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ベートーベン:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調  「月光」 作品27の2

(P)ソロモン 1952年8月21日録音



Beethoven:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 op27-2 「月光」 「第1楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 op27-2 「月光」 「第2楽章」

Beethoven:ピアノソナタ第14番 嬰ハ短調 op27-2 「月光」 「第3楽章」


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おそらくはもっとも有名なピアノ曲の一つでしょうね。

幻想曲風ソナタと題したのはベートーベン自身であり、そこからはっきりと彼がこの作品にあたえようとした音楽的な方向性を見て取ることができます。
当時のベートーベンはこのピアノソナタという形式を使って様々なチャレンジを繰り返していましたが、これもまたそのようなチャレンジの一つであることは明らかです。

とりわけ作品1の方はソナタと言いながら一つもソナタ楽章を持たない作品で、どちらかと言えば即興曲のような雰囲気を持っています。またスコアを見てみると終結の縦線がないことから全曲が通して演奏されることを想定していたとも言えます。
その意味でも、この二つの作品が「二つの幻想ソナタ」ではなくて「幻想風ソナタ」となっていることも納得がいきます。

なお、あまりにも有名な月光ソナタですが、このネーミングはベートーベンが与えた物ではありません。後世ににとある詩人がこの作品の第1楽章を評して「ルツェルン湖の月光の波にゆらぐ小舟のようだ」と語ったことに由来します。

第1楽章
 アダージョ・ソステヌート 嬰ハ短調 2分の2拍子 三部形式
第2楽章
 アレグレット 変ニ長調 4分の3拍子 三部形式
第3楽章
 プレスト・アジタート 嬰ハ短調 4分の4拍子 ソナタ形式
私の友人はこの楽章を評して「月を見て狂った」と言いました。言い得て妙です。


静謐さに満ちたベートーベン

少しばかり調べたいことがあってCDの棚をゴソゴソと探し回っていると、奥の方からソロモンのセット物が出てきました。ソロモン・カットナーが本名ですから、ファーストネームで活躍したことになります。イチローみたいです。
そんなことはどうでもいいのですが、ふと、吉田大明神が彼のことを絶賛していたことを思い出し、さらには今まで一度も取り上げていなかったことを思い出し、調べ物は一時中断して彼の演奏を聴きなしてみることにしました。
ファーストインプレッションは「静謐」です。

特に、この有名な月光ソナタの第1楽章の静けさはただ者ではありません。私は遅いテンポ設定というのは基本的に好きではないのですが、ここでの遅いテンポは「緩み」や「硬直性」とは全く無縁です。吉田大明神がいみじくも述べているように、それは「歩みではなく流れ」そのものです。そして、その流れはこの上もなく静かで、そして緩やかなのです。

確かに、こういう月光ソナタは他ではちょっと聴けない類の物です。もしかしたら、アファナシエフが演奏したらこれに近い雰囲気になるかもしれないと「妄想」はするのですが、聞いたことがないので何とも言えません。とにかく、「力ずく」という言葉から最も遠いところで、この上もなく繊細で静けさに満ちたベートーベンを作り上げえいます。
よって、吉田大明神は彼に対して「今世紀は幾人かのベートーベンの名手を持ったが、ソロモンは、その中でも最高級、最上級にしか数えようのないピアニストである」と絶賛しているわけです。

しかし、私ごときがその評価に異を唱えるなどとは恐れおおいことなのですが、心のどこかに「でも、ベートーベンを聴くときのファーストチョイスじゃないよな」という思いはあります。何故ならば、私の中にはベートーベンの本質は「驀進」だと言う思いがあるからです。
第1楽章の静謐極まる雰囲気が全曲を支配しているのですが、それでも終結に向けて音楽は盛り上がりを見せます。しかし、その盛り上がりは極めて抑制されたクライマックスの中で幕を閉じます。

ホロヴィッツがこれを聴けばきっと「ふん!」と鼻で笑うでしょうね。
もちろん、両者の音楽に対するスタンス(哲学という言葉はホロヴィッツには似合わないので)は全く違いますからそれは当然のことなのですが、だからといって私はホロヴィッツの月光ソナタが効果だけを狙った質の低い演奏だとは思えません。
ソロモンのような上品な音楽は疑いもなく素敵な一級品ですが、そしてその事は認めながらも、しかし、そのような上品さだけが「一流」ではないと言うことだけは心にとどめておきたいと思います。
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