蹟のように両立できる時代背景があったからで、上の二つの物言いはどちらも「正しい」と言えば正しい指摘です。

それから、ついでながら一言付け加えれば、「戦後まもない、まだ古いウィーンの雰囲気が残っていた頃のウィーンの音を良音質で録音した」という言い方も良くされるのですが、これは厳密に言えば正しくはありません。
いや、少なくとも、私はその様に考えています。

これは、いわゆる「ウィーン風」の演奏スタイルがいつ頃生まれたのかというきわめて本質的な問いかけに発展するのですが、私などは、このウェストミンスターレーベルこそがこの「ウィーン風」の演奏スタイルを生み出したのではないかと考えています。

何故ならば、戦前のウィーンにおける録音を聞いてみると、いわゆる「ウィーン風」の演奏スタイルとは随分と雰囲気が異なっているからです。確かに、その多くがポルタメントを多用(乱用?)しているので情緒過多のように聞こえるのですが、音楽そのものの骨格は意外なほどにあっさりしています。
このあたりは、具体的な録音例をあげながら検証してみたとは思っているのですが、ここはそれに相応しい場ではないので、問題提起だけに留めておきます。

もちろん、何を持って「ウィーン風」というのかと言えば、これもまた統一的な見解があるわけではありません。
よく言われるのは、ウィンナーワルツなどにおける独特なリズムの崩し方ですが、それだけで「ウィーン風」になるわけでないことは明らかです。いわゆる「ウィーン風」というのはそう言う特徴のある演奏スタイルを採用していれば名乗れるような単純なものではなくて、ウィーンに根っこを持った演奏家達がアメリカ流の即物主義に対抗する基軸として生みだした新しい演奏スタイルがいわゆる「ウィーン風」の演奏ではなかったのかと考えるのです。
そして、その演奏スタイルの根っこは劇場的継承として受け継がれてきた「伝統」の中にあったことは間違いなのですが、そういう「伝統」という名の約束事をもう一度意識的に洗い出して、その中から即物主義に対抗できる「伝統」的な演奏スタイルを選び抜いて再構築したものがいわゆる「ウィーン風」の正体ではないのかと思うのです。

そして、そう言う「ウィーン風」の演奏スタイルを確立していく上で大きな役割を果たしたのがウェストミンスターレーベルではなかったのかと思うのです。この世界市場を相手にしたレーベルでの活動を通して、多くのウィーンの演奏家達がどうすれば自らのブランドを確立できるのかという試行錯誤を繰り返すことが出来たのです。
その意味では、とりわけ50年代を中心とした室内楽の分野でのこのレーベルの果たした役割はきわめて大きいと言わざるを得ないのです。

今回ここで紹介しているバリリ四重奏団の演奏を聴いてみると、モーツァルトのシンプルな初期作品であるからこそ、そう言う試行錯誤の到達点がよく分かります。
例えば、同時代の即物主義の権化とも言うべきアメリカのジュリアード弦楽四重奏団などと較べてみれば、明らかにファーストヴァイオリン主導であることははっきりと分かります。音楽の構造をがっちりと描き出すよりは、ファーストヴァイオリンがプリマとして魅力的な旋律を歌い、その他の楽器はそれをサポートしているように聞こえます。

そして、その事から導き出される第2の特徴は、アンサンブルの切れよりは響きの美しさを優先すると言うことです。縦のラインを揃えることによる切れ味の鋭さが時として響きをきつくすることがあるのに対して、バリリの場合は柔らかく艶やかな響きを失うことが絶対にありません。
そして、最後に気づくのは4つの楽器の対等性よりは、それぞれおの楽器に割り振られた旋律のラインの受け渡しをスムーズに行うことを優先していることです。

つまりは、これらを総合して見えてくるのは、構造よりは歌が優先するスタイルです。
ただし、バリリの場合はその歌に変な癖をつけることに関しては非常に禁欲的です。
このあたりは、ウィーンフィルのコンマスを核に結成されるエリート集団としての矜恃でしょうか。ですから、歌うことを優先しながらも、その歌が常に上品さを失わないのがバリリの真骨頂です。

なお、今回調べてみて気づいたのですが、ウェストミンスターレーベルはモーツァルトの弦楽四重奏曲をウィーン・コンツェルトハウス四重奏団やアマデウス弦楽四重奏団を使って51年から録音を開始しています。いわゆる「ハイドンセット」以降の有名作品はそれらの団体で録音していて、バリリは53年から残された作品を録音しているのです。53年と54年にはハイドンセットの14番とプロイセン四重奏曲の21番と22番を録音していて、続く55年には残された初期作品を一気に録音しているのです。
おそらく、55年にこれらの初期作品が一気に録音された背景には翌56年がモーツァルトの記念イヤーであったからでしょうが、どう考えてもそれほど楽しい作業ではなかったと思わざるを得ません。しかし、そうであっても、この残された録音は一連の初期作品を聞く上では今もって貴重です。
このあたりにも、ウィーンフィルのコンマスとしてのバリリの矜恃が感じ取れます。

この演奏を評価してください。

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